〜ひと夏の思い出〜ゲーマーの俺のスキルは異世界で通用するのか……

〜ひと夏の思い出〜ゲーマーの俺のスキルは異世界で通用するのか……

作者 国語力 レー点

https://kakuyomu.jp/works/16817330669257260089


 三年前、キャンプで妹が原因で親は離婚し母親に引き取られた中学三年生のいろいろなゲームの世界ランカー・佐藤パズルは、母の実家から異世界に飛び、カルディナと出会い、竜神を倒せば願いを一つ叶えてくれると知る。自分自身と向き合って成長していく中で、三年前、あおり運転されて家族を亡くした鈴木遊戯も竜神退治の旅をしていた。やがて二人は協力して戦いに挑むも、鈴木は佐藤をかばって死んでしまう。佐藤は竜神を倒して願い、妹を救うために三年前の過去へ戻り、同時に鈴木の家族も助ける。三年後、再びカルディナと鈴木と再会し、三人で新たな異世界の冒険が始まる話。


 文章の書き出しはひとマス下げる云々は気にしない。

 異世界転移ファンタジー。

 ものすごい大冒険が描かれている。


 主人公は、中学三年生で色んなゲームの世界ランカー、佐藤パズル。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 三年前、家族でキャンプしているとき、妹がなくなったことが原因で親は離婚。母親に引き取られ、今年の夏は母の実家のある田舎へ遊びに行くことになる。

 ゲームをやろうとしてもWIFIもなく何も無いと文句をいうと、たまには外に出なさいと言われて追い出されてしまう。洞窟を見つけて中にはいり、抜け出た先の草原で火を吹く猿に遭遇。剣を持った少女カルディナと出会い助けられる。帰り道を失ったため、異世界へと転移したと悟り、彼女とともに王都へ向かう。王様に別の世界から来たこと、戻る方法を訪ね名乗ると、かつて世界を救った勇者の名前が佐藤という。子孫かと問われ、多分と答える。以前お勇者は龍神を倒して元の世界に戻ったという。竜神を倒せばどんな願いも一つだけ叶うという。また、自分は魔法が使えないことを知る。

 勇者が残した鉄の塊をルービックキューブのように解いて縦に帰ることに成功する。

 カルディナとゴブリン退治をするも、佐藤は生き物を殺したことがなかった。世界で無双するなんて無理だと嘆く。やらなければ自分が死ぬだけと言われ、竜神を倒して妹を生き返らせる事ができる気づき、竜神討伐に意欲を燃やす。佐藤の武器をまたパズルのように解くと、拳銃になる。いろいろ試している内に、さらにたまの代わりに魔力を込めて打ち出す拳銃だと気付く。自分自身の弱さと向き合いつつ、成長していく。

 旅の中で、三年前に亡くした家族を取り戻すために竜神を倒しに来た鈴木遊戯と出会う。鈴木は竜神を倒すために必要な宝玉を持って去っていった。

 佐藤たちは大蛇を倒す際、二丁拳銃を組み合わせて大砲に変え、大蛇を倒し宝玉を手に入れる。大砲が大剣に姿を変える。宝玉が武器のレベルをあげて、竜神を倒せるようになることに気付いてからは、引き続き龍神の情報と宝玉を探す旅に出ていく。

 神獣である麒麟と対峙し、その強大な力に挑む。リズムゲームで鍛えた反射神経で攻撃を交わし、鱗を切り刻む。だがパズルは麒麟を殺すことができず、

「龍神を倒すには、麒麟と朱雀の力が必要だが、もう一人の勇者、鈴木が朱雀の力を手に入れている。しかも麒麟の力を奪いに鈴木が現れる。麒麟を焼き尽くす鈴木に、人々を守る守り神を、私情で殺すのは間違っているという佐藤。宝玉を揃えた鈴木だったが、麒麟の宝玉は佐藤のもつ武器に吸い込まれていった。

 その後、鈴木と協力して龍神との戦いに挑んでいくも、戦いの最中で鈴木は命を落としてしまった。「あの日、三年前の夏休み初日に家族で出かけなければ……高速であんな事故に合わなかったのに」と言い残して。

 魔法でも助けることが出来ないことを知る佐藤。鈴木が持っていた宝玉が武器に吸い込まれ、佐藤の体を鎧で包む。最終的に龍神を倒すことができ、妹を救うために願い、目を覚ますと、家族で出かける日の朝だった。あの日より一時間以上も早く家を出、パーキングによる。

 あおり運転を受けた鈴木の家族は、パーキングで揉めたあと事件に遭った。パーキングであの日の車を見つけた佐藤だったが、二台の車は走り出そうとしていた。

 佐藤は走っておいかけ、手を伸ばすとカルディナの使っていた衝撃波が出て、犯人の車を吹き飛ばした。犯人の運転手は車を降りてバーストしたのを確認しているあいだに、鈴木を乗せた車は走り去っていった。

 ガッツポーズした佐藤は、家族の待つ車へと戻っていった。

 三年の月日が流れ、中学三年となる。夏休みの最初の日、母に頼んで母の実家へ行き、洞窟から異世界へ。カルディナと鈴木と再会し、鈴木から礼を言われる。世界一の冒険家にする協力のもと、三人で行く異世界の冒険がはじまるのだった。


 蝉の鳴き声の日常からはじまる謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな問題に関わり、どのように解決をしていくのか興味が湧く。

 遠景で、蝉の鳴き声を描いて夏と示し、近景で、どのような夏で、場所はどこでなにをしているのかを描き、心情で校長先生の話なんてそっちのけで、こそこそ話をしている会話を描いて、退屈さや不自由、窮屈さを感じ、共感させていく書き方がされている。


 主人公は、中学生にして、いろいろなゲーム世界ランカーという、羨ましがられている存在。それに対して、「まあ、俺の取り柄なんてそんなもんだけだよ! 一位にはなった事ないし……」

奢ることなく謙遜してみせているところや、「お前のその能力が有れば神様からチート能力貰わなくても余裕で異世界で無双出来るんじゃねーのか?」とまで言われて木を良くして笑って怒られ、大人しく謝るところも、人間味を感じる。

 夏の暑い中、長い話を聞かされていることや、三年前のキャンプで妹を亡くし、親が離婚しているところは可哀想に思えるところに、共感する。


 長い文にならないよう改行され、一文を長くしないように句読点を入れ、彼の思考と感情を直接的に描写している。

 十代の若さと主人公の日常的な言葉遣いを反映した口語的な文体で書かれ、読みやすい。

 主人公の成長と冒険を中心に展開されているので、読者層の十代の興味を引きつけていると考える。ゲームスキルが異世界でどう役立つのか、という独自の視点はいいと思う。

 本作では、主人公の内面的な成長を強調している。

 パズルは、異世界での経験を通じて自分自身の弱さと向き合い、それを克服していく成長と変化の様子を、全体を通じて一貫して描かれているのもよかった。

 五感の描写では、視覚や聴覚、触覚を駆使して描かれている。

 異世界への転移や戦闘シーンでは、視覚的な描写が豊か。冒頭の蝉の鳴き声、戦闘シーンでは雷の音や炎の熱さ、剣と鱗の衝突音などが描かれている。

 文中に見られる三点リーダー「……」の多さは、読み手にとっては少々混乱を招いたり、読みにくさを招くかもしれない。句読点に置き換えると、より読みやすくなると思う。


 主人公の弱さは、物理的戦闘には慣れていないゲーマーで、生き物を殺すことに抵抗感を持っていること。

 この点が、彼が異世界で直面する困難を克服するための成長の余地となっている。たしかにゴブリンは人の姿に似ているし、現実世界では大型生物を屠殺することもしない。大人だって、せいぜい魚をさばく程度だろう。

 中学生の主人公なら、よほどでないかぎり、生き物を殺す経験をしている人はいない。そう考えると、克服するのはかなり大変なのが想像できる。


 主人公の感情や動機、ユウギとカルディナのキャラクターはもう少し深掘りして描かれていると、物語がより豊かになった気がする。


 また、異世界の設定やルールについても同じく、もう少しくわしく説明されると、物語世界がリアルに感じられるのではと考える。

 主人公のゲームの世界ランカーの才能は、たしかに麒麟との戦いで、リズムゲームで鍛えた反射神経が活かされている描写があるし、大蛇との戦いで、二丁の拳銃を組み合わせて大砲に変えるシーンなど、ゲームで培った戦略的思考が活かされている。

 ただ、特定のゲーム内での技術や戦術が現実の戦闘でどのように応用されているかを具体的に描写されていたら、ゲームの世界ランカーとしての主人公の凄さが際立つ気がする。カルディナが主人公のゲームの才能に驚いたり、ユウギとの対立がゲームのスキルを通じて解決される場面とか。

 

 主人公の目標を明らかにして、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、直面している問題などから、読者は話の流れは予測しやすくなっている。でも、竜神との戦いの中で鈴木遊戯が倒れ、間際に言い残したことで、三年前におきた事件を思い出す流れは、予想外で驚いた。

 

 主人公のパズルが、妹を救うために異世界で戦い続ける姿は、読者にとって感情移入しやすかったし、鈴木遊戯が自分の命を犠牲にしてまでパズルを助けるシーンは、友情や犠牲のテーマを強調していてよかった。

 解決した後、二人はどうして異世界に戻ったのだろう。

 あの洞窟は、どうしてまた二人の前に現れたのか。

 新たな冒険や、絆を深めるたか。少なくとも、主人公はカルディナにお礼をするといっていたけど、お礼をしていなかったはず。彼女を世界一の冒険家にするために協力するために戻ってきたのかもしれない。鈴木遊戯はどうなのだろう。主人公にお礼が言いたいために、異世界へ来たのかも知れない。二人の友情が、新たな冒険で深まっていくのかも知れない。

 異世界での新たな展開が、期待される希望に満ちた終わり方で、読後感はよかった。

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