光台高等学校文芸部

光台高等学校文芸部

作者 家猫のノラ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081703827842


 七歳のとき、二階建ての建物から人が落ちるのを目撃した雲瀬糸は横浜市にある光台高等学校の文芸部に所属し、部員たちとヤギ失踪事件を解決し、八年前に行方不明となった夏目慶一の事件を調べ、文芸部顧問の科学教師、布留川先生が自殺した夏目の遺体を遺棄した犯人だと突き止める話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。

 現代ドラマ。

 ユーモアもあり、キャラクターの個性やミステリー要素が魅力的な作品。


 主人公は、横浜市にある神奈川県立光台高等学校の文芸部に所属する女子高生一年、雲瀬糸。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の雲瀬糸には、十歳上の従兄がいる。主人公が七歳で従兄が高校生のとき、野球部のエースだった。だからよく試合を見に行っていた。ある日の試合後、両親とはぐれたとき、二階建ての建物から人が落ちるのを目撃する。その後、光台高等学校二年生の夏目慶一が行方不明になったと発表された。

 八年後。雲瀬糸は、横浜市にある光台高等学校の文芸部に所属する女子高生。ある日、部員たちが集まる文芸部に二年六組の日下部先輩が現れ、黙って学校で飼っていたヤギのメイがいなくなったと訴える。文芸部のメンバーは、メイを探すために協力することに。捜索中、桜の木のある校舎裏で掘り返された土を発見。下駄箱で怪しい手紙を見つける。手紙には「お前のヤギは生贄となった」と書かれており、文芸部はこの謎を解明しようとする。

 文芸部のメンバーはファミレスで、オカルト研究部(オカ研)に潜入する計画を立てる。目だし帽を被り、オカ研の部室に潜入するが、鍵がダイヤル式になって入れない。そこで黒木先輩に見つかる。黒木先輩は彼らの行動を許し、部室内での調査を許可する。調査中、ビーカーが割れ、砂が散乱する事件が発生。調査を続ける中で、段ボール箱の中に骨が見つかるが黒木は見覚えがないという。

 部屋をあとにする文芸部員。一時間後、は用具室を開ける人影をとらえ、駆けだす。用具室でヤギのメイが発見され、オカ研の一年生、翔がヤギを隠していたことが判明。矢野翔は矢野光の弟。勉強しかしてなかった兄が、高校生になってオカルト研究部に入部しオカルトにのめりこんだ結果、成績はガタ落ちし、二年生で受けた模試も酷い結果となり、母は毎晩腹を立てた。翔はレベルの低い高校へ行くつもりだったが、母はそれを許さず、勉強の末、光台高校へ入学。翔は高校三年間をオカ研への嫌がらせに費やそうと今回の計画を立てたと語る。黒木先輩との対話を通じて心を開く。メイは元気な姿で日下部先輩に返されるが翌日、メイが近所の牧場から脱走した子ヤギであることが判明。メイは牧場に返される。

 最後に、文芸部はオカ研でみた骨を前にして、人間の骨だと語る。翔の話では、桜の木の下で発見し、はじめはキョンの骨だと思ったという。

 主人公は骨を前にして、過去のトラウマを語り始める。

 雲瀬糸が七歳のとき、野球部のエースだった従兄の試合をよく見に行っていた。試合後、両親とはぐれたとき、二階建ての建物で人が落ちるのを目撃。その後、調べてみたけど、大怪我や志望の情報はどこにもなかった。ただ、『光台高等学校、二年生。夏目慶一。178センチ、75キロ。行方不明』の記事を見てから、彼が存在していたことを証明する使命を背負った。

 文芸部で糸が話を終えると、部員たちは静まり返る。夏目慶一の行方不明事件が連続強盗事件の影響で捜査されず、高校生の家出として片付けられたことが明らかになる。星名は糸の行動に疑問を呈し、警察に通報すべきだと主張するが、糸は過去に警察に言っても取り合ってもらえなかったと説明する。

 春崎先輩が糸に昔話をする。彼は転校してきたばかりで、クラスメイトから文樹と木暮に近づくなと言われたが、二人に興味を持ち、仲良くなる。二人は過去にいじめを告発したが、その結果クラスが荒れたことを知る。

 糸は星名に、自分たちが一般的な感覚から外れていることを認めるが、それでも自分たちの決断を尊重してほしいと伝える。星名は協力しないが、糸の決意を認める。

 糸は夏目さんが生きているのか亡くなっているのかを考える。彼の骨が白骨化する時間や、死因について推測する。翔が見つけた骨が移動されたことから、誰かが関与していると考える。

 糸は放課後、星名以外の文芸部員と化学室に集まる。八年前、現在も学校にいる可能性のある人物は、科学教師で文芸部顧問の布留川先生しかいない、唯一の容疑者であることが明らかになる。化学室で脚のない骨格模型を見つけ、驚愕する。

 考え事をしていた糸は階段から落ち、保健室で目を覚ます。保健室の先生と話し、彼女も過去に大好きな先輩を亡くしたことを知る。糸は自己紹介シートを見て、細井先生が光台高等学校出身であることを確認する。

 一週間後、糸は部室に戻り、部員たちに布留川先生に会いに行く決意を話す。桜の木の下で布留川先生と対面し、夏目さんの死因が事故であることを確認する。布留川先生は、夏目さんの死因が事故であることを認め、自分が彼を埋めたことを告白する。当時、可愛いペンの連続窃盗事件が起きていて、犯人は慶一の好きな子だった。犯人が浮上したとき、慶一はやめようとしたが布留川はそうしなかった。次の日、身だしなみを整えた慶一は『屍体は桜の樹の下にでも埋めてくれ。きっと綺麗な桜が咲くだろうから』と言い、ベランダに出て転落した。布留川で立つことになってしまった。先生は桜の樹の下に埋めた。八年して、ヤギの嗅覚で土を掘り返そうとされた。

 足の骨を矢野翔がみつけて持っていってしまい、残りの骨を科学汁へと移動させた。

「少なくとも死体の遺棄は法律で裁くことができる。自首するよ。桜はもう見たから」自首する決意をする先生に、細井先生と話すように勧める。「細井先生は『大好きな先輩が死んじゃった』って言ってました。どこまでかは分かりませんが勘づいていると思いますよ」

 そして最後に、あの日、はぐれた自分を両親のもとにつれていってくれてありがとうございましたと礼を述べる。

 文芸部は部誌の締め切りに追われている。事件に解決はなく、どんな結末も傷つく人を生む世界で、それぞれの居場所を生み出しながら朝を迎えるのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりは、主人公の雲瀬糸、夢と現実。横浜市にある県立光台高等学校に通っている一年生。

 二場の目的の説明は、二年六組日下部先輩は文芸部に、二週間前に見つけ無断で学校で飼っていた野良ヤギがいなくなったので探してほしいと頼みにくる。

 二幕三場の最初の課題、桜の樹の下で掘り返したあと。下駄箱には『お前のヤギは生贄となった』と書かれた紙をみつける。ファミレスで話し合い、オカルト研究部に行くことにする。

 四場の重い課題、オカ研を訪ね、怪しげな骨を見つける。その後、用具室でヤギをかくまっていたオカ研一年の矢野翔を見つける。兄がオカルトにのめり込んだために成績が落ちたことから、オカ研に嫌がらせをするための行動だったとわかる。ヤギは日下部先輩のもとに戻るも、ヤギ本来の飼い主が見つかり返される。だが、見つかった骨は人骨だとわかる。

 五場の状況の再整備、転換点では、主人公が七歳のとき、二階建ての建物から転落するのを目撃。夏目慶一が行方不明となったニュースから、彼の存在を証明する使命を負った。

 六場の最大の課題、春崎先輩の語る昔話をきく糸。のり気じゃない星名には、自分たちが一般的な感覚から外れていることを認めつつ、それでも尊重してほしいと伝える。協力しないけれど、糸の決意を認める。糸は夏目さんが生きているのか亡くなっているのかを考える。彼の骨が白骨化する時間や、死因について推測。誰かが関与していると考える。八年前、現在も学校にいる可能性のある人物は、科学教師で文芸部顧問の布留川先生しかいない、唯一の容疑者であることが明らかになる。化学室で脚のない骨格模型を見つけ、驚愕する。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返しでは、考え事をしていた糸は階段から落ち、保健室で目を覚ます。保健室の先生と話し、彼女も過去に大好きな先輩を亡くしたことを知る。自己紹介シートを見て、細井先生が光台高等学校出身であることを確認。一週間後、糸は布留川先生に会いに行く。桜の木の下で布留川先生と対面し、夏目さんの死因が事故であることを確認。布留川先生は夏目さんの死因が事故であることを認め、自分が彼を埋めたことを告白。自首する決意をする先生に、養護教諭の細井先生と話すように勧める。最後に、七歳のあの日、はぐれた自分を両親のもとにつれていってくれてありがとうございましたと礼を述べる。

 八場の結末、エピローグは、ヤギのメイの親から作られたヤギミルクソフトクリームは絶品。いつかメイも作れるようになると日下部先輩はいう。矢野兄弟は母親に隠れてオカ研に出入りし、布留川先生と細井先生は学校を去った。文芸部は、部誌の〆切に追われている。どんな結末も傷つく人と居場所を生み出しながら、朝を迎えていくのだった。。


 人が落ちていく謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 朝を迎える書き出しと、朝を迎えていく結末がうまくつながっているところが良い。いい作品は、結末と書き出しが繋がるように書かれているものだ。

 遠景は『あ』からはじまる。とても意味深。興味が惹かれる。

 近景で、人が落ちていくと示され、心情で地面は堅いから、死んじゃうと述べられている。

 その様子を具体的に、情景が目に浮かぶように、動きを示しながら感情を添えて。

 かわいそうに思える状況に共感し、目覚ましのタイマーで打ち切られる。

 夢から覚めた現実。いまがいつなのか、どんな状態なのかを描きながら、主人公がどういう子なのかをほのめかす情報をまぜて朝が来る。

 導入は客観的状況で描かれ、本編である次からは、舞台が光台高等学校へと入っていく。


 本作には登場人物が多い。文芸部員だけでも六人いる。

 部長の文樹先輩、木暮先輩、春崎先輩。二年生が三人。「うちの一名居候」とはなんだろう。「内、一名は居候」という意味かしらん。

 相談に来た二年六組の日下部先輩。

 一年生は、主人公の糸、星名、世羅の三人。

 オカ研は、黒木先輩、矢野兄弟。

 化学教師の布留川先生と養護教諭の細井先生、夏目慶一。

 単純に十三人登場している。それぞれのキャラクターを深く描くには、それなりの文字数が必要になっていくる。布留川先生と養護教諭の細井先生も早めに登場させて起きたいところ。

「私がなんとか説得し、保健室に連れて行った。保健室の先生には突然過呼吸を起こしたと伝え、彼女を預ける」と、細井先生は登場している。名前を出してもよかったかもしれない。

 

 長い文にはせず、数行で改行。句読点を用いて一文は長くしないようにしている。やや長いところがある。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、軽快で読みやすい。会話が多く、キャラクターの個性が出ていて、やり取りが自然で親しみやすい。時折感情的な描写が強調される。 

 ユーモアが効果的に使われていて、物語に軽やかさを出している。

 ミステリー要素が強く、謎が次々明らかになり、引き込む展開が続くのがいい。過去と現在が交錯する構成、謎解き要素、登場人物の心理描写が豊富。過去と現在が交錯する構成が物語に深みを与えているところがいい。

 五感描写に関しては、視覚、聴覚、触覚がよく描写されている。

 視覚は、汗で濡れたパジャマ、風になびくカーテン、モビール、制服などの描写がリアルで、読者に情景を鮮明に伝えている。目だし帽、泥まみれのジャージ、濁った水晶玉、大小さまざまな砂時計、二階建ての建物、人が落ちる様子、血が流れる場面などが詳細に描かれている。

 聴覚は、ピピピピという目覚まし時計の音、運動部の掛け声や歓声などが場面の臨場感を高めている。廊下を走る音、叫び声、ビーカーが割れる音など効果的に使われ、人の声、階段を登る音、空気の漏れる音などが描写されている。

 触覚は胸を掴む感覚、汗で濡れたパジャマの感触など動作を交えた描写が、主人公の緊張感や不安を伝えている。泥まみれのジャージ、ガラス片、砂など、階段を登る感覚、頭に保冷剤を当てられる感覚などが描かれている。

 嗅覚はない。

 味覚は、ファミリーレストランでの食事シーンで、ピザやスパゲッティの味が想像できるが書かれていない。ヤギミルクソフトクリームは絶品、と味が描かれている。

 嗅覚や味覚に関する描写を増やすと、臨場感が出ると考える。


 主人公の弱みは、過去のトラウマや不安を抱えていること。

 幼少期のトラウマに囚われており、自分が夏目慶一の存在を証明しなければと使命感にかられているため、自分の行動が他人を傷つけることに気づかないばかりか、真実を追求するあまり、周囲との関係が悪化することも疎かになるところがある。

 春崎先輩が語った、木暮先輩と文樹先輩の話は、主人公がやろうとしていることと同じだと教えたかったのだろう。

 星名に「自分勝手だけど、それを認めてほしい。私はこの謎に憑りつかれてしまったから」と話すのは、主人公にとって星名との関係は大切に思っているからだろう。

 彼女に話すことで、周りとの関係が悪くならないように配慮した。 だから、他の部員も手伝ってくれる流れになるのだろう。でも主人公の成長過程をもう少しくわしく描くと良くなる気がする。


 顧問の先生が怪しいという展開は突然で、そうなんだという感じ。「布留川先生。化学教師。理不尽な指導はないが、熱血な指導もない。生徒からの印象は「誰そいつ?」といったところだろう。何故そんな人が教師になったのか、いやそれ以上に化学教師であるのに文芸部の顧問である理由は?」と、この時点で出てくる。

 主人公が、他の部活、文芸部員以外だったならわかるけれども、入部して半年くらいは活動してきているので、顧問のことをそれなりに知っているはず。


「私は階段を駆け上がった時、人を見つけられた興奮と、幼い体には少し高すぎた段差に躓いてしまった。登る側からは顔を上げなければ上にいる人を見ることはできないが、逆に上にいる人はその様子がどうしたって目に入る。私は躓いただけでなく、そのまま後ろに倒れそうになった。届かない。脳でそう分かっていても人は手を伸ばしてしまうものだ。手すりの、元々不安定な位置にいた夏目さんは、その結果バランスを崩し、転落した。私はそこまで落ちずに尻餅でもついたのだろう。そこで顔を上げた。夏目さんが落ちていくところだった」

 自分が転んだときの体験を下に、夏目慶一が落ちたことを想像しているのかしらん。わかりにくい。


 夏目慶一の自殺する動機や背景がいまひとつわかりにくい。可愛いペンの連続窃盗事件の犯人が夏目慶一を好きだと知って、布留川は暴こうとし、夏目は止めた。

 夏目が犯人を突き止めようとしなかったのは、犯人が彼の好きな子だった可能性がある。彼はその子を守りたい気持ちがあったのかもしれない。

 布留川は夏目に対して「真実の追求とはそれほどのものか」と問い詰め、手すりの上に追い詰めた。雲瀬が階段で躓きバランスを崩したように、夏目もバランスを崩して転落。布留川は、彼をそこから引きずり下ろすことができなかったため、自分が夏目を殺したと感じている。

  細井先生は高校時代に大好きだった先輩を亡くしているが、可愛いペンの連続窃盗事件の犯人だったのだろう。

 夏目は細井が好きだったことを知ったのかもしれない。少なくとも、布留川が自首したことで知り、大好きだった先輩の死に対して、高校時代の自分の行動が少なからず影響していることに何らかの責任を感じ、その思いから学校を辞める決断をしたのかもしれない。

 すべては憶測だけれども、おそらくそういうことだったと推測する。

 まだ、主人公が両親とはぐれて迷子になったのを助けたのは布留川だったらしいけれど、回想でそれとわかる場面を描いておいてほしい。もう少し掘り下げれば物語に厚みが出て、感情移入しやすくなると考える。


 読後感の明るさをだしているのは、「矢野兄弟は、母親に隠れてオカ研に出入りをしているらしい」と、ヤギのメイにある気がする。

 親ヤギのように、メイも絶品のヤギミルクソフトクリームが作れるようになれたならと、育ての親である日下部先輩が語るところに、希望を感じる。そして、「そんな世界で、私たちは居場所を生み出し、朝を迎えていく」と新しい明日を迎えていくラストに、気持ちが沈むことなく読み終えることができる。

 エピローグで活動はしているのを感じるけれど、文芸部の割に、文芸部らしい活動をしていないのが気になった。

 構成は上手かった。読後感も悪くない。緊張感と感動を兼ね備えた作品だし、登場人物の心理描写や謎解き要素が特に魅力的で、読者を引き込む力もあるだろうし、ユーモアもあった。五感や内面描写を深めたら、さらに魅力が高まる、そんな気がした。




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