白き火魔女が死んだ

白き火魔女が死んだ

作者 ゆめうめいろ

https://kakuyomu.jp/works/16818093082848132971


 白き火魔女は自分の色を奪った怪物と戦い致命傷を受ける。最期に髪を託された少年は、自身を「観測者」と表現し、彼女の記憶を忘れないと誓った話。


 ファンタジー。

 白き火魔女と少年との関係に引き込まれる。

 命と記憶といったテーマが心に響く。


 主人公は、黒き火魔人という二つ名を持つ少年。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 異形の怪物と戦う魔女たちは、街や家族、友人を守るために戦い、死んでもその存在は忘れ去られる。その中で、白き火魔女と呼ばれる少女がいた。彼女は真っ白な肌と髪を持ち、炎を操る能力で怪物をソロで狩り続ける孤独な存在。

 主人公である少年は、かつて白き火魔女に命を救われ、彼女の「色探し」を手伝うっている。

 白き火魔女は、自分の色を怪物に色われたことで魔女となり、その色を取り戻すために戦っていた。

 ある日、彼女は色を奪った怪獣との戦いの中で判断ミスを犯し、腹を裂かれて致命傷を負い、息絶えようとしている。

 死に際に彼女は、自分の本当に守りたかったものが「命」であることに気づいたと少年に告白。彼女から髪を託される。

 黒き火魔人と呼ばれる存在となった少年は、彼女の意志を継いで怪物と戦い続ける。彼は自らを「観測者」として表現し、彼女の記憶を守り続けることを誓うのだった。


 四つの構造で書かれている。

 導入、魔女たちの戦いと白き火魔女の存在が紹介される。

 展開、白き火魔女が致命傷を負い、少年との会話が進む。

 クライマックス、白き火魔女が本当に守りたかったものに気づく。

 結末、少年が彼女の記憶を忘れないと誓い、彼女の死後もその記憶を観測し続ける。


 魔女の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 詩のような客観的状況からの導入から始まる書き出しが独特。

 遠景で魔女が町や家族や友人、宝物を守るために戦ってきたことが示され、近景では死ねば記憶から忘れ去られると説明し、心情では白き火魔女と呼ばれるソロで圧倒的に強い存在が主人公の目の前で息絶えようとしているのが語られる。

 まさに危機的状況に、興味と関心を抱き、今にも死にそうな状況に可哀想に思えて共感していく。


 長い文ではなく、五行で改行。句読点を用いた一文も長くない。短文と長文の組み合わせはテンポ良く、感情を揺さぶっている。ところどころ口語的。シンプルでありながら感情豊か。登場人物の性格のわかる会話が多く、キャラクターの内面がよく描かれている。

 魔女と怪物の戦いというファンタジー要素と、キャラクターの内面的な葛藤が融合しているのが特徴。

 白き火魔女と少年の関係性が魅力的で、キャラクターの感情が丁寧に描かれているところに、引き込まれる。

 命の大切さや記憶の重要性といったテーマが扱われているのもいい。

 五感の描写として、視覚は白き火魔女の真っ白な肌や髪、血の赤などが鮮明に描かれている。

 聴覚は会話の中での声のトーンなど。

 触覚は血の感触や、髪を切るシーンなどが描かれている。


 主人公の弱みとして、白き火魔女はソロで戦うことの限界を感じているが、それを認めることができないでいること。

 少年と出会う前も、彼女はずっと一人だった。

「そう、ずっと私は一人だった。別になりたかったわけじゃないんだけどいつのまにかね。少し前までは他の魔女とすら違って死ぬ直前ですら誰にも悲しんでもらえないんだって思ってた。そんな中死のうとしてたのに私に助けられて泣いてた君と出会った。君は死んだら記憶に残らない不安定な生き物である私をずっと観測しつづけてくれた」

 少年は、自分の無力さや、白き火魔女を助けることができないことへの葛藤を抱いている。

 もともと主人公は不登校で、死のうとしていたところに怪物が遅い、彼女に助けられた。恩人のために「無我夢中で彼女から聞いた魔女や怪物についての情報、実地、ネットなど使えるものはすべて使い調べ続けた。そして今夜もいつも通り探し出した情報を彼女に教えて僕は一人彼女が帰ってくるのを待っていた」普通の人間なのだ。

 目の前で死にかけている彼女を助けることはできない。

 だから「君はどうせあと数分で忘れてしまうような……私の死を悲しんでくれている。なんで自殺しよう……としてたんだって不思議に思うくらい優しい……観測者だよ」という彼女に対し、

「死ってさ、二回あるんだよ。一度目の死は言わずもがな心臓が止まった時。二回目は―――すべての人の記憶から忘れ去られたとき。僕はお前にとって観測者なんだろ? 少なくとも僕が死ぬまでお前の記憶を忘れないし語り継いでやる。二回もお前を殺させない」と、魔女が死ぬと忘れ去られてしまうにも関わらず、彼女に誓う。

 なぜか。

 主人公は「自己満足」といっている。

 少年がなぜ白き火魔女を助けることに決めたのか、もう少し具体的に描写されているといい気がする。

 彼女を励まそうとしたのか、傷を治すこともできない無力な自分を認めたくないからか。

 また、魔女や怪物の世界観についてもう少し詳しく描写すると、物語がさらに深まると考える。

 この後、主人公は魔女となり、黒き火魔女としてソロで戦っていくのだけれども、どうやって魔女になったのかしらん。

 彼女からもらった髪の力で、魔法が使えるようになったのか。

 もう少しわかると、物語にのめり込める気がする。

 

 読後。白き火魔女が色のために戦っていたとは、奪われた自分のために戦ってきたことを意味しているのだろう。でも主人公である少年を助けてから、変わったのだろう。彼女は少年のために戦ってきた。それが彼女のいう命だったのかもしれない。

 



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