灯り

灯り

作者 よしこう

https://kakuyomu.jp/works/16818093082826981770


 どこかで父が生きていると信じながら貴族や工場長が捨てた物を拾って生き延びている少年は、帰ってきた父に頭を撫でられる話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等気にしない。

 時代もの。

 ファンタジー要素もある。

 さらっと濃い話を描くところが凄い。

 少年の孤独と希望を描いた感動的な作品。五感を使った描写が豊かで、情景が鮮明に浮かんでくる。

 

 三人称、少年視点、神視点で書かれた文体。感情を引き出すような書き方。現在、過去、未来の順に書かれている。

 

 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 少年は貧民窟から少し離れた街の石畳で暮らしている。彼は争いが苦手で、貧民窟の不衛生な環境や絶えず起こる殺人を避けている。毎日、街でゴミを拾い、貴族や工場長が捨てた物を利用して生き延びている。

 少年は両親の記憶を頼りに生きているが、軍人の父は三年前に戦地に赴き、敗戦の報せとともに行方不明になり、母もいなくなった。使用人から家を売るように勧められ、売ったお金を取られて逃げられたのが一年前。日々の暮らしに事欠くようになったのは半年前。それから少年は街でゴミを拾い、生き延びている。

 少年は父の手紙を大切にし、父がどこかで生きていると信じている。ある日、懐かしい足音と共に父の姿が見えた気がします。父の声を聞き、目を閉じると、父の手が少年の頭を撫でる感触を感じるのだった。


 四つの構造で書かれている。

 導入、少年の寒々とした生活環境の描写。

 背景、少年の過去と家族の状況。

 日常、少年のゴミ拾いと生き延びるための工夫。

 クライマックス、父の声と感触。


 冷気の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関係し、どのような結末に至るのか気になる。

 場面状況からの書き出しがいい。

 遠景で寒々しい石壁と身を刺す冷気が襲うことを描き、近景で少年が薄いガウンを羽織って雪を起用に避けて震えていると具体的に説明し、心情で一陣の風にガウンを飛ばされまいと必死につかむ。


 過酷な状況に主人公はいるのがわかり、可愛そうだと共感を抱く。

 通り過ぎる馬車が落とした一枚の布を「小さく痩せ細った手」でひろい、自身にかけて、ほそぼそと灯るランプの火に自らを重ねる。

 いまにも消えてしまいそうな、そんな自分自身。

 だれも助けてくれる人はいない。

 孤独と絶望が漂うところからも、共感していく。


 冒頭の導入は客観的状況で描かれ、本編は少年の主観。結末は客観的視点で状況を描いていく。

 長い文ではなく、こまめに改行。句読点を用いた一文は長くない。

 状況描写に人物の動きを示す描写は豊かで、読みがいがあり、感情を引き出すような文体。過去と現在が交錯して物語に深みを与え、少年の孤独や希望が丁寧に描かれているところが良い。

 五感を使った描写が多く、情景を鮮明に伝え、読者に少年の厳しい生活環境をリアルに感じさせている。

 視覚は「石壁はどこか寒々とした感を与え」「灯油のランプがゆらゆらと揺れて」「雪を器用によけて震えている」「馬車の荷台から一枚の布が舞い上がった」「ふと朝日が少年の目を刺した」

 聴覚は「一陣の風が吹き抜けた」「ガタガタと音がした」「馬のいななく声と高く鋭い喇叭の音」「軍靴の音が近づくにつれて」

 触覚は「冷気は身を刺すように襲う」「その少年はただ汚れた薄いガウンを羽織り」「その小さく痩せ細った手でしっかりと掴んだ」「父のゴツゴツとした手が少年の頭を撫でた」

 嗅覚は「灯油のランプはまだ細々と灯っていた」

 味覚に関する直接的な描写はないが、少年の貧しい生活から、飢えを感じさせる描写が間接的に伝わる。


 主人公の弱みは身体的な弱さ。

 痩せ細った手では争いができない。

 軍人の父と母がいたころは大切に育てられたのだろう。母がなくなり、父が戦地へ赴き、使用人に騙されてお金を取られ、家族を失った少年は孤独に生きている。

 おまけに、雪深い土地であり季節でもある。

 寒さを凌ぐこともままならない。

 他のキャラクターとの対話を増やすことで、物語に動きを持たせることもできるが、主人公は一人なので難しいだろう。回想で使用人に騙されたところの会話を描くこともできるが、一年前の出来事であり、思い出したくもないだろう。


「丁度三年ほど前のことだ。敗戦の報せが血まみれの伝令とともにやってきて、その後父の行方は分からなくなった。最後にやってきた手紙にはいつも通り戦況のことなど書いていない。ただ息子への愛を綴った短い手紙だった」

 三年前の伝令から行方がわからなくなったのだから、父から届いた手紙はその前のものと推測。

 父親とは、四、五年は会えてなかっただろう。


 状況描写がいい。

 これまでは凍てつく寒さの中、凍えながらなんとか生きている姿を描き、過去を回想しては、寒さに震えて父の帰りを切望してきた。

 そんな少年が朝日をみる。

 まず光。

 少年の目を刺した。雪に反射していつもより眩しい。

 なにか違うぞ、という予感めいたものを感じさせている。

 うっすらと雪で覆われた馬車の轍が見え、日の光の暖かさを、雪が溶けていくことで強調している。「暖かな」はなくてもいいかもしれないが、おそらく少年が暖かさを感じているのだ。

 光と暖かさを感じた後、懐かしい足音とともに、馬のいななきと、ラッパの音。

 人々が目覚める声に、抱き合って歓声が上がってくる。

 聴覚刺激は距離を感じさせ、視界の中に父の面影を見る。

「軍靴の音が近づくにつれて、馬のいななきが近づくにつれて、日の光が増していくのを感じた」

 聴覚描写で作り、近づきながら日の光が増す。

 つまり、希望が現実のものとして目の前のやってくる表現。

 そして、父の声。

 まだ遠差を感じる。

 眩しさに目を閉じることで、父親が直ぐ目の前にいることを感じさせてから、あの「軍人特有のごつごつとした手でよく少年の頭を撫でてくれた」なつかしい父の手で撫でられ、触感描写を用いることで実感できたのだ。

 父と子の感動的な再会のために、視覚と聴覚、触覚の描写を巧みに利用して描いているところが上手い。


 読後。灯りとは、まさに希望であり、少年にとっては父だった。

 非常に感動的で、少年の孤独や希望に共感した。

 描写が豊かで、情景が目に浮かぶようだった。

 ラストは、読み手に暖かみさえ感じさせてくるいい作品だった。


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