ドッペルロボット

ドッペルロボット

作者 天井 萌花

https://kakuyomu.jp/works/16818093083242026563


 毎日を退屈に思っていた女子高生の雪は、「ドッペルロボット」という分身ロボットを購入。ロボットの小雪に家事や学校を変わりにしてもらうも、怠惰な日々は楽しくないことに小雪に気付かされ、自分のことは自分でやることを決めてロボットの電源を切る話。


 誤字脱字等は気にしない。

 SF。

 ドラえもん、パーマン、チンプイといった藤子作品を思い出しながら、退屈だと思える日常こそ、かけがえのない非日常だと気づかせ考えさせてくれる、とても良い作品。


 主人公は女子高二年生の雪。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。途中、三人称、小雪視点で書かれている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 高校二年生の主人公の雪は、毎日同じような生活に退屈していた。

 ある日、彼女は「ドッペルロボット」という自分の分身となるロボットを購入する。ロボットは雪と見た目も声もそっくりで、彼女の代わりに家事や学校に行くことができる。雪はロボットに「小雪」と名付け、彼女に家事を任せる。小雪は驚くほど有能で、雪の生活をサポートする。雪は小雪に学校に行ってもらうことを決意し、彼女に学校生活の詳細を教える。小雪は雪の期待に応え、完璧に彼女の代わりを務める。

 主人公は学校に行かず、家で自由な時間を過ごすことにした。しかし、小雪が学校でうまくやっているか気になり、家事を先取りしてしまう。小雪は主人公の代わりに学校に行き、完璧に役目を果たす。主人公は小雪と一緒にゲームを楽しむが、小雪がロボットであることを再認識する。

 次の日も小雪は学校での出来事を報告し、主人公は漫画を一気読みする。小雪は主人公の代わりに家事をこなし、主人公はゲームに夢中になる。小雪は主人公の代わりに課題もこなそうとするが、主人公は自分でやることにする。小雪は主人公のために存在していると感じ、仕事を任されることに喜びを感じる。

 主人公は小雪との生活に慣れてきたが、小雪がクラスメイトの森田くんと話したことに嫉妬を感じる。小雪は主人公の気持ちを理解し、外に出てみることを提案する。

 ある日、寝坊してしまった雪は、小雪が代わりに両親を見送り、学校に行ったことを知る。雪は小雪の手紙を読み、彼女が自分の代わりに日常をこなしていることに感謝しつつも、自分の存在意義に疑問を抱く。

 小雪は雪に対して、学校に行き、自分の生活を取り戻すように提案。「雪の望みが、叶ってないからだよ。雪が私を買った理由は、何だった? 『毎日が非日常みたいな、素敵な1日にしたい!』だよ」

 雪は最初は戸惑うも、小雪の言葉に励まされ、再び学校に通う決意をする。学校生活を楽しむ中で、雪は自分の日常の素晴らしさを再認識し、小雪に感謝の気持ちを伝え、再び日記がかけるようになる。「これからは、ちゃんと学校に行く。自分のことは、自分でやる。それが、私の生活だから」

 雪がつまらないと思ったのは、スケジュールに目を向け、中身に目を向けなかったから。

 もう代わりはいらないでしょと、小雪は電源を切ることを提案。

小雪と一緒にいたいという雪に、「駄目だよ。仕事がないなら、私はお休み。エネルギーも勿体ないでしょ!」「雪は私じゃなくて、家族や友達と過ごすべきだよ」「大丈夫だよ。電源を切ったって、死ぬわけじゃないんだから」「また何かを代わってほしくなったら、起こしてね。そんな時、来ない方がいいんだけど」

 雪は自分の生活を大切にし、小雪の電源を切ることを決意し、電源ボタンを押した。

 一週間後。ドッペルロボットの製作者インタビューをみたとき、

「こんなものを作っておいて、と思われるかもしれませんが。皆さんには、自分の生活を大切にしてほしい、と思っています」という言葉が、雪の脳に焼き付くのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりは、雪の退屈な日常と、ロボットの購入。

 二場の目的の説明では、組み立てと、彼女との初めてのやり取り。

 二幕三場の最初の課題では、 ロボットの小雪に家事や学校に行くことをさせる。小雪は日記をみる。小雪が主人公の期待に応え、彼女の生活をサポートする。

 四場の重い課題、小雪が主人公の代わりに学校に行き、報告する。小雪との関係性が徐々に変化し、双子のように感じるようになる。

 五場の状況の再整備、転換点、主人公が学校に行かず、家で過ごす日常が描かれる。森田くんと話したことに嫉妬を感じる。小雪が家事をする間に、雪はゲームを明けなくクリアしてしまう。課題が出ているのを知って自分がや牢とお申し出るも、「私は雪の代わりをするために生まれてきたの。いっぱい頼まれた方が嬉しいし、逆に気を遣われると、困る。存在意義がなくなるから」と言われて、ロボットと接するのが難しいと感じる。

 六場の最大の課題、寝坊するも、小雪が代わりに両親の見送りもして登校していた。友達も両親も、入れ替わりに気付いていないことに、自分の存在意義を考える。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返しは、なにも書くことがないと日記を書いていない雪に、小雪は「――学校、行った方がいいと思う! 家事……特に料理も、自分でした方がいいよ」という。雪の望みは、『毎日が非日常みたいな、素敵な一日にしたい!』。いまの雪は素敵な日々を過ごし無限の夏休みを過ごし、時間を食いつぶすだけの生活。素敵とはいえなかった。これまで書いた日記を見せられ、どれも素敵な非日常を送っていたことを教えてくれた。「今日は雪が学校に行ってみてよ。つまらなかったらまた明日から、私が行くからさ」といわれ、雪は学校へ行く。

 八場の結末、エピローグは、普段どおりのただの一日だったけれど、雪はずっと笑い、一つずつの出来事がキラキラ輝いていた。

 これからに日記を書く、学校へ行く、自分のことは自分でやる、それが生活だからと小雪に言われて、中身を見ずに外側だけ見ていた自分に気づく。もう代わりはいらないでしょと、小雪は電源を切ることを提案し、お礼を言って電源を切り、クローゼットにしまう。

 ロボットの制作者が、自分の生活を大切にして欲しい、と語っているのを聞いて、脳に焼き付ける。


 同じ生活を毎日くり返す謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。

 冒頭の書き出しは、客観的状況からはじまっている。

 遠景で主人公の一日が描かれ、近景ではそんな日々をくり返して年を取っていくことを示し、心情で「――めっちゃつまんないよね‼️」

と叫んでいる。

 同じように感じている読者は、そうだねと同意し、共感を持っていく。

 主人公が購入したのは、ドッペルゲンガーのロボット。いわゆるコピーロボット。

「結構高かった。簡単に試せるモノじゃない」貯金を全額注ぎ込んだにちがいない。

 プラモデルの容量で組み立てられていく。起動してからのやり取りに、リアリティーがあって、ワクワク感が伝わってくる。

 服もそっくりになるのかしらん。「まるで、本当に鏡を見ているかのようだった」とあるので、なるのかもしれない。でも、そくりになるなら、服も本体の一部ということになる。学校へ行くときは制服に着替える場面がある……。

 組み立てたとき、着せ替え人形のように着替えさせておいたのかもしれない。


 ロボットの役目は、家事や学校に行くことをお願いする。

「起きてる時間の半分くらいは、学校に取られるわけじゃん。で、帰ってきてから家事に課題……ってしてたら、一日の大半、私は毎日同じことをしてるわけ。それって、すっごくつまんないでしょ」「学校とか家事とはしないで、伸び伸び生活してみたいんだ。だって私の人生だもん。毎日が非日常みたいな、素敵な一日にしたい!」

 このあたりに、日常を退屈に感じている読者は、共感するだろう。


 好きなことだけして、新しいことに挑戦したい。

 毎日を、心躍るような一日にしたい。

 素敵な心がけであり、大事なことだろう。

「子供っぽいでしょ? でも……本気なんだ」

 子供っぽいけれども、子供の純粋な気持ちをなくしては、新しい発見やワクワクな気持ちを感じることはできない。こうしたところにも、共感していくにちがいない。


 長い文ではなく、こまめに改行されている。一文は長くない。

 短文と長文を組み合わせてテンポよくしている。口語的、シンプルで読みやすい。登場人物の性格がわかる会話文が多い。雪と小雪のやり取りが自然でリアル。主人公の感情や行動、内面の葛藤が具体的に描かれている。

 日常の細かい描写が豊富で、リアリティーがある。

 小雪とのやり取りがユーモラスだったり、ロボットであることを再認識する場面は印象的で、雪と小雪の関係性がよく描かれており、物語に深みを与えているところが良い。

 五感の描写が豊富で、シーンが生き生きとしている。

 視覚はロボットの組み立てシーンや、料理の色とりどりの野菜の描写が詳細に描かれている。主人公がリビングのソファに寝転がり、天井を眺める描写。明るい陽光、スマホの画面、鏡に映る自分の姿、駅のホーム、電車を待つ人々など豊富。

 聴覚はスマホのアラーム音や、フライパンのジュージューという音、玄関の鍵を回す音や小雪の声、アラームの音、母親の声、電車の音、友人たちの笑い声など。

 触覚はロボットの冷たいパーツや、人肌のような温もり。小雪が主人公の手を掴んで起こす場面、鍵の冷たさ、手紙の感触、小雪の温もりなど描写がある。

 嗅覚や味覚は特にない。朝食や昼食など、雪が料理を食べている場面はある。

 生物的で主観が左右されるこれらの感覚描写は、ドッペルロボットが登場する話なので、避けたのかもしれない。それでも小雪に作ってもらったときの料理について描いても良かったのではと考える。

 また、日記になにも書けなくなっている日々の食事はおいしくないような場面を描いたり、久しぶりに学校にって友達と食べたとき、どんな味や匂いがしたのかも描くと、より臨場感がでたかもしれない。


 主人公の弱みは、日常生活に対する退屈感や、学校生活の単調さに対する不満。

 だから、ドッペルロボットを購入した。

 購入したらしたで、自分の日記を読まれることに対して、自分の思い出や気持ちを他人に見られることへの羞恥心を持ったり、小雪が学校でうまくやれているか心配しすぎて何も手につかなくなったり、小雪が森田くんと話したことに嫉妬を感じたり。

 そう思うなら、自分が学校へ行けばいいのだけれども、日々の退屈さ、単調さが上回っているので、行動には至らない。

 それでも、小雪に促されて、外出してみるも、両親も友達も、学校のみんなも入れ替わっていることに気付いていない事実を見て、雪は自分の存在意義に疑問を抱き、日常生活に対するモチベーションを失っていく。

 小雪に依存し、自分の生活を放棄してしまうこともあるところから、自分の感情や気持ちをうまく表現できない、内向的な性格あるのだろう。

 そんな主人公だったから、小雪から「――学校、行った方がいいと思う! 家事……特に料理も、自分でした方がいいよ」といわれたときは、さぞかし驚いただろう。読者もこの展開には驚かされる。

 自分とそっくりなもの、ロボットなどが登場すると、自分の存在意義を主張し、本物である主人公から、存在地位を奪おうとする展開になることが多いのだけれども、本作はそうはならない。

 なぜなら、主人公の望みは『毎日が非日常みたいな、素敵な一日にしたい!』だったから。

 地位が奪われる展開になるのは、主人公が楽をしたいからと望むからなのだけれど、本作の主人公は雪は「学校とか家事とはしないで、伸び伸び生活してみたいんだ。だって私の人生だもん。毎日が非日常みたいな、素敵な一日にしたい!」であり、子供っぽいかもしれないけれど、好きなこと、新しいことに挑戦して、「毎日を心躍るような一日にしたい」ことだった。

 小雪は日記を読み、心躍るような一日を送るためには、雪は学校へ行き、勉強したり家事を手伝ったりする日々が大切だと気付いたから促し、自ら電源ボタンを切るように提案するのだ。

 話の中で雪は、小雪を気遣うような言葉をかける場面があった。

 小雪は雪のコピーであり、対となる存在。 

 たしかに本人の代わりをするためのロボットだけれども、小雪もまた、雪のことを気遣っていたのだ。


 途中で、「もしかすると私は、いつの間にか小雪を一卵性の双子か何かのように見ていたのかもしれない」とある。

 根底にある主人公の弱みは、一人で寂しいなのだろう。おそらく彼女は一人っ子。姉妹や双子といった存在が欲しかったのだろう。

 そのへんの主人公の弱みや葛藤をさらに深掘りすることで、キャラクターに厚みを持たせてもよかったかもしれないし、それに絡めて小雪がロボットであることを強調する描写を増やし、テンポを調整しながら重要な場面をより強調したら、物語がより深く、盛り上がるのではと邪推する。


 読後、タイトルからもう一人の自分のロボットが出てくる話だと想像がつくも、主人公が死んでしまうかもしれないという、ホラーを想像させていた。だから、ラストの展開が非常に良いものだったので、いい意味で期待を裏切ってくれたところが良かった。

 物語はシンプルで、雪と小雪とのやり取りしかないけれども、感情豊かで共感しやすく、雪の成長がよく描かれていた。

 ドッペルロボットは、たとえば、明日までに仕上げなくては行けない課題があるから手伝ってもらうとか、人数がいる作業をするときに協力するといった使い方がいいのかもしれない。

 あるいは、一人で寂しいときに遊び相手になってくれる、そんな距離感なら付き合える気がする。

 たまにはクローゼットから出して、一緒に出かけるとか遊ぶとかしてあげて欲しいなと思った。




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