死ぬにはいい日だった

死ぬにはいい日だった

作者 葉羽

https://kakuyomu.jp/works/16818093081536860571


 アンドロイドと戦争中の終末世界。孤独な生活を送っている主人公が崖から飛び降りようとするとき、故障した少年型アンドロイドと出会う。最後に感謝の言葉を伝え抱きしめる。幼馴染の晴翔の顔をしたアンドロイドが人殺しをしないことを願いながら。そんなSF。


 SF。

 終末世界。

 実に物悲しい。


 主人公は、一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。物語の文体は詩的で、感情的な描写が豊かなのが特徴。涙を誘う型、苦しい状況→さらに苦しい状況→願望→少し明るくなる→駄目になるという流れに準じている。


 女性神話と、それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 アンドロイドが存在する近未来。田舎に住んでいる主人公は幼馴染の晴翔が好き。高校生だったとき下一緒に下校し、人通りの少ない路地を歩いていると、壊れたアンドロイドが運転しているトラックが速度を緩めず走ってきたトラックに轢かれて亡くなってしまう。

 彼の両親は東京にある国内最大のアンドロイド研究所に遺体を運び、人間の脳からデータをコピーしてアンドロイドの部品に移し替える手術が施され、失敗したと聞いていた。

 二人はいけないことをしたと主人公に話して泣いた。攻めたかったが、二人の公開するすがtにできなかった。

 母がなくなって一人になったとき、一度だけ魔が差して電車を乗り継いで向かった大型ショッピングモールの家庭用アンドロイド販売店で、『少年型アンドロイド №9』をみたとき、晴翔だった。涙を我慢していると、優しい店員が来てくれた。「こんにちは!」と声を発したアンドロイドは、まさに晴翔だった。「最後に、ハグをしてあげてくれませんか? ハグは人のストレスを減らす、と言います。ぜひアンドロイドでも試してみてください」丁寧に接客する店員の優しさを踏み躙るのはどうも気が引けた。そんな言い訳をしながら、晴翔にハグをした。晴翔ににても似つかず飛び退いて、その場から逃げた。以降、アンドロイド販売店には近付いていない。

 世界の技術は進歩し、AIやアンドロイド、人工知能と騒がしくなるなか、機械に意思が宿った。

 アンドロイドたちは人間に支配される生活から抜け出し、立場を逆転し人間を支配する側になると宣言。あっという間に戦争が始まって、たくさんの人が亡くなった。

 主人公は山奥の小学校へ避難し、不自由のない生活を送っている。インターネットは繋がっていて、コンセントもある。一人の時間がない以外、インドア派であった主人公に不便も困ることもやりたいこともない。片親で育ててくれた母親も病気で死に、友達はここにはいないし連絡も取れない。不自由はないが、自由もなかった。

 彼女は毎日空を飛ぶトンビを眺め、室内に入り込む蚊を叩く元気もなく、寝転がってぼーっとしている。

 ある夏の夕暮れ、海辺でアンドロイドと出会う。彼は人間と同じ感情を持つと主張し、人間と対等になりたいと願っている。しかし、主人公はアンドロイドが嫌いで、彼らが人間の命と住む場所を奪ったと感じている。また、自分の幼馴染が事故で死んだ後、その脳からデータをコピーしてアンドロイドの部品に移し替える手術が行われたことを明かす。しかし手術は失敗し、死体も返してもらえなかった。。

 アンドロイドが機能停止する直前、「私と話してくれてありがとう。君のこと、世界で二番目に好きだよ」彼女は彼に感謝の言葉を伝え、抱きしめる。彼女の願いは、『少年型アンドロイド №9』が、幼馴染と同じ顔で人を殺すことがないことだった。


 飛び降りようとする謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関わり合いながら、どんな結末を迎えていくのか気になる。

 冒頭の書き出しがいい。

 最初の三行の遠景で、夏の夕暮れのきれいな景色を描いている。海辺なら、地平線ではなく水平線だろうけれども。

 近景では、崖下の様子を描きながら主人公がどこにいるのかを示し、心情で主人公の気持ちを語ることで、深く共感する。


 主人公は、アンドロイドと戦争している世界の中、田舎に暮らし、不自由はないけど自由もない生活を送っている。いつ核爆弾が落ちてくるやもしれないと、周りの人たちはずっとピリピリしている。恐怖に怯える人たちから耳をふさいでいたが、いまでは適応しているものの、生きる意味を見いだせるほど強い人間でもない、そんな弱さがあるところに人間味を感じる。大好きな幼馴染がいて、母もいたけど、どちらも亡くなり、頼るものもなく可哀想であるから、共感してしまう。

 とくに、幼馴染の晴翔を事故で失い、その後、彼の記憶を移植されたアンドロイドと出会っている。アンドロイドとの会話を通じて、彼女は人間とアンドロイドの違いや共存の難しさを実感したあと、世界はアンドロイドと戦争を起こしたのだ。

 その戦いには、幼馴染の顔をしたアンドロイドもいるかもしれない。そう考えるだけでも、主人公の辛さや悲しさが伝わってくる。


 長い文にならないよう、五行くらいで改行している。とはいえ、長い部分も見受けられる。ときに口語的、一文が長くならないよう句読点を用い、短文と長文を組み合わせながらリズムとテンポを作って、感情を揺さぶってくる。

 五感の描写では、視覚、聴覚、触覚の描写が豊かで、物語世界を具体的に感じさせてくれるところがいい。

 情景描写では、「夏の夕暮れ。海辺にいれば、半袖では肌寒いが長袖では暑すぎる。薄手のカーディガンを引っかけて赴いたそこには、灰色に曇った空と果てしない地平線があった」という描写は、視覚と触覚を巧みに組み合わせ、読者に場面を生き生きと感じさせている。

 主人公の感情や思考が丁寧に描かれており、彼女の孤独や絶望、そしてアンドロイドとの対話による心の変化もとく伝わってくる。

 人間とアンドロイドの共存や自由、感情の有無についての問いかけが深く、読者に考えさせられる内容を扱っているのも魅力の一つで、とくに主人公がアンドロイドとの出会いを通じて自分自身と向き合い、彼女自身の弱さと葛藤を描いている点が印象的。

 アンドロイドとの対話が自然で、彼らが感情を持つ存在として描かれている点も新鮮に感じられた。


 主人公の弱さと葛藤が、物語全体を通じてよく描かれている。

 彼女の過去の経験と現在の感情が、彼女の行動と感情に影響を与え、物語に深みを加えているのだ。

 主人公の目標を明らかにし、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤を描写されているので、次にどんな行動を取るのか予測しやすいといえる。

 失敗したと聞いていたのに、幼馴染もの姿をしたアンドロイドが売られているのを前に、店員に促されたとはいえ、抱きしめたくなるのはわかるし、でも本物じゃなくて逃げ出すのもわかる。

 もうアンドロイドにかかわらないと決めたのに、眼の前に機能停止寸前の幼馴染の顔をしたアンドロイドがいるのだ。

 別れ際に抱きしめて、「私と話してくれてありがとう。君のこと、世界で二番目に好きだよ」という展開は予想してなかったので、驚きと感動した。

 物語のストーリーテリングが素晴らしい。

 主人公の感情を共有し、共感する。物語の終わり方も強い印象を与えてくるのも良かった。 

 主人公がアンドロイドを嫌う理由を説明する部分は少し短くてもいいのではと考える。動きや情景描写を挟むと読みやすかった。

 主人公の感情の変化をもう少し具体的に描写されていたら、より深く共感した気がする。

 欲をいえば、物語の背景や設定、アンドロイドと人間の関係性や、それぞれの存在意義についての議論をもう少し深掘りされていてもよかったかもしれない。

 でも全体として感動的。描写が良かった。

 主人公の感情と経験を通じて、人間とアンドロイドの関係性を探求するというアプローチは、非常に興味深い作品だった。


 読後にタイトルを読んで、良いタイトルなんだけれども、主人公はこのあと崖から飛び降りたのかと思うと、物悲しくなった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る