殺された未来

殺された未来

作者 有耶/Uya

https://kakuyomu.jp/works/16818093078496126136


 西暦二一四年、研究チームが遂にタイムマシンを完成。リーダーの女性が最初のタイムトラベラーとして二百年後の未来に向かったが未来は技術的に全く進歩していなかった。彼女は現代に戻り、未来が発展していたと嘘つくことで研究を続けさせる決意をする話。


 SF。

 人には常に希望が必要だと教えてくれる。

 

 三人称、研究チームリーダーの女性視点で書かれた文体。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 西暦二一四一年、ある研究チームがタイムマシンの開発に成功し、リーダーの女性が初の時間旅行者として二百年後の未来へと旅立つ。しかし、到着した未来の世界は、技術的に全く進歩していないことに気づく。未来の人々は、タイムマシンの完成をもって技術の研究を放棄してしまったため、何も変わっていなかったのだ。

 絶望した彼女は、過去に戻り、研究所の仲間たちに「未来は発展していた」と嘘をつくことを決意する。彼女の嘘により、研究者たちは未来に希望を持ち続けることができるのだった。


 四つの構造で書かれている。

 導入、タイムマシンの完成と初のタイムトラベルの準備。

 展開、未来へのタイムトラベルとその結果。

 クライマックス、未来が全く進歩していないことの発見。

 結末、未来が発展していたと嘘をつく決意。


 タイムマシンの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 百余年後の未来を舞台にした書き出し。

 遠景で「――西暦二一四一年――」と示し、近景で彼岸を達成したと語り、心情で、ラボから歓声が沸き上がる。

 タイムマシンの完成。

 大発明であり、夢があり、期待と希望から興味がそそられる。

「今はまだ、タイムワープした場所に長く留まることは技術的に不可能であったが、いつかは何年、何十年とその時代に居続けることだって可能になるはずだ」

 画期的な技術である。

 その開発のリーダーが、本作の主人公である。

 魅力を感じ、仲間たちに頭を下げ、初の搭乗に指名される。それだけ信頼されている証である。こういうところにもまた共感していく。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いた一文は長過ぎることない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶっている。ときに口語的。シンプルで読みやすい。登場人物の性格のわかる会話が多く、テンポが良い。

 タイムトラベルというSF要素を中心に据え、未来の描写が詳細。

 会話が多く、物語がスムーズに進行するテンポの良さと、タイムマシンに乗って出発するやり取りや描写がスムーズでワクワクする。

 主人公の不安や驚き、決意がしっかりと描かれた感情の描写がよく伝わる。

 五感の描写として、視覚はラボの光景、タイムマシンのコックピット、時空の渦、未来の森や街並みが描かれている。

 聴覚はラボから大勢の歓声、機械音声のアナウンス、車の走行音などの生活音。

 触覚は草の感触、手すりを掴む感触。

 嗅覚や味覚は特にない。

 森や街の匂いなど描いても良かったかもしれない。


 どうせなら、タイムマシンの技術的な背景や研究の過程について、もう少し詳しく説明があると良いかもしれない。

 前半部分で発明にどれほどの時間と労力を費やし、全世界から人類の英知を集約した研究所でついに完成したというような、説明があると後半の、変わっていない未来を前にした絶望がより際立つと考える。


 主人公の弱みとしては後半、未来が進歩していないことに対するショックが大きく、冷静さを失う場面がある。

 でも江戸時代は二百余年続いており、その間の風景が大きく変貌を遂げたのかといえばそうではないので、時代によってはへんかしていないことも考えられるかもしれない。

 ただ、百年前の人が現代の日本に来たら、あまりの変貌に驚くのは間違いないので、とくに技術者である主人公にとって技術的に進歩していないことは、相当のショックだったに違いない。

 未来の世界がどのように進歩していないのか、具体的な例があるとさらに良いのではと考える。

 主人公が出発するときの、周辺の風景を描いてから未来へ行き、同じ場所へ向かって見に行くと、同じ建物や町並みがあったみたいな、そういう具合に書かれていると、進歩していないのがわかりやすく伝わる気がする。


「タイムマシンで未来に行けることが証明された。それで終わりだよ。その後、世界中の技術者がこう言い始めたんだ。『もう研究する必要はない』と、ね。お陰で二百年前から技術は進んでないらしくて、何も変わらない」

 未来人からこういわれて、主人公は予想外な展開で驚いたに違いない。

 タイムマシンは未来だけではなく、過去にも行ける。わからないことを知ることで、さらに進歩することもできるだろう。

 完成したらそれでおしまい、というのは、そんな事を言った技術者のSF的思考が足らないのだろう。

 SFとは知能指数を下げずに判断力を下げる遊びであり、今は無理なことを有り得そうにみせることで、可能性を考えるのだ。

 起こり得る自体を想定し回避することもできるし、より良い発明につなげていくひらめきにも通じていく。

 発明や技術、モノづくりには想像力が必要不可欠なのだけれども、なんでもできてしまうような世の中の未来だと、想像力が欠如してしまい、頭打ちとなってしまった。

 それが本作で描かれている世界なのだろう。

  未来の真実を伝えるかどうかで悩む主人公の姿が描かれており、

未来人が「ならお願いだ。『未来は何も変わってなかった』なんて言わないでくれよ。多分そのせいで研究を諦めたんだ。頼むから嘘をついてくれ。未来は発展していたって言って、失望させないでくれ――」といったように、「未来は、凄く発展していたよ……!」

と涙ながらに話す。

 ある意味、悔し涙であろう。

 でも、その一言で、これからの未来が大きく変化を遂げていく。

 まさに人類にとって大切な言葉を発したのだ。

 

 読後。タイトルの『殺された未来』とは、主人公の言葉によって、進歩していない二百年後の未来のことなのだとわかった。

 やみくもに進歩を叫ぶのではなく、どのように進歩した未来を望むのかが大切になってくるのでは、と考えさせられた。

 なにも変わっていないというのは、戦争が起きず平和だった証でもある。その点は悪くなかったと思う。

 タイムトラベルというテーマが興味深く、物語に引き込まれた。

 主人公の感情の揺れや決断にも共感でき、最後まで一気に読み進められてよかった。未来の描写がもう少し具体的だと、さらに楽しめたかもしれない。

 百年後、二百年後、私達の世界はどう進歩しているのだろう。

 平和で、みんなが穏やかに過ごせている世界にするためにも、今できることを励みたいものである。


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