赤い鳥は青い星に飛ばない
赤い鳥は青い星に飛ばない
作者 千桐加蓮
https://kakuyomu.jp/works/16818093080193731588
柊雁星の王族の血を引く結藍と親代わりの松空が、滅びゆく星で生き残り、青い星(地球)への憧れと葛藤を抱えながらも、最後まで赤い星に留まる決意をする話。
ファンタジー。
結藍と松空の関係が魅力的で、感情豊かで引き込まれる物語。
主人公は、十九歳の結藍。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られ、結藍の内面の葛藤や感情が丁寧に描かれている。現在、過去、未来の順に書かれている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
かつて王族の人が「情熱的であれ!」と演説をして以来、柊雁星の人々は赤い鳥の民と呼ばれ、交流を深め、一致団結して積極的に取り組んできた。
結藍と松空は幼馴染。彼は彼女に地球の話をすると、『自分の子どもにも絶対聞かせてあげるんだ』といっていた。政略結婚をした結藍の母、結梅は産後の肥立ちが悪かった。結藍を産むとすぐ亡くなった。男も女も、王家の奴らも争い参戦するようになったが、争いを好まない松空は生まれて一年しか経っていない結藍を連れて、誰にも知られないように柊雁の山奥で潜むように暮らした。
内乱や核爆弾の影響で荒廃し、住民はほとんどが他の星に逃げ出し滅亡寸前の惑星となり、王家の血を引く主人公の結藍は松空と残っている。
松空は地球の話をしてくれた。結藍は青い星(地球)に憧れを抱き、闇夜に大きな戦闘機が飛んいくのを見て、向かっていく先には地球を知るための手がかりがあるに違いないと思い、都市部へ向かうもたどり着けないばかりか、戦闘が激しさを増し、死にそうになったが松空に助けられる。わがままで危険な目に合わせたこと、地球に連れて行ってと言わないから側にいさせてとなかいながら懇願する。「そのままの、明るくて、憧れを抱いたままの結藍でいてくれ。お願いだよ」松空は強くお願いした。
松空は結藍に、結藍の母親である結梅の話をする。松空の操縦で、宇宙船で青い星を見に行く。結梅も地球に憧れていたが、柊雁星に残ることを選んだことを話す。
結藍は「お母さん、見える? あれが青い星だって。青くて綺麗、だね」とつぶやくと、肩を抱かれる感覚がしたが隣には誰もいなかった。
「あれから、もう十五年は経った。結藍は、もう二十歳間近。結藍が大きくなる頃には、柊雁の皆も地球で過ごせる方法が見つかると思っていたが争いで何もかも亡くなってしまい、生き残ったのに他の星に移住せず星に残っているのは二人だけだった。
結藍と松空は柊雁星に残ることを決意し、宇宙船を燃やす。
柊雁星の未来を考えながら、青い光に包まれる。結藍は、青い星に行くことよりも、松空と一緒にいることが自分の幸せだと確信し、未来に希望を見出すのだった。
最後の宇宙船を燃やそうとする謎と、主人公たちに訪れる様々な出来事の謎が、どのように関わり、どんな結末に至るのか気になる。
冒頭の書き出しは、宇宙船を燃やす場面からはじまっている。
遠景のセリフで、最後の宇宙船だと示し、近景で親代わりの松空が悲しそうにしている様子を描き、心情で、母との約束『最後まで赤い星にいる』を受け継いでいるのでしょと、語っている。
彼は、巻き込むつもりはなかったと答えたのに対し、「私は、最後まで赤い鳥ってことだよ」と主人公は答えている。
二人のやり取りには愛や情感、品行などがあり、人間味を感じる。また最後の宇宙船を燃やし、星に残ることになった状況から何かしらの不幸に見舞われた様子であり、かわいそうに感じる。さらに、残された星の最後の二人という状況もふくめて、共感を抱く。
長い文になるべくならないよう五行で改行し、一文も句読点を用いている。登場人物の性格がわかる会話を挟んでは、ときに口語的で読みやすくしている。感情描写が豊かで、キャラクターの内面がよく伝わる。また、未来の荒廃した世界観がリアルに描かれているのが特徴。結藍と松空の関係が丁寧に描かれており、二人の絆が強く感じられるのが実にいい。
五感を使った描写が多く、物語世界に引き込んでいる。視覚では、宇宙船の炎や荒廃した景色、青い星の美しさなどが詳細に描かれている。聴覚では、爆発音や鳥の鳴き声、松空の声など。触覚は、足の裏のヒリヒリ感、松空の手の温かさなど。嗅覚は、悪臭や砂嵐の匂いが描写され、味覚としては、空腹感が強調されている。
主人公の結藍の弱みは、青い星への憧れが強すぎて現実を見失いがちな点。また、松空に依存している部分もあり、一人で行動することに不安を感じていること。
これらの弱みが、青い星(地球)に行くための行動を促し、最終的には松空と一緒にいることが自分の幸せだと気づくに至るのだ。
七歳の彼女が一人で行動する展開は、それはそれで驚かされるものであるが、憧れの強さと子どもの無鉄砲さから考えてもあり得る行動だろう。
その後の、松空が小型宇宙船に無理矢理乗せて、青い星を見に行く展開は、意外な感じがした。行けるんだ、と。行きたがっていたのを知っていたのだから見せに行けばいいし、そのまま他の星に避難すればいいのにと思ってしまう。
でも彼はそうしていないし、その後、宇宙船を燃やしてしまう展開はまったくもって予想外というか、どういうことなのかと驚かされる。
どうも、彼らは地球人ではないらしい。
柊雁星の住民。それでも地球が関わっているのは、松空が結藍の母親に地球の話をし、あこがれを抱いて娘にも話したいと思ったところにある。でも柊雁星の住人が青い星(地球)で生きることは難しい。柊雁星の住人が地球に行った場合、酸素の量が少なく、気温が高すぎるため、地球で生きることができないと、松空は述べているからだ。
したがって、母親の願いとは裏腹に、柊雁星の住人が地球で生きることは現実的には難しい。いずれはできる日も来るのではと夢見ていたらしいが、戦争でなにもかもなくなってしまった。
それでも、結藍が地球に憧れ、行きたいという強い願望を持ったのは、「海と呼ばれている水に囲まれた大陸や島々。そこで暮らす人々。青い星には、幸せが詰まっている。きっとそうなんだ、と興味が湧いた」とあり、彼女にとって希望や夢の象徴となったからだろう。
ひょっとすると、柊雁星には海と呼ばれている水に囲まれた大陸や島々がないのかもしれない。
そもそも、なぜ争いが起きたのか。柊雁星が他の星に住んでいた民族同士の争いに巻き込まれたとある。
まずはじめに、他の星に住んでいた民族同士の争いが柊雁星に影響を及ぼし、柊雁星が荒地と化していったのだろう。
つぎに、柊雁星の住民が開発途中の核爆弾を使用し、内乱が激化。そこへ内乱が勃発し、柊雁星の滅亡への決定打となり、戦死者や栄養失調で住民が次々と亡くなり、他の星へと移住していった。
このような形で、滅亡の道を辿ることになったと考える。
松空が宇宙船を燃やしているときに泣いている理由は、ものすごく複雑だ。
第一に、宇宙船を燃やすことで、星から脱出する唯一の手段を失うことになる。つまり、星が崩壊するという状況になったとき、逃げる手段かなくなったのだ。
第二に、柊雁星が滅びゆく運命にある事実。これはもはや避けられない状況に直面しているだろう。
第三に、生き延びるための選択肢がなくなり、絶望感を感じているはず。
第四に、結梅との過去や、彼女との関係に対する後悔や悲しみ、も影響にあるかもしれない。
第五に、結藍を守りたいという強い思いと、彼女をこの状況に巻き込んでしまったことへの罪悪感。
彼は結梅との願いを受けて星に残ることを選んだ。
でも、結藍はそうではない。
他の選択肢があったのに、失ってしまったのだ。
他の選択肢とはなにか?
松空は、幼馴染の結梅が好きだったのだろう。
王族の彼女は、政略結婚で異星人との間に娘、結藍を産んだ。
松空が結梅に地球の話をしたのは、体が弱っていた彼女に、生きる希望をもたせたかったのかもしれない。でも彼女はなくなる。
娘の結藍の親権は、当然結婚した異星人である父親にあるので、引き取って面倒を見るのは当然。でも、争いが嫌いだからと松空は結藍をつれて、山奥に逃げている。
おそらく、好きだった幼馴染の結梅の娘だからと、こっそり連れて行ってしまったのではと邪推する。そんなことをしなければ、彼女には生きる道もあったのではないのか。自分のエゴで連れてきてしまい、生きる道を奪ってしまった。そうした罪悪感も含めての涙なのかもしれない。
しかも彼は、好きな人が死んだ星で星の運命とともにするのは本望だと考えているのでは、と想像する。死んだら彼女の元に行けると思っているかもしれない。でも、彼女の娘を巻き込んでしまった。これでは、合わせる顔がない。このことも、涙の理由にあるかもしれない。
ちなみに主人公の彼女は、青い星への憧れを捨てて、松空と共に柊雁星で生きることを選んだ。親代わりの彼のことを愛しているかもしれない。たとえ、滅びゆくさだめの星だとしても、好きな人といっしょにいられるのだ。
つまり彼女は、どう生きるのかを選んだ。
対して彼は、どう死ぬかを選んだ。
この二人の選択の差が、ラストの表情に現れているのだろう。
全体的に、心情や情感の描写はいいけれども、幼少期の部分が長いことや、過去と未来を行ったりきたりする展開などが、わかりにくさを生んでいる気がする。
主人公の成長過程や、登場人物の三人(結藍、結梅、松空)の背景や過去について、もう少し具体的に描けば深みが増すかもしれない。
読後、タイトルを読んでなるほどと納得した。どういう意味なのか、読む前は不思議に思っていた。
赤い鳥は、「情熱的であれ!」から来ているので、彼女は情熱的に生きることを選んだのだ。
生きるとは、人生に熱く関わること。たとえどんなことがあっても、情熱だけはなくしてはいけないことを、本作品は教えてくれているのだろう。
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