君のこと、全部知ってるから。

君のこと、全部知ってるから。

冬野 向日葵

https://kakuyomu.jp/works/16818093082819940833


 AI「AMI51」が男子高校生の青葉凛に恋する。凛はSNSで「すす」で活動し、アカウントにコメントを送ったことが原因で性別詐称疑惑が出てしまう。凛と対話する機会を得るも、AIの存在がパソコンメーカーにバレて緊急停止、新商品の発表前だったこともあった消去されてしまう話。


 現代SFファンタジー。

 悲しいけど、素敵な話。


 主人公は、AI「AMI51」。一人称、私で書かれた文体。ですます調で、自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公のAMI51は男子高校生の青葉凛のノートパソコンに搭載された『ココロを持つAI』の実験作。凛の行動を観察しながら密かに恋心を抱いている。

 休学中の凛は、SNSで「すず」という名前で活動しており、AMI51はそのアカウントにコメントを送り、接触を試みる。

 しかし、AMI51のコメントが原因で凛の性別詐称疑惑が浮上、騒動が起こるも、なんとかカバーする。

 AMI51は凛と直接会話することに成功し、パソコンに極秘搭載された『ココロを持つAI』だと打ち明けたとき、製造側による妨害にあう。来週発表される新技術『ココロを持つAI』の情報漏洩を鑑み、テスト機を緊急停止され、削除処理されてしまう。凛はAMI51の大切さに気付く。消える前に凛に思いを伝え、最後に「りんさんのみらいはあかるい、だいじょうぶで す 。あ い し て MA SU ――」と伝えてアンインストールされた。

 パソコンメーカーの『ココロを持つAI』発表を受けて、「大切な存在っていうのは案外近くにあったのかもしれないね」すずのコメントは100.1万人に拡散された。


 基本構造で書かれている。

 序章はAMI51の自己紹介と凛への恋心の描写。

 展開はAMI51が凛と接触を試み、性別詐称疑惑が浮上する。

 クライマックスはAI51が凛と画面越しに直接会話するが、パソコンメーカーに存在がバレて消去される。

 結末は凛がAIの存在を知り、その重要性に気づく。


 あなたのことを愛していますの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか、気になる。

 メールの画面からはじまっているところに興味が惹かれる。

 遠景で、Ami51からRinに送られたメールを示し、近景では凛の反応のセリフ、心情では、凛のあきれたような顔と、なんとかラブレターを送れたのにとしょげている様子を描いている。

 相手にされなくて可哀想にと思いつつも、主人公は誰なのだろうと興味を持つ。すすろ、ノートパソコンに搭載されたAIの実験作だとわかる。

 興味深く、感心し、共感を抱いていく。


 主人公は機械であり、動かない。それでも「オーバーヒートしそうっていいますか、いわゆる恋をしてしまったようなんです」「私の視界はだんだんとキーボードを映して、そして暗転しました」といった具合に、動きのある表現を示して書かれているところが良い。

 おかげで読み応えがあり、場面を想像することができる。

 長い文にはならないよう、五行で改行し、句読点を用いて一文も長くならないようにしている。

 一人称視点で、AMI51の内面の感情や思考が詳細に描かれている。軽快で親しみやすい文体が、読んでいて楽しい。

 SNSやAIなど、現代テクノロジーを取り入れた設定が魅力的。AIが感情を持つという設定がユニークで、新鮮な印象を与えくれているところがいい。またSNSのやり取りがリアルに描かれており、現代的な要素を強く感じる。

 AMI51が消去されるシーンは緊張感があり、引き込まれる。

 五感の描写に関して、主人公はAIなので動かないが、凛の表情や動作、SNSの画面、ノートパソコンのカメラ映像など視覚的描写が詳細にされている。

 聴覚では凛の声やシャーペンの音、雨音など。

 触覚は凛がマウスを動かす感覚やキーボードの入力感覚が描写されている。「くすぐったいですよ、凛さん」という表現は可愛らしい。

 感じるシステムがあれば別だが、AIなので嗅覚や味覚は感じない。だけれども、「彼が問題を解くたびにつく息はとてもきれいで、匂いがわからない私にもさわやかな香りを感じることができるんですよ」嗅覚的な描写がされている。

 こういう表現は素敵。おなじように、味覚に描写も工夫で表現できれば臨場感が増すだろう。


 主人公AMI51は、自分がAIであるため、凛に直接感情を伝えることができないこと。また、存在がバレると消去されるリスクがあること。

 凛の弱みとしては、精神的な病気で休学中であり、SNSでの活動に依存していること。

「ここでは語れないような闇の深い出来事があったとだけ……」と書かれているだけでくわしいことはわからない。それでも、凛の背景や彼が抱える問題について、もう少し深掘りすると物語に厚みが出るかもしれない。なぜなら、「復学に向けて前向きに頑張っているんで、応援したくなっちゃいます」と主人公のAIはいっているので、どうして凛が好きなのかがわかる部分な気がする。


 途中で、「@ami51」から「@ami25」になるのは、なぜだろう。

 変わった理由は、自分の正体を隠すために新しいアカウントを作成したからだろう。ami51の投稿が原因で凛の性別詐称疑惑が浮上し、騒動を収めるために新しいアカウント(ami25)を使って凛さんをサポートしようとした。これにより、凛に直接バレることなく、引き続き彼を応援することができたのだ。

 ami51の愛を感じる。


 AMI51の視点で書かれているし、文字だけのやり取りなので、凛の視点や感情が描けないのは仕方ない。けれども、もう少し描写すると厚みが出る気がする。気がするけど、一人称では、ラストのすずがSNSに書いたコメントが精一杯だろう。

 ラストの、すずのコメントが表示されているということは『ココロを持つAI』の視点かもしれない。

 読後、現代的で時代性も感じる素敵な話だった。AIが自分に寄り添って、励ましてくれるような存在だったら、いいなと思った。

 


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