イルカのアナタへ
イルカのアナタへ
作者 蒲生 聖
https://kakuyomu.jp/works/16818093082549897588
いじめや不安、その結果として暴力を引き起こした少女の話。
文書の書出しはひとマス下げる等気にしない。
ホラー。
深く考えさせられる内容。
主人公は、色盲になった少女。一人称私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
主人公の少女は毎日、異なる色を見つけることに喜びを感じている。しかし、学校に行くと、彼女の隣の机に花が手向けられており、ことちゃんが亡くなっていることに気づく。
「アナタこんなことしでかしてタダで済むと思ってんの!?」
「いけないのはアナタの方よ! 殺人鬼!」
主人公は他の生徒たちから非難される。
彼女は「イルカごっこ」と称して友達をいじめており、その結果、ことちゃんという少女が亡くなってしまったのだ。
主人公は自分が悪いとは思わず、逆に怒りを感じ、カバンから包丁を取り出し、教室で暴力を振るい、他の生徒たちを傷つける。
少女は不安だった。色を失う恐怖、街の人々の視線、親からの叱咤、空腹。ことちゃんが「可愛そうだね」とつぶやいた言葉に無責任だと感じ、他者への理解不足から悲劇がおきたのだった。
三つの構造で書かれている。
序盤はカラフルな世界を楽しむ主人公の描写。
中盤は学校での出来事と友人たちとの関係。
終盤は主人公の内面の不安と恐怖が明らかになり、狂気に至る。
世界はカラフルの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。
ホラーは怖いミステリーである。
遠景で世界は色んな色に溢れていると示し、近景で具体的に描き、心情で、主人公が見えている色を語る。
子どもの好きなグミのようでパステルカラーが見えるとしながら、「あっちは白色でこっちは黒色、それに向こうでは黄色も見えるみたい」とカラフルな感じがしない。
「真っ白な想像のキャンパスに全力で想いを馳せる」
色が見えていない感じがある。それでも初見は、字面からカラフル感を醸し出している。
「翌日の朝、私はいつもより早く学校へ行く。昨日は赤色を見れた、今日は何色が見えるのかなぁ?」
初見ではわからない。赤が見れてよかったねくらいに思うし、「ルンルンで通学路を歩く。今日も幸せな私をみて道ゆく人たちは妬む。人気者って辛いね、多くの視線に耐えなくちゃいけないから」違和感はあるけど、主人公は楽しそうで、共感を抱く。
「教室に入ると私の隣の机には花が手向けられているのが見えた。なんて綺麗なお花なんだろう? 横には大きな箱があって少女が入っていた」
ここで違和感がある。
大きな箱に少女が入っていて、「昨日は鮮烈な赤を放っていた少女はどこか青白い。横たわる少女-ことちゃんはどことなく体調が悪そうだ」と、棺桶が置かれているような状況。
さすがに教室には置かないのではと考える。
せめて遺影か、骨壺の入った箱。
亡くなっ次の日なら、花だけだと思う。
長くない文。こまめに改行され、一文も長くない。ときに口語的。シンプルでありながら、感情豊かに描写されている。特に色彩の描写が印象的。主人公の視点から見た世界がカラフルであることが強調されており、彼女の内面の変化が色の変化と繋がっているところが特徴。
主人公の感情がリアルに描かれているところはよく、五感の描写では、色彩の描写が豊かで、視覚的イメージが強く伝わる。
主人公の弱みは、不安と恐怖を抱えていること。それが彼女の行動に影響を与えている。また、友人たちとの関係が歪んでおり、孤独感を感じている。
おそらく、学校でいじめられていたのだ。
主人公は色盲になったことで色を失う。
「街ゆく人の視線、親から叱咤される恐怖、空腹なのに食べるものがない恐怖、列挙し尽くせない程の不安の種を一人で抱えていた」と書かれており、家庭環境にも問題があるのがわかる。
席が隣のことちゃんは「可愛そうだね」と同情した言葉を使った。
それに対して、一連の不幸と不安に感じて余裕がなくなっている主人公は、キッチンから盗んだ凶器で彼女を殺めたのだろう。
「今日はゆうなちゃんの番かな? いつものアソビ…『イルカごっこ』みーんな仲良しのイルカさんだよ〜でもゆうなちゃんはひどい子だからいけないね?」
学校で行われている主人公に対してのイジメのことだと推測。
自分の番は終わったから、ことちゃんの番として殺め、つぎはゆうなちゃんの番、ということかしらん。
主人公がなぜ「イルカごっこ」と称して暴力を振るうのか、その動機をもう少し明らかにすると良いかもしれない。他のキャラクターの背景や感情ももう少し描写すれば物語に深みはますだろうけれども、主人公の視点からでは、精神的に参ってしまっているので、なかなか難しいところがあると考える。
読後。
群れで過ごすイルカは、たまにイジメをする。それを用いて可愛く表現しつつ、残酷な展開に持っていくのは予想外で驚きと衝撃があり、引き込まれる。
ただ、世界はカラフルなのに、主人公を救う手立ては色とりどりではなかったことが悲しい。いじめられ、助けてもらえなかったから、少女の世界は色褪せてしまったのだろう。
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