私を救う一通のメール

私を救う一通のメール

作者 冬野 向日葵

https://kakuyomu.jp/works/16818093084088402657


 日葵と結月はメールのやり取りを通じて気持ちを伝え受け入れる、二重人格の話。


 現代ドラマ。

 ミステリー要素。

 二人の関係性と心の葛藤を描いた物語。

 互いの感情を語ったテンポの良さが魅力だ。


 三人称、日葵視点と結月視点で書かれたメール形式。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 日葵は結月に再会を望むメールを送り続けるが、結月は日葵のしつこさにうんざりし、過去の出来事を理由に関わりたくないと伝える。日葵はそれでも諦めず、結月に対する思いを伝え続ける。

 結月は日葵のメールに対して辛辣な返信を続けるも、次第に日葵の真剣な気持ちに心を動かされる。最終的に日葵は自分の本当の気持ちを結月に伝え、結月もそれを受け入れる。


 四つの構造で書かれている。

 導入、日葵が結月に久しぶりのメールを送る。

 展開、結月が冷たく返信、それに対し日葵はさらにメールを送る。

 クライマックス、結月が日葵のメールに対して怒りを爆発させる。

 解決、日葵が結月に対して本当の気持ちを伝え、二人が和解する。


 メールの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 メール アドレスからの書き出し。

 遠景で「From: himari@aoisun」、近景で「To: yuzuki@tiemoon」を示し、心情で「Title: 久しぶり!」と書かれている。

 @以下はaoi(葵)sun(日)であり、差出人は日葵を表している。

 また、相手もtie(結)moon(月)であり、結月を表している。

 こういうメールアドレスはないので、送信しているわけではないことが伺える。


 出会って一年だけど、最近メールがなくて寂しいから、またオタク談義をしようとお誘いの内容。

 友達に話すような感覚に人間味を感じる。相手から返事が来ることを待っていることも感じられて共感を持てる。


 結月は「うんざりしすぎて返信しちゃったじゃん」と返事を送るとき、「Title: Re:久しぶり!」タイトルを自分で書かずに送っていたが、それ以降は、感情的なタイトルがついていく。


 長くない文。数行で改行しているところもあるが、こまめに改行。句読点を用いて、一文は短い。短文と長文の組み合わせでテンポよくし、感情を揺さぶっている。口語的。メール形式で進行し、カジュアルで親しみやすい文体。読みやすい。

 メールのやり取りを通じてキャラクターの内面が描かれる。短い文で感情がリアルに伝わってくるのがいい。

 読者がキャラクターの気持ちに共感しやすいところも特徴で、短いメールのやり取りで物語が進行するため、テンポが良い。

 五感の描写として、メールの内容(テストの点数)や表現は視覚的にイメージしやすい。

 聴覚は通知音やメールのやり取りの音が想像できるが実際には書かれていない。


 赤点は三十点以下らしい。

 それにしても随分と、すごい点数である。

 どうして点数を知っているのか、「なによこの一人二役メールは!」でモヤモヤした。いったいこの二人はどういう関係なのだろうと思い、最後の「わかった、すぐその体に戻るからね。さよなら、日葵」まで読んで、ようやくわかった。


 主人公の弱みとして、日葵は自分の気持ちをうまく伝えられない。結月は過去の出来事に囚われているところ。

 猫被りを演じている日葵ではなく、本当の自分が結月だとある。

 結月が主人格なのかもしれない。

 二人の間で喧嘩をし、結月が引きこもり、日葵が説得するためにメールで会話していたのだろう。

 メールのやり取りだけでなく、二人の過去や背景がもう少し詳しく描かれたり、キャラクターの内面が深堀りされると、読み応えのある物語になるかもしれない。

 でも、このメールのやりとりを見た第三者である読者が、どういうことかと考えながら読むところに、本作の良さがある気がするので、メール内容で深堀りできたらいいのかもしれない。


 メールのやり取りから推測すると、二重人格(解離性同一性障害)を持っていると考える。日葵と結月という二つの人格が存在し、互いにメールを通じて対話しているのだろう。

 最後のメールで「すぐその体に戻るからね」と言っていることから、日葵が結月の人格に戻ることを示している。


 読後。タイトルを見て、私とは結月のことだと思った。

 はじめは、日葵がメインの主人公だと思って読んでいたので、最後ひっくり返る展開は意表をついていて良かった。

 もし、二重人格でないなら、創作やフィクションとしてキャラクターを演じて、メールのやり取りを楽しんでいる場合もあるかも、と邪推するけれど可能性は低そう。

 なかなか興味深い作品だった。

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