茶番

茶番

作者 楠 夏目

https://kakuyomu.jp/works/16818093082698316375


 十年来の友達が突然宇宙人であると明かし、帰らなければならないと言うが、主人公は必死に引き止める。帰らなくて良くなり、二人は再び仲良く過ごす話。


 文章の書き出しはひとます下げると誤字脱字等は気にしない。

 現代ドラマ。

 笑った。

 面白い。


 主人公は男子学生。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 学校からの帰り道。十年来の友達が突然「俺は人間じゃない」と告白する。最初は冗談だと思っていた主人公だが、友達が真剣な様子を見て本当かもしれないと感じはじめる。

 友達は宇宙から来た存在で、もう帰らなければならないと言う。主人公は驚きと後悔の念を抱きながらも、友達を引き止めようとする。

 友達の身体が光を帯びて消えかける中、主人公は必死に友達の腕にしがみつき、「宇宙の人たち、僕の友達を奪わないで下さい!」と大声で叫ぶ。その声が届いたのか、友達の身体は元に戻り、帰らなくて良くなったかもしれないと言い、二人は笑い合う。

 主人公が友達のポケットから懐中電灯を発見し、友達のお尻を蹴り飛ばすエピソードがあるが、それはまた別の話。茶番のできる毎日が楽しくてしょうがいから。


 四つの構造で書かれている。

 導入、学校からの帰り道、友達が自分は人間ではないと告白。

 展開、主人公が友達の告白に驚き、引き止めようとする。

 クライマックス、友達が宇宙に帰る直前、主人公が必死に引き止める。

 結末、友達が帰らなくて良くなり、二人は再び日常に戻る。


 十年来の友達の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 友人からの告白からはじまる書き出しに興味が惹かれる。

 遠景で、突然「俺は人間じゃないんだ」と告げられた(行動)ことが示され、近景で冗談言うなよと友人のおしりをけるもネタばらししないのでもしや(思考)、と思いはじめる。心情で主人公は尋ねる(感情)ことにし、「人間じゃないなら、君はなんだって言うんだい?」と(会話)続く。

 主人公は、ふいに投げかけられた友人の言葉に驚いて反応する流れがスムーズで、読み手は物語に入っていける。


 眉毛を、マヨネーズの蓋で表しているのが面白い。

 なぜ蓋なのだろう。

 公家みたいに丸い形をした眉かしらん。その丸い眉の大きさが小さくみえるところから、相手が寂しそうな表情をしていることを比喩的に表している。それでいて、なんだか面白くて笑えてしまう。

 真面目でシリアスな場面なのに、可笑しい。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いた一文も長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶってくる。

 ところどころ口語的。登場人物のわかる会話文は読みやすい。主人公の内面描写が豊か。ユーモラスな表現と感情の起伏が巧みに描かれているのが特徴。

 長年の友情が感じられる温かいストーリー。主人公の驚きや悲しみ、喜びがリアルに伝わるのがいい。

 行かないでと友人にしがみつき、大声で「宇宙の人たち、僕の友達を奪わないで下さい!」叫び、周りにいた人達が驚いた顔で見ても気にせず、むしろ自分も連れて行ってもらおうとしがみついている。

 また、比喩が面白い。マヨネーズの蓋で眉毛を表現するなど、ユーモラスな表現が魅力的。

 突然友達が遠くへ行ってしまうことを打ち明けられて、可愛そうだと思いながら、「『冗談いうなよ』って友達のお尻を蹴っていた」ことを許すような関係があり(暴力ではなくて、仲の良さを表現している)ところからも共感していく。

 

 宇宙人だと言われて「瞬間──ガーンって効果音が、僕の頭に響いたんだ。驚きよりも何よりも、その事実に気付いていなかった自分の不甲斐なさに心底後悔した。十年間一緒に過ごして、友達の事は何でも知ってると高を括っていたから」強い衝撃を受けた感じの表現がいい。

 ガーンというのは、古典的で使い古された表現なのだけれども、その後に続く真面目な心境を読むと、最初の「ガーン」というのは、主人公が友人の言葉をまだ信じていない、冗談だろという気持ちが含んでいることが推測される。だけど徐々に胸の奥に降りていき、自責の念にかられていくのを上手く描いている。

 一人称なので、心情描写で書く。

 友人の様子は、状況描写で表現を書く。

 最初に眉毛を持ち出しているので、重ねて用いることで、シンプルに表現できるのがいい。

 しかも主人公自身も「でも友達は、僕の言葉に「ごめん」と返すだけだった。それが悲しくて、僕の眉毛もきっと細口キャップみたいになっていたと思う」と気持ちを喩えに用いている。

 この書き方も。二人の仲とともに気持ちが読み手に伝わってくるのがいい。


 五感の描写として、視覚は友達の眉毛や光を帯びる身体の描写が具体的。聴覚は効果音「ガーン」や大声で叫ぶシーンが印象的。

 

 主人公の弱みは、感情のコントロール。友達が宇宙に帰るという事実に対して、感情的に動揺しやすいこと。

 

 身体が光らなくなり、「友達は口元に手を添えて唸ったあと、『もしかして』と呟いたんだ。『帰らなくて良くなったのかもしれない』」というところは、友達は笑いをこらえて、口元に手を添えていたのかもしれない。

 友達の笑顔は、可笑しくてしょうがないから。

 主人公は、嬉しくてしょうがないから。

 おなじ笑顔でも微妙に違うのがまた、面白い。

「白い歯を見せて笑う友達の眉毛は、やはり太口キャップと同じだった」嬉しい表現で、またマヨネーズの蓋を用いている。

 なぜマヨネーズの蓋だったのかしらん。


 オチとして、「それから僕が、友達のポケットから懐中電灯を発見して、友達のお尻を蹴り飛ばすんだけど──それはまた別の日にしよう」がよかった。

 きっと、笑いあったあとで気づいたのだろう。

 冒頭でお尻を蹴っているのを、また終わりにも持ってくることで、うまくまとめたところが良かった。

 最後の一文「茶番のできる毎日が、楽しくってしょうがないから」から、ひょっとすると主人公は、友人がふざけていることをはじめから知っていて、ボケに対してボケで返していたのかもしれない。

 そう考えると、これもまたどんでん返しである。

 

 読後。最後の最後まで読者を楽しませてくれる作品だった。

 友達が宇宙人であることの背景がもう少し詳しく描かれていると、説得力が生まれるかもしれないけれど、どこぞの星から来た宇宙人だと説明すばするほど、胡散臭さが増すかもしれないので、具体的に書かないほうがいいのかもしれない。これくらいの表現でいいのだろう。

 真面目にふざけるのは、茶目っ気があり、面白い。

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