知的メガネになりたいアホの子王子様と、メイドの私の話

知的メガネになりたいアホの子王子様と、メイドの私の話

作者 柴野

https://kakuyomu.jp/works/16818093083042313060


 アホな子の第一王子ジークフリートはモテたいために知的メガネを購入、メガネフェチ令嬢と縁談が持ち上がるも、メイドのヘレンが王子のまま愛していない婚約に反対すると、縁談を破棄。今日もモテたいと嘆きながら、筋肉のある男性は魅力的だと知って鍛えようとする話。


 三点リーダやダッシュはふたマス云々は気にしない。

 ファンタジー。

 面白い。


 主人公は、メイドのヘレン、十八歳。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話と絡め取り話法で書かれている。

 主人公のヘレンは、政争に負けて生家が没落、親を亡くし十三歳のヘレンは孤児となって路頭に迷い、地面に這いつくばりながら生ゴミをあさっていたところ、第一王子ジークハルト・アーロ・ホメリラに声をかけられ、何度か言葉を交わし、食べ物を恵んでもらい、『ついて来てくれ。この僕が、君を幸せにしてあげるからさ』拾われる。最終的にはメイドになることが認められ、仕えてきた。

 十八歳の第一王子ジークハルト・アーロ・ホメリラは、顔は良いが頭が悪く、継承権を剥奪されたアホの子である。彼はモテたいと願い、知的メガネをかけることを決意する。

 メイドのヘレンは彼の思いつきに付き合い、同行してメガネを買いに行く。五軒目で良さそうな店に巡り合い、フレームが横長の四角形の、縁なしメガネを購入。ジークハルトはメガネをかけてパーティーに出席し、メガネフェチのミーガン伯爵家の令嬢から婚約を申し込まれるが、ヘレンは彼の本質を見ていない令嬢との婚約に反対する。「殿下のアホさを愛でるのは私だけでいいのです。私一人で、充分のはずです」

 最終的にジークハルトはヘレンのわがままを聞き入れ、令嬢との縁談を断る。ジークハルトは自分が持ててずるいと思っていると勘違いし、ヘレンをモテる女にしてやるというが、即答で断る。なにが欲しいか聞かれ、「ジークハルト殿下を愛で続ける権利」を申し出ると了承。「一種のモテとも言えるしな。モテというものはモテればモテるほど嬉しいものだからさ」次こそは、自分をそのまま愛する令嬢をみつけてくるからと上機嫌に宣言。あの手この手で計五人もの令嬢を引っ掛けながら、ヘレンの首を縦に振らせられなかったからと潔く手放し続けた挙句、今日も今日とてモテたいと嘆き、運動嫌いなジークフリートは、筋肉男性は魅力的だからと、今度はガチムチになろうと考える。

 ただの主従でもいいからずっと、このままでいられますようにと、ヘレンは密かに願うのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりでは、継承権を持たないアホな子、第一王子のジークフリートがモテたいといい出す。顔のいい自覚も頭の悪い自覚もどちらもあるのなら頭を良くすればいいのではと伝えるメイドのヘレン。

 二場の目的の説明では、王子は知的メガネを目指す結論に至る。

 二幕三場の最初の課題では、お忍び用の衣装に着替えて、ヘレンもメイド服から地味な服を来て並んで出かけるも、往時の輝きは失わず目立って島。

 四場の重い課題、メガネ屋を回り、貴族御用達の店を尋ねるも、王子の私財では購入不可能な値段に慌てて撤退するをくり返し、五件目でようやく見つけて購入。

 五場の状況の再整備、転換点では、メガネ姿でパーティー出、ミーガン伯爵家の令嬢は『メガネフェチ』らしく、色目を変えて迫ってきたという。婚約話を持ちかけられ早速受けようと思い、帰宅してきた王子はヘレンに相談するも、反対する。

 六場の最大の課題では、メガネ姿の王子は素敵だが、王子の優しさではなく装飾品に惹かれた令嬢を迎え入れて本当に幸せになれるのですかと解き、王子のアホさを愛でるのは自分ひとりで十分だという。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返しでは、ヘレンは政争に負けて生家が没落し親をなくして路頭に迷っていたところを王子に拾われ、そのとき恋に落ち、メイドとして認められて仕えてきた。没落令嬢の自分が王子と並び立つのは許されたんとわかっていながら、他の令嬢を選ぶことを許せない自分は愚かしかった。

 知的メガネはアホの子メガネだと思うと伝え、縁談が持ち上がった御令嬢にはお断りの手紙を出すようお願いすると、わかったと返事。モテてずるいと思っていると勘違いする応じは、メガネでモテる女にしてやるというも、いらないと返事。なにが欲しいのか聞かれ、王子を愛で続ける権利、と正直に答える。応じはいいよと答え、次こそはヘレンも認めるような素敵な相手を見つけてくるから、愛でながら待っててくれと上機嫌に宣言。

 八場の結末、エピローグでは、筋肉のある男性は魅力的だからと、ガチムチになろうといい出す。筋肉ダルマになったら美貌が台無しになりかねないのにと思いつつ、あくまでメイドのヘレンは、「承知しました」と答えながら主従でもいいからこのままで要らえますようにと願うのだった。


 中身がわかるタイトル。それでも、面白そう。

 

 モテたい謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関わり、どんな結末に至るのか気になる。

 

 会話文からの書き出し。

 遠景で二人の会話、近景で場所とどのような人物かを描き、心情で相手のつぶやきに対して、そっけなく返したことが示されている。

 二人の関係性を感じさせている。

 そのあと、さらに主人公のヘレンの内面が語られていく。

 心の中では外側にある遠景、相手に対しての口の利き方のまずさ。でも、呆れてしまったのは間違いないと論理な意見。

 近景では、理由として、なにか重要なことだと思えば、「モテたい」とは、といった信用からの意見。心情では、いつもながらずいぶんと呑気な悩みだと、感情の意見が書かれている。

 論理、信用、感情の順番は、相手を説得するに適している。

 つまり、主人公の気持ちの動きを描きながら読み手に説得し、追体験して共感を抱かせている。


 眼の前にいるのは、至高の美貌を持った第一王子ジークハルト・アーロ・ホメリラ殿下であり、主人公の主人である。ここまではうらやましくも憧れを抱かせる。

 が、生粋のアホとある。政治も知らず、王族に求められる教育を十分の三ほどしか終えられず、ホメリラ王国史上初めて、不祥事を起こしていないにもかかわらず継承権を剥奪。

「愚物の王子と評されつつもへらへらとしている百点満点のアホの子、それがジークハルト殿下だという。

 縁談も舞い込むことがあったが、相槌を打っているだけで、嫌気を指して縁談をなかったことにされてしまう。

 聴けば聞くほど残念と言うか、かわいそうに思えてくる。

 それを知りながら主人公は、「世の不条理を嘆く気持ちは理解できなくもないのですが、まずはご自分を改められませ。顔のいい自覚も頭の悪い自覚もどちらもあるのなら頭を良くすればいいのではありませんか?」おそれながらと申し出ている。

 主従関係にあるのだか、いうべきことはいうところに、人情味を感じる。後で分かるけれども、二人は十八歳と同い年なのだ。

 そういうところにもまた、共感を持って読んでいける。


 王子はヘレンの言葉に「……なるほど。だが僕は勉学になど時間を費やしたくない! 継承権破棄に頷いたのは勉強しなくて済むようにするためなんだからな!」と答えている。

 相手の言葉を否定せず、なるほどとまず飲み込んで、それから反論を述べているところに、彼の性格を感じる。彼のアホさではなく、主従関係にあるのはもちろんのこと、継承権が剥奪されているとはいえ、第一王子としての自覚はあると感じる。それともヘレンを大切に思っているのかしらん。


 長い文にならず、数行で改行している。一文は長すぎす、句読点を用いられている。ときに口語的、登場人物の性格や関係を感じられる会話文も多く、読みやすい。

 軽妙でユーモラスな文体であり、ヘレンの内心のツッコミやジークハルトのアホさがコミカルに描かれている。そんな二人のやり取りが楽しく、テンポもいい。

 キャラクターの個性が際立つようしっかり描かれており、特にジークハルトのアホさとヘレンの冷静なツッコミが魅力的。読者に親しみやすいところも、いいところである。

 読んでいて楽しい。

 

  五感の描写では、視覚的な刺激ではジークハルトの美貌やメガネの描写が詳細に描かれている。聴覚では、ジークハルトの浮かれた声やヘレンの声量の変化、ジークハルトの声が描かれている。

「慌てて俯いた私の耳に、『いいよ』とのジークハルト殿下の柔らかな声が降り注いだ」この表現は、触覚の比喩を用いて声が聞こえている。印象的な場面では臨場感のある表現がされている。

 触覚は、街を歩く際の距離感や、ジークハルトの優しい瞳の描写がある。

 お忍びで出かけるも、王子は目立っているのだから、町の人達は皆、アホの王子が来たと内心思ってみているのかもしれない。

 ということは、隣を歩くのは従者だということも、気づかれているだろう。

 五感の描写をもう少し増やすことで、さらに臨場感を持たせることができるかもしれない。


 主人公のヘレンの弱みは、ジークハルトに対する恋心を抱いているが、身分の違いからその想いを伝えられない。また、ジークハルトのアホさに振り回されることが多いこと。

 彼女に帰る家はなく、そんな自分に『ついて来てくれ。この僕が、君を幸せにしてあげるからさ』と手を差し伸べてくれたときは、嬉しかっただろう。

「王族のくせにアホ丸出しで奔放な彼へ腹を立てたのは最初のうちだけ」とあるので、王子のアホさは、はじめから知っていたことになる。国中の噂になっていたのか、あるいは対面して、やっぱりアホだと確認したのか。

 そんなアホな王子が自分を拾うとき、『得とかそんなのはどうでもいいんだよ。そんなところで蹲ってたら凍え死ぬ。僕は王子だから君の欲しいものを好きなだけ買い与えられるし、城に連れて帰るだけで今よりは幸せな生活を与えられるだろ?』アホかもしれないけれども、困っている人を見過ごせない純な気持ちを持っていることがわかった。彼の優しさに、恋に落ちたのだ。

 もし、彼が国王になったら、困っているからと他国にお金をあげて、財政難に陥ってしまいかねない。

 ヘレンの過去や背景についてもう少し詳しく描くことで、キャラクターの深みを増すことができるだろう。それは本作が長編的なシリーズ化したときに、おいおい明かされていくのかもしれない。


 ジークハルトの成長や変化を、もう少し描けたら物語に動きをもたせられるのではと考える。彼は変化をしているようにあまり感じない。

 モテたいと思って知的メガネを買うことをヘレンに伝え、一緒に買いに行き、パーティーで縁談が持ち上がるも、ヘレンに反対されて縁談を断り、好きなものをきいて、愛で続ける権利をヘレンに上げる。

 そもそも、路頭に迷っていたヘレンを助け、『君を幸せにしてあげるからさ』の言葉通り、彼なりに守ってきている。モテたちと打ち明け、メガネを買いに行くときも同行させ、「あ、ヘレンも欲しいものがあったら言って。それとも疲れたなら今日のところは帰るけど……」と声をかけている。

 ジークフリートがヘレンにデレる瞬間でもあれば、あるいは変化を感じられるかもしれない。


 読後。タイトル通りのお話ではあったけれど、非常に面白かった。シリーズ化して長編にできるかもしれない。 

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