数式はおやつに入りますか?

数式はおやつに入りますか?

作者 あしゃる

https://kakuyomu.jp/works/16818093082015865349


 佐藤夏は授業中、お腹を空かせた笠原鉄平がノートに書かれた数式を食べるのを目撃。自分で試してみると、剥がす人によって味が異なることに気づき、二人はこの現象を自由研究のテーマにする話。

 

 会話文はひとマス下げないは気にしない。

 現代ファンタジー。

 数式を食べる不思議現象が興味を引き、キャラクターのやり取りが自然で軽快な文体が魅力的で面白い。


 主人公は、黎明高校一年一組の女子、佐藤夏。一人称、わたしで書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。途中、ですます調が効果的に使われている。面白い作品にみられる、どきり、びっくり、うらぎりの三つの「り」がある。

 

 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 高校生の佐藤夏(なつ)と笠原鉄平(てつ)は、教室で夏休みの宿題を一緒にやっている最中に、てつがノートから数式を剥がして食べるという不思議な現象を目撃し、驚く。

 数式を食べると味がすることに驚いたなつは、自分でも試してみると、剥がす人によって味が異なることに気づく。二人はこの現象を自由研究のテーマにしようと決め、研究を進めることにする。


 四つの構造で書かれている。

 導入、夏とてつが教室で宿題をしている場面から始まる。

 展開、てつが数式を剥がして食べる。夏も試してみる。

 クライマックス、数式の味が剥がす人によって異なることに気づく。

 結末、二人が自由研究のテーマに数式を食べる現象を選び、研究を進めることを決意する。


 数式の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎がどう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 台詞からの書き出しは、物語に入っていきやすい。 

 遠景で「おなかすいた」と誰もが一度は思ったことのある言葉からはじまり、近景で腹の虫が鳴き、心情で主人公と友人のてつのものであり、悲しく教室に響くと語られる。

 主人公は空腹。

 でもまたお昼には早い。

 小腹がすいたからと、カバンをまさぐっていると、目の前のてつが、ノートの数式をなぞえり、剥がして食べる。

 突然の出来事に、非常に興味が湧く


「勉強のし過ぎで頭がイカれたか、空腹で頭がイカれたか。ともかく、目の前の現象に固まってしまった」主人公に、読者も同じ気持ちになる。一体何が起きたのだろうと、ますます持って共感していく。

 一度は、頭がイカれたか(随分とひどい扱い)と納得して、ノートを見ると、数式が書き込まれた中に、空白を見つけ、食べたことが発覚する。

 とにかく、予想外の展開の連続が面白い。


 長くない文。数行で改行。句読点を用いた一文は長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶっているところがある。

 ときに口語的。 軽快で読みやすい文体。登場人物の性格のわかる会話が多く、テンポが良い。不思議な現象を日常の中で描くことで、読者の興味を引く。キャラクターのやり取りが自然で親しみやすいのが特徴。

 数式を食べるというユニークなアイデアが新鮮。夏とてつの関係性が微笑ましく、読者層である十代の若者に親近感を与えるところもいい。

 五感の描写として、視覚は数式が剥がれる様子や教室の風景が具体的に描かれている。

 触覚は、手のひらに乗せて数式の羽のような軽さ、数式をんぞったり、ノートをひっかいたりする様子など。

 聴覚は腹の虫の音や数式を剥がす音が効果的に使われている。

 味覚は式の味が具体的に描写されており、読者に想像させる力がある。


「不思議現象注意報。黎明高校1-1の教室にて不思議現象勃発中です。該当者は直ちに報告書に記入をしてください。そんな的はずれなアナウンスが頭の中に響いている」

 文体はなるべく揃えたほうが読みやすいのであって、混ぜて使ってもいい。印象的な場面で使うことで、いつもと違うことが起きていことを読み手に伝える効果となっている。

 こういう使い方は上手い。


 主人公の弱みは不思議現象への戸惑い。夏は数式を食べるという現象に戸惑いを感じている。誰でも、そんな稀有な状況に遭遇したら、戸惑うだろうから仕方ない。むしろ自然な判断だと思う。

 自信のなさも弱みであり、自分でも数式を剥がせるかどうかに対する不安を抱いている。

 これも、常識で考えて不安を抱くのは普通だろう。

 だけど、こうして普通でないことを体験したことで当たり前を疑えるようになり、数式を食べ、剥がす人間によって味が異なるという発見に繋がっていったのだ。

 数式を食べる現象の背景や理由がもう少し説明されると、読者の理解が深まるかもしれない。

 てつは、どうして数式が剥がせることに気づいたのか。

 剥がした後、どうして食べようと思ったのかしらん。

 数式が剥がれるなら、他のもの、たとえば国語や古文、英作文ではどうなのか。数式が行けるなら、化学式はどうなのだろう。

 さらに興味が湧いてくる。

 また、夏やてつの内面描写などが増えると、キャラクターにさらに深みが出る気がする。二人の関係が今ひとつわかっていない。

 教室で夏休みの宿題をやっているみたいだけれども、クラスメイトで友達なのか、幼馴染なのか、席が近いとか。教室でやる理由はなんだろう。

 高校生でも自由研究がある学校もあるかもしれない。


 十二時となり、腹の虫が更に大きくなってお昼を食べに行くというオチは良かった。


 読後。バナナはおやつに入りますか的なノリのタイトルからの、数式を食べるというユニークなアイデアがとても面白かった。

 夏とてつのやり取りが微笑ましく、読んでいて楽しい。数式の味が人によって違うという発見も興味深く、自由研究のテーマにする展開もワクワクした。

 二人はどんな研究にまとめ上げて発表したのかしらん。とても興味が湧いた。

 

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