丸と四角はどちらが良いか?

丸と四角はどちらが良いか?

作者 盛草

https://kakuyomu.jp/works/16818093083892532196


 何でも丸にする薬「マルニスルン」を発明した天才発明家は大金持ちになるも、パクリ商品「シカクニスルン」を作った男が地面にまいて地球が四角になる。「スーパーマルニスルン」を開発し、地球はハート型になり、人々は仲良うなって平和が訪れる話。


 SFファンタジー。

 面白い。

 世の中も、こんなふうに簡単に平和になったらいい。


 主人公は天才発明家。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。どんでん返しがあり、面白い作品にみられる、どきり、びっくり、うらぎりの三つの「り」がある。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 天才発明家の主人公は、柱の角に足の小指をぶつけた経験から、何でも丸くする薬「マルニスルン」を発明する。薬は大ヒットし、主人公は大金持ちになる。しかし、SNS上で「丸」と「四角」の論争が勃発し、パクリ商品「シカクニスルン」まで登場する。

 シカクニスルンを大量に撒いた男が現れ、地球が四角くなってしまう。人々は地球を丸に戻そうと騒ぎ、主人公は「スーパーマルニスルン」を開発する。しかし、地球はハート型になり、結果として人々は仲良くなり、平和が訪れる。丸と四角の論争はハート型が良いという結論に至る。この謎を解きたくて仕方なくなるのだった。

 

 四つの構造で書かれている。

 序章は発明のきっかけとマルニスルンの成功。

 中盤はSNSでの論争とシカクニスルンの登場。

 クライマックスは地球が四角くなる事件とスーパーマルニスルンの開発。

 結末は地球がハート型になり、平和が訪れる。


 素晴らしい道具の発明の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 主人公の自分語りからはじまる書き出し。

 遠景で天才発明家と語り、近景で、素晴らしい道具の発明をしたと説明し、心情で、何でも丸くする薬と言い切る。

 それだけで、なんだろうと興味が惹かれる。

 思いつきがおもしろい。

 小指を柱の角にぶつけるという、誰しも一度はした経験がありそうな出来事をきっかけにしていえ、親近感が湧く。これで興味を持ち、共感する。

 角を取る発想は、小さい子供がいる家庭では、子供がぶつけて怪我をしないようグッズを使ったり、丸い物を選んだりして配慮していることだろう。なので、主人公の気持ちはとってもわかり、共感する。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いていて一文を長くない。ときに口語的。軽快でユーモラスな語り口。登場人物の性格がわかる会話文もあり、読みやすい。主人公の一人称視点で進行し、親しみやすい。

 発明家の奇抜なアイデアとその結果がコミカルに描かれている。社会現象やSNSの影響も取り入れられているのが特徴。SNSやパクリ商品の登場など、現代社会の問題を風刺しているのもいい。

 最終的に人々が仲良くなり、平和が訪れるというハッピーエンド。主人公の発明とその結果が面白おかしく、ユーモアに描かれているのがよかった。

 五感の描写は、丸くなった柱や家具、SNSのやりとり、四角くなった地球、ハート型の地球など、視覚的な変化が豊富。触覚は角に足の小指をぶつけた痛みや、丸くなった物の触り心地など。聴覚は、テレビニュースのインタビューや、妹との会話。


 主人公の弱みは、自分の発明に自信を持ちすぎて、他人の意見をあまり聞かないこと。問題が発生するとすぐに新しい発明で解決しようとする。そのアクティブとポジティブさがあったから、発明できているのだ。

 しかもパクリ商品「シカクニスルン」の研究をして、構造を解析し、スーパーマルニスルンを作ってしまう。

 これはすごい。

 

「地球は丸くなった。確かに丸くなった。しかし、おかしな風に丸くなった。スーパーマルニスルンは少し効果が薄かったようで、地球はハート型になってしまったのである」

 この展開は、流石に予想外。驚きとともに笑ってしまう。

 でも主人公は真面目にキュウニスルンを作ろうとする。

 さらに、「なぜか、人々は仲良くなったのである。互いに愛を持って接し、愛でいっぱいの地球になった。争いはなくなり、平和になった。人々は喜んだ。いつの間にか、僕のスーパーマルニスルンは平和の薬、愛を増やす薬と呼ばれるようになった。結局、丸が良いか四角が良いかの論争は、ハート型が良いという結論で終わった」どんでん返しがくる。

 なるほどと思いながら、予想外の展開に、微笑ましくさえ思えてくる。

 

 主人公や妹のキャラクターをもう少し深く描かれていると、物語に厚みが出るかもしれないし、他のキャラクターとの対話を増やすことで、展開がより自然になるのではと考える。

 ストーリーとしては、申し分ない面白さだった。

 

 読後。一幕目でテーゼ、二幕目でアンチテーゼ、三幕目でジンテーゼを描くやり方はうまい。タイトルを見て、ちょうどいい落とし所だと思った。争いをしている、私達の世界も、こんなふうに簡単に、みんなが平和に仲良く出来たらいいのに。

 マルニスルンをつくった主人公としては、もとに戻っていないのに争いがなくこれでいいとなった風潮には納得できず、新たな研究をしていおうとするラストも、主人公のキャラが貫かれていて良かった。

 謎を解くために、キュウニスルンを作るかもしれない。

 実に面白い作品だった。



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