おやふれち

おやふれち

作者 きせのん

https://kakuyomu.jp/works/16818093083737800530


 近所の歯科医院に歩いて訪れ、親知らずを抜く話。


 文章の書き出しはひとます下げるや誤字脱字等は気にしない。

 現代ドラマ。

 タイトルがユニーク

 親フレンチと誤読を誘う。

 二度見するも、おやふれちとは何ぞ? と疑問符を浮かばせ興味をそそろるところが良い。


 主人公は親知らずを抜いた人。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公が親知らずを抜くために暑い中を歩いて歯科医院に向かい、受付を済ませて待合室で待つ。診察室に案内され、レントゲンを撮り、親知らずの抜歯について説明を受ける。

 麻酔を打たれ、痛みを感じないまま抜歯が進むが、音や感覚に恐怖を感じる。抜歯が終わり、止血を行い、無事に治療が終了する。主人公は、翌日以降の痛みを心配しながらも、晴れやかな気分で帰路につく。


 三つの構造で描かれている。

 序盤は歯医者に向かうまでの描写。暑さや受付の様子。

 中盤は麻酔を受け、抜歯の過程が詳細に描かれる。

 終盤は抜歯が終わり、帰路につく様子。


 親不レ知の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり。どのような結末に至るのか気になる。

 なんだろうと思わせる書き出しがいい。

 遠景で「親不レ知」と示し、近景で試みが失敗したと説明し、心情で親知らずを抜いたことを語る。

 おやふれちとは、親知らずを漢文で書いたものを読んでことだとわかる。あっさり解かれてしまうが、ただ親知らずを抜いたと始めるよりも、読んでもらおうとする工夫がされていていい。

 親知らずに限らず、抜歯は大変で、歯医者さんに通うことはもっと大変なのは、幼い頃からお世話になっている人なら想像できる。

 大変で可愛そう、そう思えるところに共感を抱く。

 しかも現在、「止血用ガーゼを噛んでいる」とあり、抜歯は終わっている。でも、これから腫れや痛みがくるのだから、ますますもって、大変だなと共感する。


 歯科医院は近所にあり、主人公は歩いていく。

 夏の暑い中、前日の雨で湿度もあったという。行くだけでも精神的負担があるのに、抜く前から肉体的負荷もかかっている。


 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いて一文も長すぎることもない。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶっているところがある。口語的で、軽妙でユーモラスな語り口。親しみやすい。主人公の内面の声や感情が豊かに描かれており、共感しやすいのが特徴。

 読者が共感しやすい主人公の感情や思考が詳細に描かれているところが、本作の醍醐味。緊張感のある場面でもユーモアを交えて描写しており、読み手を楽しませてくれている。 

 暑さや麻酔の感覚、抜歯の音など、ほかの感覚と組み合わせて五感に訴える描写が豊富で臨場感がある。

 視覚は燦々と照る日差し、ポカポカに温まったアスファルト、歯科医院の入口のガラス戸などが描かれている。

 聴覚は歯科衛生士の声、歯を砕く音。

 触覚は夏の暑さ、店内の冷たさ、麻酔をされた感覚、舌の痺れ、痛み、振動など。

 味覚や嗅覚は特にない。。

 

 物語を通して、主人公のユーモラスな語り口と体験がくわしく描かれている。歯科医院を利用した人が思い出すほど、よく描かれているところが良い。


 主人公の弱みは、抜歯に対する不安や恐怖。

「さらに補足しておこう。私は別に平日昼間でも暇なニートではない。夏休みだ。誤解されると少し腹立つ」説明して、感情を添えている。学生らしい。腹を立てているということは以前、誤解されたことがあるのだろう。

 あるいは、武者震い的な虚勢をはっているのかもしれない。

 こういうところにも不安が垣間見える。


「自慢ではないが私は歯科のレントゲンをたくさん体験してきた。なので当然やり方は知っている。しかし私はそんじょそこらの凡人とは違うため、さらに多くのことが分かっているのだ。調子に乗って指示を受ける前に色々やろうとすると、微妙に忘れていたりして恥ずかしい思いをすることになるのだ。一敗。大人しく詳しい人の指示を聞くのが一番である」

 一敗ではなく一杯かもしれない。

 指示を受ける前に色々やろうとして、恥ずかしい思いをしたことがあるのかもしれない。


 エクストから、いろいろ想像を不恨ませているのが面白い。


 抜歯の描写はくわしく描かれている。同じような感情や状況の描写がくり返される部分があるため、やや冗長に感じるかもしれない。

 主人公は椅子に座って口を開けて、麻酔が効いているとはいえ、痛みに耐えて歯を抜かれているだけなの仕方がない部分もある。


 爆音が響いて抜歯する展開は、主人公も予想外で意表を突かれている。自分ごとなのに他人事のように描かれているのは回想シーンだからと、麻酔が効いているせいだと考える。

 麻酔がなければ、激しい痛みに襲われて、ユーモアに描くことは出来なかっただろう。


 結末の「これで無事にすべて終わったように思うだろう。しかし私は知っている。歯を抜いた後、翌日以降の痛みを」麻酔がとけてから、痛みがはじまるのだ。

 それでも晴れやかな気分で帰っていく主人公。

 最後の「とても暑かった」が現実に帰ってきている感じがでてていい。

 麻酔をしていて感覚が麻痺していたが、暑さを感じているところに、麻酔が切れていることも想像できる。

 

 読後。タイトルが面白かった。

 また、タイトルと同じように主人公が、親知らずを抜くをユーモラスに描いていて楽しかった。内面の声や感情がいろいろ描かれているから感情移入しやすく読めた。

 歯医者は嫌ですね。

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