カメレオン

カメレオン

作者 キャニオン

https://kakuyomu.jp/works/16818093079099328003


 人付き合いが苦手でカメレオンとして周囲に適応しているが、何をしたいのかわからず不安と孤独にある女子高生は、運命的な出会いをすれば変われると信じ、無色無形ながら虹色のカメレオンでもあると希望を抱く話。


 現代ドラマ。

 内面の葛藤を描きながら、カメレオンや密林の比喩が実に上手く、効果的に特徴を捉えているところがよかった。

 こういう考えで生きている子は多いだろうし、なにも学生に限ったことではないだろう。


 主人公は春休みが大嫌いな女子高生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の女子高生は春休みが大嫌いで、新しいクラスでの人間関係に不安を感じています。彼女は人付き合いが苦手で、孤独を恐れながらも自由を求めています。新学期が始まり、知り合いと別のクラスになった彼女は孤独を感じますが、次第に「カメレオン」として周囲に適応し、孤独を消し去ります。しかし、自分の本来の形を見失い、何をしたいのか分からなくなります。最終的に、運命的な出会いが彼女に希望を与え、無色無形でありながら虹色のカメレオンとしての自分を受け入れることになります。


 春休みが嫌いな女子高生が、新しいクラスでの孤独と不安に悩んでいる。彼女は人付き合いが苦手で、孤独を恐れながらも自由を求め、無理に人に合わせることに疲れている。

 新学期、知り合いと別のクラスになり、孤独を感じた。

 最初は自由を楽しむものの、次第に孤独に耐えられなくなり、周囲に合わせるためにカメレオンのように擬態し始める。しかし、擬態を続けるうちに自分の本来の形を見失い、何をしたいのか分からなくなって不安に苛まれていく。

 彼女はオタクグループに憧れ、彼らが自分の形を持っていることに気づく。どうやって好きなものに出会ったのかを尋ねると、「運命だった」と教えてくれた。

 この言葉に彼女は希望を見出し、自分もいつか運命の出会いを果たし、森を抜け出せると信じていく。

 無色無形のカメレオンでありながら、虹色のカメレオンでもあることに気づき、希望を抱いていく。


 四つの構造で書かれている。

 序章は、春休みの嫌悪感と新学期への不安。

 展開は、新しいクラスでの孤独と適応。

 クライマックスは、自分の本来の形を見失う。

 結末は、運命的な出会いと自己受容。


 春休みが大嫌いの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 春休みというより、主人公は人付き合いが嫌いだから、新しい出会いと変化に強い不安を感じている。

 書き出しは主人公の主張、モノローグから始まるというより、全編モノローグといってもいい。

 遠景で春休みが嫌いと示し、近景で「まあ、圧倒的に」と説明、心情で「女子高生になって全てが未知の環境下で、一年間必死になって作り上げた人間関係を粉々にされ、新しいクラスでも上手くやっていけるのかと、不安を喘ぐ毎日」を過ごしていると語る。


 人付き合いが好きではない。だからといって、孤独は怖い。主人公は知り合いばかり増え、友達や親友がいなかった。

 こういう考え方は、十代の若者である読者層には、非常に理解できるのではと考える。とくに女子。男子も似たようなところがあるかもしれない。


 そんな生き方に嫌気が差して、高校では孤独でいようと決める。

 知り合いはすべて別のクラスになり、一か月も、孤独の自由を享受する。

 つまり、友達も知り合いもなく、一人きりで過ごしているのだ。

 かわいそうに思えてきて共感していく。

 

 長い文。十行あまり続くところもある。句読点を用いた一文はっや長いところもある。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶるところがある。

 内省的で感情豊かな一人称視点で書かれ、 主人公の内面の葛藤がリアルに描かれている。

 比喩やカメレオンや密林のメタファーを多用し、心理描写が細かいところが特徴。

「孤独でいい、孤独でいい」と唱える孤独感、早く何とかしろ」と内なる自分が呼びかける焦燥感、運命という言葉に希望を見出しながらも偶然お出会いで遅いか早いかも運命のいたずらにすぎないという、希望と絶望の対比がよく書かれている。

 カメレオンや密林の比喩が特にいい。

 孤独を避けるため、他人に合わせる自分をカメレオンに例え、自分の本来の形を見失うことも、カメレオンの擬態に例えている。

 新しいクラスや人間関係を密林に、孤独感や不安を密林の薄暗さや湿度に例えているのも効果的に描かれている。

 

 五感の描写において、視覚では密林の薄暗さや木漏れ日の描写。

 聴覚は動物の声や風の音。

 触覚は湿度の高さや風の感触。

 嗅覚は湿った空気の匂い。

 味覚は特になし。


 主人公の弱みは、孤独を恐れ、他人に合わせてしまうこと。でもそれは、高校生になる前からすでに自分の本来の形を見失っていたからだと気付く。

「ずっと前から、私はカメレオンなのだ。何もしたい事がなく、やらなきゃいけないことがあるわけでもない。何者にもなれなかった私は、周囲の人間の形を真似、何者かになって、自らを生かしてきたけれど、春休みになれば、周囲の人間とは一度離れてしまう。そういう時、私は、形を失ってしまう」

 模倣する相手がいなくなったため、自分がわからなくなったのだ。

「今この瞬間をなんとかして生き永らえるため、勉強をし始めた。その時だけ、私は、真面目な女子高校生に擬態することができた。春休み、やけに勉強に身が入っていた理由が、とてもよく解ってしまった」

 勉強するのが高校生、を真似たのだ。

 その結果、「定期テストでは、そこそこ良い結果が出せた。知り合いたちは、すごい、すごい、とわめいている。喜びがなかったと言えば嘘になる。しかし、それ以上に、あまりの自分の滑稽さに、涙が出そうだった」

 擬態をくり返す度に、「いつしか、私が本当にやりたいものなど、この世には存在しないのだと、そんな気がし始めた。だから、一生、密林を抜け出すことはできない。色も形も失った、価値の無いカメレオンを続ける人生なのだろう」

 主人公がそう確信していくのは、これまので行動や直面する問題や葛藤から容易に予測でき、頷ける。

 そんな主人公が、オタクグループに目をつける。

「そんな人たちに、私は、憧れていた。あの人たちは、きっとカメレオンじゃない」

「あの人達は、どうして、カメレオンじゃないのか。どうやって、自分の住むべきまちを、見つけたのだろうか」

 そして尋ねる。 

「うーん……まあ、簡単に言うと、運命だった、みたいな?」


 主人公は驚いている。予想外の展開だったのだ。

 それでも、運命は具全の出会いであり、いついかなる場面で出会えるのかは想像がつかないと、至極冷静な考えをしている。

 べつに現状が一変したとか、救われたわけではない。

 抜け出せる可能性、希望を見つけたのだ。

 最後の「無色無形のカメレオン」という表現が象徴的であり、「虹色のカメレオン」が希望、物語のテーマをよく表している表現で、うまいなと思った。


 読後。カメレオンとはどういう話なのか、サッパリ想像がつかなかった。けれども、周りに合わせ、ときに目立たず孤独に生きる様子を表現しているのわかって、比喩がうまいなと思った。

 女子高生だけではなく、おそらく日本人の多くがカメレオンかもしれない。周りの人たちの真似をするように、目立たず穏便に、ときに孤独に生きている。だれもが無色でありながら、虹色になる可能性を秘めている。

 虹色と呼べるのは若い内だけだと思うので、運命を待っているのではなく引き寄せ、自ら果敢に取りに行って欲しい。

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