のんちゃん、好きだよ。

のんちゃん、好きだよ。

作者 たちばな

https://kakuyomu.jp/works/16818093083104579382


 中学時代の同級生ののんちゃんに恋心を抱いているちーちゃんは、のんちゃんのためにクレーンゲームでうさぎのぬいぐるみを取るものんちゃんの彼氏からの電話で置いていかれてしまう。彼女の生活の一部になりたいと願いながらも叶わないことに悲しむ話。


 現代ドラマ。

 切ない恋心と、のんちゃんの魅力と問題点がリアルに描かれているところが本作の魅力。


 主人公は、高校三年生のちー。一人称、わたしで書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公「ちー」は、中学時代の同級生である「のんちゃん」に恋心を抱いている。のんちゃんはわがままで不安定な性格で、ちーを「暇つぶし」として扱うが、ちーはそれでものんちゃんを最優先にしている。

 ある日、のんちゃんとゲームセンターに行き、クレーンゲームでうさぎのぬいぐるみを取ることに成功する。

 しかし、のんちゃんの彼氏からの電話で急に帰ることになり、ちーは再びのんちゃんに置いていかれる。のんちゃんへの想いが募るちーは、のんちゃんの生活の一部になりたいと願うが、その願いは叶わないまま涙を流す。


 四つの構造で書かれている。

 導入、駅で再会、のんちゃんの外見や性格が描写される。

 展開、ゲームセンターでクレーンゲームするちーとのんちゃん。

 クライマックス、うさぎのぬいぐるみを取り、のんちゃんが喜ぶ。

 結末、のんちゃんが急に帰ることになり、ちーが涙を流す。


 のんちゃんの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 会話からの書き出し。

 遠景であだ名で呼ばれ、近景で呼ばれて顔を上げる主人公。心情で「わたしのことをそう呼ぶのは、たった一人」と語る。

 主人公がのんちゃんい会うのは三か月ぶり。

 中学のときに出会った二人。のんちゃんは問題児で友達がいなかった。主人公も一人ぼっちだった。

 のんちゃんの気まぐれで仲良くなり、「高三になった今も、のんちゃんは相変わらず可愛くて、わがままで、不安定な女の子だ」とある。

 こうした一人ぼっちで寂しいところに共感する。

 

 のんちゃんは、誰がに依存しがちで、現在は大学生の彼氏に夢中な子。「他にも、『ちーはあたしの友達だよ』と笑った一時間後には、『あんたはただの暇つぶしなんだかんね』と冷たく言う。こちらの本音もやっぱり後者。いつまで経っても、わたしはのんちゃんにとって『都合の良い暇つぶし』だ。だからこそ、のんちゃんとの関係が続いているわけなんだけど」とあり、都合のいい相手として使われている。

 でも主人公は、友達と遊ぶ予定をキャンセルしてまで、のんちゃんを優先している。なぜならば、主人公はのんちゃんに恋しているからだ。


 長い文ではなく、五行で改行。句読点を用いた一文は長過ぎることはない。短文と長文を組み合わせてテンポ良く、感情を揺さぶってくる。ときに口語的。登場人物の性格がわかる会話文。主人公の内面描写が豊かで、繊細な感情描写と、のんちゃんのわがままな性格が対比的に描かれているのが特徴。

 のんちゃんの魅力と問題点がリアルに描かれているところ、主人公の切ない恋心が丁寧に描かれているのがいい。

 五感の描写として、視覚はのんちゃんの外見がよく書かれている。「黒髪のツインテールに戻ってる。黒髪に差し込まれたメッシュはピンクで、目元のアイシャドウも、ぷるつやのリップもピンク。ピアスは三つくらい増えてる」クレーンゲームのうさぎ「唇をつんと尖らせた顔のうさぎは、どことなくのんちゃんに似ていた」や、のんちゃんの表情「のんちゃんは手を合わせて、真剣に祈っている」など。

 聴覚は、呼びかけ 「ちー」や、のんちゃんの声、ゲームセンターの音「軽快な音楽が鳴って、カウントダウンが始まった」など。

 触覚は手を引かれる感覚「ぐっと手を引かれて、わたしは慌ててのんちゃんを追った」、ぬいぐるみの感触「うさぎのぬいぐるみを取り出して、ぎゅっと抱きしめて頬ずりする」が描かれている。

 嗅覚では、のんちゃんの香水「のんちゃんは香水も変えたみたいで、ふわんと甘い匂いがした」が描かれている。

 味覚は特にない。


 クレーンゲームのとき、のんちゃんがうさぎを取ろうとする場面をもう少し描いてもいいかもしれない。主人公も一緒になって、取れるように応援したり見守ったり。そうすることで、うさぎの縫いぐるみが欲しいのが伝わってくるのではと考える。


 主人公の弱みは、のんちゃんに対する強い依存心があり、自分の感情をコントロールできないこと。

 はたしてそれは恋なのか。友達関係とは違うのかしらん。

 中学を卒業するときに告白し、フラレている。それでも、のんちゃんも主人公との縁を切っていない。

「のんちゃんの中でわたしは、年に何回か、思い出した頃に起こるイベントみたいな存在なんだろう」

 主人公は、彼女が自分を「暇つぶし」としか見ていないと思っており(実際そうなのだろう)、自己評価が低いところも弱みである。

 主人公とのんちゃんの関係は、のんちゃんと彼氏のあっくんの関係にも似ている気がする。

 都合の良いときに呼ばれて、彼氏の元へ行く。

 のんちゃんがうさぎを欲しがり、抱きしめ頬ずりするところから、彼氏がいても寂しいのがわかる。

 暴力的な彼氏なのだろう。


「のんちゃんと知り合ってかれこれ四年、未だのんちゃんがわたしを『友達』と言うのを聞いたことがない」

 主人公自身も、彼女にとっては暇つぶし程度と思われていることを知っている。それなのに、離れていても彼女の声ははっきり聞こえるし、あっさり生活の一部になって毎晩抱いて眠るといううさぎに嫉妬してしまう。

 

「のんちゃんを嫌いになる理由は、たくさん見つかる。でも、それ以上にのんちゃんを好きな理由が数え切れないくらいに見つかる」

 好きな気持ちが届くことはないとわかっていながら、好きをやめられない。そんなときにのんちゃんから、『ちーきょうはごめん』『またこんどいこ ぜったいね』とメッセージが届く。

 アメとムチである。

 全体的に、のんちゃんのわがままさが強調されすぎているため、のんちゃんの良いところも、もっと描いてもいい気がする。

 主人公がのんちゃんの好きなところを上げているのは、ほとんど見た目である。のんちゃんの良い具体的なエピソードがあれば、バランスも取れるのではと考える。


 読後。タイトルを見ながら、報われない恋をする主人公は可愛そうだなと思った。幸いにして、主人公には友達がいるらしい。

 主人公が自分自身の価値を見つけ、のんちゃん以外の人間関係や趣味に目を向けたり恋をしたりできるかもしれない。

 のんちゃんに依存しすぎていることに気づいているので、新しい友達や部活、恋などに励んでいけるはず。


 電話から、のんちゃんの彼氏は暴力を振るっているかもしれない。

 もし、のんちゃんのことが好きならば、彼女に心配だと伝えてもいいのではと考える。もしそうならば、信頼できる大人や専門機関に相談することが重要になってくる。

 そもそも、彼氏とはいつ知り合ったのだろう。

 のんちゃんが高校になってからか、それとも中学のときかしらん。

 髪の色が変わっているから、三か月以内かもしれない。

 

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