Bluetoothの神
Bluetoothの神
作者 芽春
https://kakuyomu.jp/works/16818093081266001402
オカルト研究サークルに所属している三人が、女の子の幽霊が出る噂のある近所の廃墟を探索中、Bluetooth接続の通知が現れ、接続した黄村はおかしくなる。なんとか帰るも、田代まで大学に来なくなる。後日、主人公も勝手に接続され、カルト宗教の儀式で女の子の魂は本当に神様となり、Bluetoothを通じてその力を広めようとしていることを知る話。
誤字脱字や文章のはじまりはひとマス下げる等は気にしない。
ホラー。
現代的でアイデアがいい。
主人公は、オカルト研究サークルに所属している大学三年生。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
冒頭は、青葉海子からのペアリング。
現代、過去、未来の順番で書かれている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況に、もどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
大学三年生の主人公はオカルト研究サークルに所属しており、メンバーはたった三人。
ある日、ホラー映画のDVDが尽きたため、近所の心霊スポットで肝試しをすることに。廃墟に到着し、探索を始めると、奇妙なポスターや写真を発見。写真には左腕のない女の子が写っており、彼女の幽霊が出るという噂が現実味を帯びる。探索中にBluetooth接続の通知が現れ、黄村が接続してしまうと、彼の様子がおかしくなる。急いで廃墟を脱出するが、黄村と田代はその後大学に来なくなる。
後に、主人公は勝手に接続されたBluetoothを通じて女の子の記憶を交換されて知る。青葉海子は生まれつき左腕が無くて苦労が多かった。彼女の両親は何とかしてあげようと、色んな所を巡り、運悪くエセ医学系のカルト宗教に引っ掛かり、現人神として良いように祭り上げられた。二〇一四年七月十九日、十歳の誕生日に拷問みたいな儀式で殺された。儀式自体は成功し、彼女の魂は本当に神様となり、Bluetoothを通じてその力を広めようとしている。
"aobakaiko"がペアリングを求めてくる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりを持ち、最後はどのような結末を迎えるのか、怖いもの見たさで気になる。
導入の書き出しが、青葉海子によるBluetoothの一方的な接続からはじまっているところに、これからはじまる内容をほのめかしつつ、恐怖を伝えようとしているところがいい。
所見では、なんだろうなという印象しかない書き出し。
遠景で、「"aobakaiko"がお使いの端末へのペアリングを求めています」と示し、近景で更に具体的に示してから、心情「なにもこわくないよ」ときて、ペアリングし一件のファイルを受信する。
半ば一方的に受信されてしまったことで、おそらく主人公はいわば、共感させられてしまった状態になったことを表現しているのだろう。
読み手としては、これはなんだろうと疑問に思いながら、その答えを求めて読み勧めていくことになる。
興味を引いて先へと読んでもらうための工夫としては、上手いやり方だとお思った。
主人公は、大学生でオカルト研究サークルに所属している。が、メンバーは三人。誰かの家でホラー映画を見るだけ。友達の家に遊びに行っているような、そんな感じ。DVDを見終えてしまい、暑い中レンタルビデオ屋にいかなくてはならないのかと嘆く田代。普通にネトフリとかアマプラで良いだろと黄村がいえば、「黄村! この馬鹿野郎が! ホラー映画は実物を手元に置くのが至高なんだよ! リアリティが出るからな! DVD……いや、出来ればVHSが理想!」と声を上げてトラブルになりかける。それをなだめてレンタル屋へ連れだす主人公。人間味を感じながら、かわいそうにみえる。このあたりで、主人公に共感していく。
すると、レンタル店は臨時休業。三人は困った状況になる。でも黄村は肝試しを提案し、田代がそれに乗り、主人公が「そういえば」と一応近所に心霊スポットが有ると話し、車を出す。
テンポが良い。
その後、主人公が噂を話して目的地の廃墟へとたどり着く。
三人で作品を見ていたとき、
・田代
「『ほの暗い井戸の底から着信音』中々面白かったな」
・主人公
「そうか? なんかどっかで見たことあるような演出ばっかで入りきれなかったんだけど」
・黄村
「……まぁ、所詮B級だし。監督も悪い評判が多かったから、期待してなかったよ」
と話した後、
「相変わらずだな、つまらないと思った瞬間に低評価レビュー書き出す癖」は、誰のセリフだろう。
おそらく主人公だと思われる。
そのあと、
「そう言うな黄村、さて次は……あれ」
これは、きっと田代だと推測。
でも、「そう言うな黄村」はおかしい。
おそらく、「そう言うな。黄村、さて次は……あれ」だと考える。
主人公に対して「そう言うな」といって、次の作品を見ようと黄村に声をかけつつDVDを探したのだろう。
長い文にせずこまめに改行されている。読点を使わず長い一文もあるけれども、読みやすく短文と長文を用いて書かれている。口語的、 同情人物の性格のわかる会話が多く、キャラクター同士のやり取りが自然でリアル。一人称視点で語られ、主人公の内面や感情が詳細に描かれていて、ホラー要素が強く、緊張感が持続しているのがいい。
五感の描写は効果的に用いられていて、視覚的な刺激では、廃墟の黄ばんだ壁やツタ、割れた窓、暗い部屋の描写がされている。聴覚では、枯葉を踏む音やBluetooth接続の音、黄村の泣き声などが効果的に使われている。触覚は、部屋の涼しさや鳥肌が立つ感覚、さらにホコリとカビの充満した部屋の描写には嗅覚も加えている。 主人公が、廃墟で体験した回想が語られているため、無駄なくテンポよく話が進んでいくのも読みやすさの一員となっているのだろう。
とくにキャラクターの個性がしっかりと描かれ、ホラー要素が効果的に使われているので、感情移入しやすい作りになっている。
主人公の弱みは、霊感がないため、最初は心霊現象に対して懐疑的。怖がりな一面があること。
主人公の家に集まってホラー映画をみていたが、田代の持ってきた(と思われる)DVDがなくなり、レンタルショップが休業だと知って、「残念だったな、今日はもう解散と行くか?」といったのは主人公だと思われる。ホラー映画は苦手なのかもしれない。
でも、黄村の提案した肝試しに田代が乗り気となり、主人公が、「近所に心霊スポットが有る」と言い出し、車も出して二人を連れて行っている。
廃墟の中でも、ライトを後ろから照らすのは黄村で、主人公が前に出て棚の本を物色する。
オカルト研究サークルに入っていても、主人公は心霊現象を信じていないから行動できたのではと想像する。
ただ、怖かったり気味が悪いものは苦手なので、途中で帰ろうという気持ちになったが、田代が乗り気になってついていくのだ。
そんな主人公だから、拷問部屋を発見したとき、「不意に何かの映画で見た拷問部屋を思い出し」強さをおぼえる。
その後、Bluetoothの通知が届く。
冒頭の文章が画面に表示されたと推測。
その後はテンポが良く、次から次へといろいろなことが起こる展開は、主人公の絶叫とともに驚かされる。
無事に戻っていて、二人からの返信もあった。主人公は、彼らの家へ送り届けてから、帰宅したのかもしれない。
主人公の名前が出てこなかったので、なぜだろうと思って読んでいくと、主人公もBluetoothの受信をされてしまったことがわかる。
「全然怖くはないんだ。安心して欲しい」「彼女はただあいつらに頼まれたお役目を果たそうとしてるだけなんだ。教団のことを全世界に知らしめるっていう役割を」「たぶん田代と黄村も同じ事をしてるんだと思う。俺も今お役目を手伝ってるんだ、彼女の力をBluetoothの電波に載せて広めてね」と拡散していく。
教団が広めようとしていた教義は何だったのだろう。『人体部位罪集〜幸せの第一歩は自戒から〜』や彼女を現人神にしたことなどから、五体満足ではなく欠損するものが神となれる思想をもっていたのかもしれない。
名前をなくすのも、儀式のひとつなのかと邪推した。
読後、意味深で現代的、興味が惹かれるタイトルなのが良かった。
最近はレンタルビデオ屋を見かけないので、まだあるんだと、その点にも新鮮な驚きを覚えた。
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