君と羽と空と海と

君と羽と空と海と

作者 kanimaru。

https://kakuyomu.jp/works/16818093083341446373


 天使のような羽を持つ死神ルイスと、彼に出会った少女優花の最期の五日間の物語。


 疑問符感嘆符のあとはひとマス開けるは気にしない。

 現代ファンタジー。

 生と死、愛と運命を扱い、読後に考えさせられる作品。

 儚くも切ない。


 主人公は、死神ルイス。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。涙を誘う型で書かれている。苦しい状況→さらに苦しい状況→願望→少し明るくなる→駄目になる。


 主人公のルイスは天使のような羽を持っているが死神であり、優花の最期の五日間を見守る役目を持っている。

 優花はルイスに「空を飛べるの?」と問いかけ、二人は屋上で毎日会話を交わすようになる。優花はルイスの羽に触れ、彼を天使だと信じている。

 優花の夢は雲の海を泳ぐこと。二人は共に空を飛び、雲の中を泳ぐ体験。「私の願いを叶えてくれた。ありがとうね、ルイ」どういたしましてと返すも、天使ではないと心で謝る。

 四日目、優花のいつもの綺麗な長い髪が短くなっていた。しかも、かなり乱雑に。青い目を持つ彼女。「お父さんもお母さんも日本人なのに。私が生まれて、二人は別れちゃったんだって。別れたら、私のホントのお父さんもいなくなっちゃって。お母さんは毎日、私のせいにして、怒鳴って、殴って、昨日、髪も切られた」

 優花は母から虐待を受けており、友達もなく、ルイスとの出会いが彼女の唯一の救いだった。

 五日目。「ルイは天使なんでしょ? 天使の力で、私を助けてよ」 助けを求める彼女に「僕は本当は、死神なんだ。死の運命にある人の、最期の五日間を見守るのが僕ら死神の役目なんだ」と応える。

 今日で死ぬことを悟った彼女はルイスに殺して、と願う。

「……できない、できないんだ。君のことが大好きなんだ。心から好きなんだ。そんな人を、僕は殺せない」

「ありがとうね、ルイ。五日間楽しかったよ。私も大好き」

 優花は屋上から飛び降り、自ら命を絶とうとする。ルイスは彼女を救い、一緒に空を泳ぐ。共に雲を泳ぎ、ルイスの羽が消えていく。いくつものタブーを犯したせいで自分も死ぬことを悟る。

「ありがとうね、私と仲良くしてくれて」

「きみの命を奪おうとした死神だよ」

「関係ないよ。死神だろうが天使だろうが人間だろうが、ルイはルイだよ」

 二人は互いに愛していると告げながら、雲の海から水の海へと落ちていった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまり

 一日目。天使のような白い羽を持つ死神ルイスと、青い目を持つ女子高生の優花が屋上で出会う。

 二場の目的の説明

 二日目。優花がもってきたお弁当を食べるルイス。お弁当のお礼に手の傷を直し、彼女の笑顔のためにタブーを犯す。

 二幕三場の最初の課題

 三日目。「雲の海を泳ぎたいの」彼女から夢を語られ、「雲の海、僕と泳ごう」と提案する。

 四場の重い課題

 一緒に雲の海を泳ぐ。くじら雲へ飛び込んでは飛び出す。また一緒に飛ぶことを約束する。

 五場の状況の再整備、転換点

 四日目。優花のいつもの綺麗な長い髪が乱雑に短くなっていた。運命を、神を恨む。彼女を抱きしめ、青い目のせいで、両親が別れ、本当の父親もどこかへ行き、母親から虐待されていると語る。「ルイがいなかったら私、ほんとに一人なの。だからルイが現れてくれて、友達になってくれて、本当にうれしかった」

 六場の最大の課題

 どうすればいいか悩むルイス。眠る彼女を美しさを見て、抑えてきた感情があふれる。絶対にしてはいけない禁忌。明日、殺さなくてはならない優花を、どうしようもなく愛してしまっていた。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返し

 五日目。「ルイは天使なんでしょ?天使の力で、私を助けてよ」彼女の言葉に困りながら、死の運命にある人の、最期の五日間を見守るのが僕ら死神の役目と告げる。彼女は死ぬことを悟り、殺してと懇願。君のことが大好きだから殺せない、と涙する。彼女は屋上から飛び降りる。 

 八場の結末、エピローグ

 ルイスは彼女を助け、約束どおり、一緒に空を泳ぐ。禁忌を犯したため、ルイスの翼が消えていく。二人は互いに愛していると告白し、共に海へと落ちていった。


 空が飛べる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関わり、どんな結末に至るか気になる。

 質問からはじまる書き出し。

 遠景で「空、飛べるの?」と投げかけられ、近景で、問いかけた相手を示し、心情で、そんあこという人間がはじめてで驚いてなにもいえなかったと語る。

 

 相手の彼女は「まるで小さな子どものようで、とても屋上で一人黄昏ていた高校生には見えない」と、幼く、一人。子供っぽくて寂しそうにみえる。

 主人公は、純白の白い羽を持っている。

 飛べると答え、本物の羽だ気付く少女は青い瞳をしている。


 主人公を天使と認識している彼女の名は優花。

 ハーフかしらんと思わせる。

「―――これでは業務をこなせない」なにやら、困った状況にあるのがわかる。おまけに指切りの約束までされるがまま。なんだかかわいそうに思えてくる。孤独で、特別な雰囲気のある二人に共感していく。


 長い文ではなく、こまめに改行している。句読点を用いた一文も

長くなく、短文と長文の組み合わせによるテンポの良い書き方で、感情を揺さぶってくる。動きで示されていて、読みがいがある。

 繊細で感情豊かな文体が特徴。ところどころ口語的。会話と描写がバランスよく配置され、情景を鮮明に伝えている。

 優花とルイスの感情が丁寧に描かれ、共感を呼ぶ。

 とくに優花の純粋さと、ルイスの葛藤が対比的に描かれているのが特徴で、物語に深みを与えている。

  五感を使った情景描写が豊かで、物語の世界に引き込んでいるところがいい。

 視覚は優花の蒼い瞳、純白の羽、夕日に染まるクジラ雲など、鮮やかな色彩が描かれている。空を飛ぶ、泳ぐところは素敵。

 聴覚は蝉の鳴き声、羽ばたきの音などが描写され、夏の情景が感じられる。触覚は優花の指の感触、羽に触れる感覚などが細かく描かれている

 嗅覚は弁当の豊かな匂いが描写。味覚は弁当の味を感じるシーンがある。でもあっさりしている。

 死神は食べれるけれど、食事を必要としないのかもしれない。あるいは、人間から食べ物をもらってはいけないのも禁忌なのかも。

 

 主人公のルイスの弱みは、彼が死神でありながらも優花に対して強い感情を抱いてしまうこと。

 彼は優花を愛してしまい、彼女を殺すことができないという葛藤に苦しんでいく。

「なんで、僕に対して疑問を持たないのだ。人間が決して持つことのない羽を持っているというのに」

 これまでの人間は、必ず羽のことを聞いてきたのだろう。

 同時に天使ですかと聞いた人もいたと考える。

 白い羽の人を見て、死神ですかとは、なかなか出づらい。

「天使でしょ? そんなに綺麗な羽があるんだもん」

 彼女の純粋さに、困惑し、興味を持ったのだろう。

 そもそも、死神はどういう人間に対して、最期の五日間をともにするのだろう。

 運命と神を恨むとあるので、少女の死はあらかじめ決まっていることだったのだろう。

 つまり、親の虐待により自殺する運命だった。

 そうした自殺する人の前に死神ルイスは現れては、魂をもらっていっていたのだと考える。

 自殺する人は、他人を恨み羨み世に絶望し、何もかも悲観して死んでいくと邪推すると、眼の前に羽がある人が現れても気にならないかもしれない。

 ルイス以外にも死神はいるのだろうか。本来は、優花を殺すことになっていたはず。突き落として魂を持って行く予定だったのか。 優花を好きになってしまっているけど、これまで女の子の前に現れたことはなかったのか。男ばかりだったのかしらん。

 

 そもそも、母親は子供のせいにしているけれども、母親が悪いと考える。結婚前かあとかはわからないけど、母親は二人の男性と付き合っていたのだろう。

 たとえば、好きなのは青い目の男だけど、結婚は無理そうだからと日本人の男性と結婚し、好きな人の子供を育てようと思っていたのかもしれない。でも産まれた子は青い目だったので、すぐ他の男との子だとバレてしまい、離婚。本当の父親の方に助けを求めたら逃げてしまったということかしらん。


 おそらく優花は、母からずっと虐待を受けていたはず。

 死神ルイスとはじめてあったとき、天使でしょといっているので、自分に救いが来たとおもっている気がする。

 このときに、「「ルイは天使なんでしょ? 天使の力で、私を助けてよ」と、なぜいわなかったのかしらん。

 髪を切ったのは母親なのか。クラスの子なのか。話の流れから、母だとは思うけれども、なにがあったのかしらん。ルイスの分の弁当を作ったことがバレて、男の影を感じ取って嫉妬し、髪の毛を切ったのかしらん。


 禁忌をおかしすぎると、羽が消えていく。

 もともと生えているわけではないのかもしれない。

 神様的ななにかが、羽を与えているのだろう。

 たとえば、死神は元は人間で、選ばれた魂が死神として業務を遂行しているとも考えられる。死神になる人は、叶えて欲しい願いがあって、そのために働いているのかしらん。

 ルイスが死神であることや、優花の家庭環境についてもう少し詳しく説明があると、さらに理解が深まるのではと考える。

 

読後、雲の海を泳いでいた二人が、本当の海へと落ちていく。手をつなぎはぐれないように。ルイスと優花の関係が繊細に描かれていて、感情豊かで美しい物語である。

 悲恋ではあるけれども。

 今度生まれ変わることがあるのなら、二人が幸せになることを願う。

 

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