「生きる」の書き方

「生きる」の書き方

作者 にいな

https://kakuyomu.jp/works/16818093081262852964


 進路希望調査の容姿になにも書けず悩んでいた蓮は、風鈴の音に導かれ古い教室で謎の少女と出会い、さまざまな未来を見せられ、パン職人の道を選び、夢を追いかける決意をする話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマス開ける等は気にしない。

 現代ファンタジー。

 主人公が成長し、夢を追いかけていく姿が感動的。

 いい話だなと思った。


 主人公は、男子高校三年生の蓮。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 子供の頃、おばちゃんと一緒に老舗のパン屋に連れて行ってくれた。世界一のパン屋になる、フランスに修行に行くなんてことも主人公の蓮は言っていた。『小さな悩みくらいで、大きな夢を持つ生き方を諦めるな』そんなことを話してくれた彼のおばあちゃんは、主人公が十歳ごろのとき、なくなった。

 高校三年生の蓮は、進路希望調査の用紙に何も書けずに悩んでいる。ある日、教室で風鈴の音を聞き、気づくと古びた教室に転移していた。そこで出会った少女に導かれ、バレーボール選手や大企業の社員、パン職人としての未来を見せられる。おばあちゃんといっしょにいった店だと懐かしむも、すでにこのパン屋はなくなっていることを口にすると、少女がおどろいた。

 パン職人は厳しい世界だからとつぶやくと、「人は何かを目指す時にどこかで、諦める理由を探してしまう。例えば、『金が無い』とか『後でやる』とか。だからこそ、最初に自分が成功した時の事を想像して、楽しみながらやればいいんだよ」少女の心に突き刺さる。昔、おばあちゃんが言っていた言葉だと思い出し、主人公はパン職人としての道を選ぶ。少女と別れ、戻ってきた主人公は、おばあちゃんに礼を言って、夢を追いかける決意を固めるのだった。


 三幕八場の構成になっている。

 一幕一場の状況の説明、はじまりでは、クーラーの聞いた教室で主人公は一人、進路希望調査の用紙を前に悩んでいたとき、風鈴の音が聞こえる。

 二場の目的の説明では、気がつくと古びた教室に転移していて、驚いていると、見知らぬ少女が現れ、望む生き方を教えてあげるといわれる。

 二幕三場の最初の課題は、眼の前に映画館のスクリーンのように日本代表のユニフォームを来てガッツポーズをする、主人公の姿が映し出される。

 四場の重い課題では、バレーは小学生の頃から続け、高校でもキャプテンを務めた。全国大会にも出場したが初戦敗退。バレーを職業にしたいとは思わなかった。

 五場の状況の再整備、転換点、大学生になって大企業に務める自分が映し出される。勉強が苦手だから極力やりたくない、大企業なんて大変そうだというと、「相変わらず文句の多い奴だな」といわれ、今度は難しいからと少女に手を繋いで、子どものころおばあちゃんに連れて行ってもらった老舗のパン屋で働く姿だった。懐かしさとともに、このパン屋は二年くらい前に閉店した営業したと言うと、少女が驚いた。

 六場の最大の課題では、パン屋も厳しい世界だからとぼやくと、それが悪いところだと言われ、「まずは、本気で好きな事をやってみろ。自分が活躍してる姿を想像してみろ」「人は何かを目指す時にどこかで、諦める理由を探してしまう。例えば、『金が無い』とか『後でやる』とか。だからこそ、最初に自分が成功した時の事を想像して、楽しみながらやればいいんだよ」といわれたとき、昔おばあちゃんが『小さな悩みくらいで、大きな夢を持つ生き方を諦めるな』と亡くなる前に伝えてくれていた言葉を思い出す。

 三幕七場の最後の課題、ドンデン返しでは、少女が思えてたんだねとつぶやき、「将来の話ししててさ、ワクワクしてこない?」といわれる。主人公はめちゃくちゃワクワクしていると答え、「……俺、自分のパン屋を開く事を目標に、本気でやってみようかな」人生の目標を口にした。グラウンドの真ん中に二人は移動し、とことんやってみればいいと、朱印校の成長を見守る先輩と答える少女。空上からでも見守っていてよというと、気付いていたんだと笑う。「生き方なんて人それぞれだし、これから君は沢山の人達と出会って、沢山の感情に触れる。きつい思いも当然するけど、『生きる』ってそんなもんだからさ。とにかく、楽しんで生きなさいよ? 蓮……」

 風鈴が鳴ると、元の教室に戻っていた。

 八場の結末、エピローグでは、急いで、進路希望調査の用紙にパン製造・提供会社の名前を書いた主人公は、大きな夢にむかった精一杯生きてみようと思い、空を見上げ、おばあちゃんに感謝を伝えるのだった。 


 タイトルから、重いテーマを感じる。軽くはない、という意味。


 クーラーの聞いた教室で一人自習している謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末になるのか気になる。

 遠景は、どんな場所にどういう状況で主人公がいるのかを示し、近景ではそれがいつの時間、周辺の様子を描き、心情で屋外の部活動生に尊敬の念を抱いていることを語っている。

 部活動生の気合いの籠った声の方が遠くにあるから、そちらを一行目にするのがいいように思えるかもしれない。

 けれど、「窓の外からは、部活動生の気合いの籠った声が聞こえてくる」は、行動による聴覚描写なので、こちらを先にもってくると、主人公は緊張や驚きを感じているように思えてしまう。

 書き出しの主人公はそうではなく、教室に一人で進路希望調査の容姿を前に頭を悩ませている。つまり思考している状態なので、「クーラーの効いた教室で、自習をしているのは自分だけだ」という思考しながらの視覚や触覚描写からはじまっているのだ。

 

 高校三年生の主人公は、卒業後の進路に悩んでいる。一人ということは、クラスのみんなはすでに提出し、書けていないのは自分だけなのだろう。

「別に、学力が足りないとか、生活態度が悪いから行く場所が無い訳では無い。問題行動は一つも起こしてないし、成績もまぁまぁいい方だ。ちょっとレベルが高い大学でもA判定を叩き出し、まず受かるだろうとも言われた」

 なにげに、優秀らしい。志望大学に悩んでいる子からすれば、羨ましく思うだろう。

 やりたいことをやれと言われても、それがなくて悩んでいる。

 こういうところから、十代若者をはじめとする読者層は共感を抱くだろう。


 長い文ではなく、二行ほどで改行している。句読点を用い、一文も長くない。ときに口語的で、登場人物の性格のわかる会話も多く、少女との対話がテンポよく進んで、読みやすい。

 一人称視点で、主人公の内面の葛藤や感情がリアルに描かれている。進路に悩む現代の受験生という感じが出ている。

 なにより、主人公の成長がしっかりと描かれているところがいい。

 風鈴の音をきっかけに転移する設定がユニークで、読者を引き込む力がある。

 五感を使った描写が豊富で、情景が目に浮かぶところがいい。

 視覚では、青空や入道雲、古びた教室、田舎の町の風景などが詳細に描かれている。

 聴覚では、風鈴の音や部活動生の声が印象的に使われている。

 触覚は、少女の手の冷たさや、クーラーの効いた教室の涼しさが描かれている。

 嗅覚や味覚の描写じはとくにない。パン職人を目指すなら、子供のときにおばあちゃんに連れて行ってもらった老舗パン屋の光景を描きながら、そこでの匂いや、パンの味を思い出しては嗅覚と味覚を追加できる気がするし、臨場感も増すだろう。

 とくに匂いは記憶と結びついているので、パン屋を見たときに、匂いがうかんでもいいかもしれない。


 主人公の弱みは、進路を決められない優柔不断さ。自分に自信が持てない。諦める理由を探してしまう。

 子供はとくに、あれがいい、これがいいと思っても、すぐに考えを変えることがある。

 本作で、いろいろな将来をみせたものは、生前おばあちゃんに主人公が話してくれたことを元にしているのかもしれない。

 小学生から高校までバレーを続けてきているのは、主人公が好きだったからだと思う。

 でも続けていく中で、なかなか勝てず、初戦敗退する結果から、自信が持てず、諦める理由を探すようになったのではと考える。

 成功体験による自信の積み上げがあれば、優柔不断となって、進路に迷うこともなかったかもしれない。

 だから、「……でも、厳しい世界だからなぁ」とつぶやいてしまうのは無理からぬことであり、主人公の性格やこれまでの行動などから見て予測できる。

 少女の「……それが君の、いや、人の悪い所だ」といって、叱咤激励していく様は、予想外で驚く。謎の空間に連れてきたのは彼女なのだから、主人公に意見するのは想像できるけれど、この少女はそもそも何者なのだろうと不思議だった。

 少女のキャラクターについて、もう少し背景や動機を掘り下げていてもよかったのではと思いつつ、「現代とこの世界は行き来出来るから、ちゃんとそっちの空から見とくよ。私はこっちの世界の方が懐かしくて好きだけどね」とあるので、おばあちゃんは孫の様子をこっそりみては、しょうがないんだからと今回、手を貸すことにしたのかもしれない。


「ようやく思い出したこの言葉。亡くなる直前に、おばあちゃんが自分に伝えてくれた最期の言葉が、これだった」

 ここがグッと来ました。

 最後まで、おばあちゃんは孫を可愛がっていて、行く末を気にしていたのだ。そんなおばあちゃんだったから、今回少女の姿で現れたのだろう。

 読後、いい話だなと思った。タイトルも良かった。

 パン職人になるためには、パン製造・提供会社以外に道はないのだろうか。

  製菓や調理の専門学校で製パン専攻を選ぶ、短大や通信講座を利用する、高校卒業後、パン屋でアシスタントやアルバイトとして働きながら技術を磨く方法もある。

 パン作りに関する書籍やオンラインリソースを活用して独学でスキルを磨くことも可能。

 パン屋を開業するためには「食品衛生責任者」の資格や「菓子製造許可」の届け出が必要だが、実店舗を持たずにオンラインやデリバリー形式で開業する方法もある。

 パン職人になるために特別な資格は必要ないが、「パン製造技能士」などの資格を取得することで、実力を証明しやすくなる。

 スキルや経験が必要なので、どこで学ぶかの選択は考える必要があると思う。

 彼がどんなパン職人になるのか、おばあちゃんは楽しみに見守っているだろう。

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