青春大爆破

青春大爆破

作者 文字を打つ軟体動物

https://kakuyomu.jp/works/16818093081814933061


 夏羽裕翔は屋上で古臭い習慣や陰湿で排他的な町を壊す夢を持つ小鳥遊香織と打ち解けるも、彼女の死と遺書は権力者に踏みにじられた。一年後、放送をジャックし町を爆破する計画を実行、空へ翔けた話。


 現代ドラマ。

 これもまた、青春の一つかもしれない。

 キャラのやり取りが印象的で読みやすかった。


 主人公は、男子高校生の夏羽裕翔。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 絡め取り話法と女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の夏羽裕翔(ユウト)は高校の屋上で春を満喫していると、小鳥遊香織(カオリ)という上級生と出会い、二人はすぐに打ち解ける。カオリは絵を描くのが得意で、ユウトは機械いじりが趣味。二人は毎日のように屋上で会い、楽しい日々を過ごす。

 しかし、カオリはこの町の古臭い風習や陰湿な人々に対して強い不満を抱いており、町をぶっ壊すという夢を持っている。ユウトはそんなカオリを応援し、時には協力することを約束する。

 ある日、カオリは自殺し、その遺書は町の権力者によって破り捨てられる。ユウトはカオリの死をきっかけに、彼女の夢を引き継ぐことを決意。そして一年後のカオリの一周忌、ユウトは町内放送をジャックし、カオリの遺志を伝えるために町を爆破する計画を実行する。しかし、実際には爆発は起こらず、ユウトは町に対して最後のメッセージ「てめーらなんて殺す価値もねーよ! 勝手にくたばれクソ共が!」を残し、翼を広げて空に翔けるのだった。


 広がる空の謎、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末をみせるのかがきになった。

 導入の書き出しは、景色からはじまっている。

 遠景で、広がる青い空、浮かぶ白い雲といった空を描き、近景で主人公がどこにいるのかを示し、心情で最高に春を満喫していると打ちあけることで、気持ちの良い春の様子を想起させて、共感を誘っている。

 

 主人公は、高校性になったばかり。なのに、屋上に一人でいるので、すでにクラスや学校に馴染めないのかもしれない。決して一人が寂しいと決めつけるわけではないけれども、一人になりたくてきているため、どこか悲しさを感じ、可哀想に思わせてくる。

 そこに先輩の彼女が現れ、馴れ馴れしいと思いながらも名前を名乗るところに人間味を感じる。

 気心知れた仲になった気分になるように、読み手も共感していく。


 長い文にならないようこまめな改行がされていて、一文も句読点を用いて短く、口語的で自然な会話も多い。セリフから登場人物の性格がよく感じられ、シンプルで読みやすい。

 ユーモアとシリアスな要素がバランスよく混ざっており、読者を引き込む力がある。また、カオリのキャラクターが非常に魅力的で、彼女とのやり取りが中心に描かれている。

 五感の描写が豊富で、視覚や聴覚、触覚が用いられている。

 視覚的な刺激は、青い空、真っ白な雲、カオリの絵、色とりどりの羽など。聴覚は、扉の開く音、カオリとの会話、町内放送、破裂音など効果的に使われている。触覚では、屋上に寝転がる感覚、スケッチブックを手に取る感覚など、触覚的な描写もある。


 初潮のお祝いの習慣について、調べてみた。

 現代の日本では、以前ほど一般的ではなくなっている。ユニ・チャームが実施したアンケート結果によると、約65パーセントの家庭で特に初潮のお祝いは行われていないという。

 残り35パーセントは、お祝いを家庭で行っている。伝統的な赤飯を炊く代わりに、


一、ケーキや子どもの好物を用意する。

二、家族で外食に行く。

三、 プレゼントを贈る。

四、本人の希望を聞いてお祝いの方法を決める。


 という具合に、多くの家庭では、子どもの気持ちを尊重し、恥ずかしさを感じさせないよう配慮しているという。

 地域全体で初潮を祝う習慣は、現代の日本ではほとんど見られません。むしろ、個人的で控えめな方法でお祝いする傾向が強くなっています。ただし、家族の価値観や本人の希望によって、お祝いの方法は様々である。

 つまり、地域全体で初潮を祝う習慣は、現代ではほとんど見られないが、行っている場所もあるということ。

 それが、主人公たちのいる地域だったのだろう、と想像してみた。


 主人公が考えたように、大学に行くとき、都会に出ていこうと、先輩は考えなかったのかしらん。

 考えたけれど、大学進学をさせてもらえない家だったのかもしれない。彼女にとって、他に選択肢がなかったのだろう。


 主人公ユウトの弱みは、カオリの死によって強く影響を受け、彼女の夢を引き継ぐことに対する迷いや葛藤。平穏に暮らしたい願望を持ちながらも、カオリの影響で大きな行動に出ることになる。

 主人公に直面している問題や葛藤を描写くことで、主人公が次にどんな行動を取るのかは予測しやすく、彼女の思いを引き継ぐのは想像できた。

 でも、放送をジャックした後、町を破壊するのではなく、空へ翔び出していく展開は予想外で、驚きを覚えた。


 欲をいえば、カオリの自殺理由や背景がもう少し詳しく描かれると、深みが増したと考える。ユウトの内面的な葛藤や成長も、もう少し描かれていると、より深く主人公に共感が持てたかもしれない。

 主人公が選んだオチは、彼女のように張り合わせた紙に翼を描き、空へ翔けることで町や世界に反旗を翻す。

 放送ジャックをしたのは、「盛大なショーには演出が必要だろう?」というのはよく分かる。観客がいるから、度肝を抜くようなことをしてみせる。自己顕示欲の現れである。

 世代交代が進むと、町の環境も変わる気がする。

 圧倒的に、子供の数が少ないので、大人や高齢者が多い。すると、ある一定の年齢層の人口比率が多い状況、いわゆる逆ピラミッド状態になっているのだろう。

 端的にいえば、高齢者の町に子供が住んでいるのだから、自分たちの町じゃない、窮屈だと思うのは当たり前である。

 あと十年くらいすると、上の世代がごっそりいなくなるので変わると思う。ただそのとき、子供の数は更に少なくなっていると考えるので、いつの時代も子供は、本作の主人公たちと同じような思いを抱えることになるかもしれない。


 読後、これも青春と思った。

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