粉ミルクメイカー

粉ミルクメイカー

作者 加藤那由多

https://kakuyomu.jp/works/16818093084134369598


 娘の世話に追われるシングルマザーの光莉は、発明品「粉ミルクメイカー」を手に入れ、便利さに感謝。発明した鈴本昌に感謝を伝え、彼に自分を助けてほしいと願い出る。「お金を稼げる発明をしてからで」と答える彼が立派な発明家になることを確信し、期待を寄せる話。


 現代ドラマ。

 SF要素もある。

 シングルマザーの苦労と希望が描かれている。


 主人公はシングルマザーの光莉。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話と、メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 シングルマザーの光莉は、娘の世話に追われる日々を送っている。 彼女の母が駅前で見つけた「粉ミルクメイカー」という発明品が、光莉の生活を少し楽にしてくれる。粉ミルクメイカーは、熱い粉ミルクを赤ちゃんが飲める温度に保温してくれる道具で、光莉はその便利さに感謝している。

 光莉は、この発明品を作った鈴本昌と出会い、彼に感謝の気持ちを伝える。鈴本は友達の要望で作っただけと言うが、光莉は彼の実現力を評価する。二人は連絡先を交換し、光莉は鈴本に「自分を助けてくれるロボット」を作ってほしいと頼み、「それが無理なら、あなたでもいい。いやむしろ、あなたに助けてもらいたい」という。

 鈴本はまだその段階ではないと答えるが、将来的には光莉を支える発明をしたいと約束する。

「僕にはまだ早いと思います。だから……それを作るのは、あなたを支えられるだけのお金を稼げる発明をしてからでいいですか?」

 光莉はもちろんとうなずき、鈴本が立派な発明家になるのは遠い未来ではないと確信し、彼の未来に期待を寄せる。


 四つの構造で書かれている。

 導入、光莉の苦しい日常と粉ミルクメイカーの登場。

 展開、粉ミルクメイカーが光莉の生活を変える。

 クライマックス、鈴本との出会いと感謝の言葉。

 結末、光莉と彼の将来への希望。


 シングルマザーの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 主人公の叫びにも似た感情からの書き出し。

 遠景で「わたしが頑張らなきゃ娘が死ぬ」と示し、近景で「それが事実としてわたしの両肩にのしかかる」と説明、心情でむすめのねがおをみながら 油断できない苦しみを味わっていると語る。

 冒頭から、必死さが伝わってくる。

 主人公はシングルマザーで、イケメンの口車に乗って、子供ができ、退学して現在の状況にあるという。

 イケメンに逃げられたのだ。きっと養育費も払ってもらえていないだろう。可愛そうで、共感を抱く。

 そんな主人公を叱咤し、助けてくれているのが彼女の母親である。

 美徳であり愛情を感じ、こういうところからも共感する。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いた一文も長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶっているところがある。

 時に口語的。登場人物の性格がうかがえる会話文。シンプルで読みやすい。感情の描写が豊かで、共感を呼び起こすところが特徴。

 とくに、光莉の苦しみや喜びがリアルに伝わるところがいい。

 粉ミルクメイカーというユニークな発明品が物語の中心なり、光莉が困難を乗り越え、希望を持つ姿が描かれているところもよかった。

 五感の描写として、視覚は粉ミルクメイカーの外観や光莉の表情。

 聴覚は娘の泣き声や鈴本との会話。

 触覚は粉ミルクの温度や光莉の疲れた体。嗅覚は粉ミルクの香り。味覚は娘が飲む粉ミルクの味。これらは具体的に書かれていない。


 主人公の弱みは孤独感。

 シングルマザーとしての孤独感や不安が根底にある。また、経済的な不安があると考えられ、退学後の経済的な困難さも抱えていると推測される。

 学業、女性の仕事、賃金の格差がある。

 高校は出ておいた方が良いし、大学を出ていたほうが就職先の選択肢も広がる。退学とあるだけで、主人公がいくつなのかはわからない。

 光莉の過去や鈴本の背景についてもう少し詳しく描くと、物語に深みが増すのではと考える。


 鈴本のいう友達とは誰なのかしらん。

 相手は子供がいるので、既婚者かもしれない。「その時は光莉さんのほしいものを作ります。もう友達ですから」とあるので、別の発明品を作ったとき、商品を購入してくれたお客さんかもしれない。

 作った商品の感想をもらい、改良や改善、次の発明へとブラッシュアップしていっている可能性も考えられる。だから、お客さんではなく友達と言う表現をしているのかもしれない。

 そのへんがわからないので、他のキャラクターとの出来事などもあってもいいのではと邪推する。ただ、蛇足な気もする。


「その笑顔に胸が痛む。昔にもあった『好き』の感情だ。一年前のわたしはこれを信じて苦しんだ」

 主人公は惚れっぽいのかしらん。

 一年前に苦しんだとしながら、

「それなら、わたしを助けてくれるロボットを発明してほしいです。それが無理なら、あなたでもいい。いやむしろ、あなたに助けてもらいたい」

 ほぼ初対面の相手に告白とプロポーズをしている。

 彼女の行動は、それほどまでに困窮し、助けを求めている裏返しなのかもしれない。

 彼もまた、「僕にはまだ早いと思います」と断っておきながら、「だから……それを作るのは、あなたを支えられるだけのお金を稼げる発明をしてからでいいですか?」保留の答えを出している。

 彼の好みの女性だったのかしらん。


 読後。シングルマザーの苦労と希望をリアルに描いており、感情移入しやすい作品だった。粉ミルクメイカーという発明品が物語にユニークな要素を加えて、光莉と鈴本の関係が温かく描かれていて読後感も良かった。


「粉ミルクメイカー」は、粉ミルクを赤ちゃんが飲める温度に調整し、保温するための道具。

 現実に、似た商品がいくつか存在している。

 粉ミルク調乳器という粉ミルクを適温に調乳する機械がある。ピジョンの「調乳じょ〜ず」など。

 また、調乳ポットは、粉ミルクを作るために特化した電気ポット。これにより、適切な温度のお湯を簡単に用意でき、ミルク作りがスムーズに行える。

 多くの調乳ポットは、ミルク作りに最適な温度(約七十度)にお湯を保温。小型のものから大容量のものまであり、必要に応じて選べ、お湯を沸かす手間が省け、授乳時に迅速にミルクを準備できるという。


 また、ミルクウォーマー、哺乳瓶ウォーマーとも似ている。

 作中の「粉ミルクメイカー」は、粉ミルクを適温に調乳する機能を持っているが、現在の哺乳瓶ウォーマーは、既に調乳されたミルクを温める機能が主である。フィリップスの「アベントボトルウォーマー」などがある

 作中の道具は適温に調乳した後、その温度を保つ機能も持っているが、現実の哺乳瓶ウォーマーにも保温機能があるものもるが、全ての製品がこの機能があるわけではない。

 現実の製品も使い勝手を重視しているが、作中の道具は特にシングルマザーの視点から描かれているため、より具体的なニーズに応えた設計になっている可能性がある。


 これらの製品は、忙しい親にとって非常に便利で、赤ちゃんのミルクを適温に保ち、ストレスを軽減する助けになる。

 彼の発明も、そうした乳飲み子を育てる家族にとって、役立つ商品だったのだ。

 彼の発明が多く人の助けとなり、主人公の助けともなる日が来ることを願う。

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