創作バーの特製ドリンク

創作バーの特製ドリンク

作者 冬野 向日葵

https://kakuyomu.jp/works/16818093083726718929


 物語づくりに興味があるあなたは、創作バー『Katari』で『世界絞り』で作るドリンクを飲みすぎ、『世界の悲鳴』が起きて気持ちが悪くなる。高額な料金を払い、店をあとにする話。


 ファンタジー

 物語のインスピレーションを求めて、設定と主人公の素を火酒に溶かして飲み干して重ねていく発想が面白い。


 主人公は、読者のあなた。二人称で書かれた文体。三人称の店主視点が混ざっている。ですます調で書かれている。語り口調で、読者に直接語りかけるようなスタイル。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 舞台は創作バー『Katari』。新しい客であるあなたが訪れ、店主から『世界絞り』という機械で作られた特製ドリンクを勧められる。この機械は、様々な世界設定と主人公の素をブレンドして、物語のインスピレーションを得るための飲み物を作る。

 客であるあなたは興味を持ち、いくつかの設定を試してみるが、最初のドリンクはあまり合わない。店主の勧めで次々と新しいドリンクを試し、最終的に十五杯も飲む。しかし、一気に飲みすぎて気分が悪くなり吐いてしまう。『世界の悲鳴』と呼ばれる雑味が出てしまうという。

 店主から高額な会計を提示され、客であるあなたは驚きながらも支払いを済ませ、店を後にする。


 四つの構造で書かれている。

 導入は主人公が創作バーに訪れる。

 展開は店主との対話を通じて、ドリンクを試す。

 クライマックスは十五杯のドリンクを飲み、吐いてしまう。

 結末は高額な会計を提示され、驚きながらも支払いを済ませる。


 創作バー『Katari』の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。

 バーに入るところからの書き出しはいい。

 遠景で、ドアの向こうから現れた「あなた」に、店主は語りかけると描かれ、近景で会話、心情で一番奥に座った「あなた」は手をあえて店主を呼ぶ。

 本作の冒頭部分は二人称で書かれている。でも地の文を読むと、店主の心情が書かれていて、三人称の店主視点で綴られているのがわかる。

 冒頭の書き出しは客観的状況を描くために、二人称で来店したきた「あなた」視点ではじめ、本編は店主である主観で書かれている。ラストは客観的視点である客の「あなた」で終わっている。

 つまり本作は、店主の話なのがよくわかる。

 三人称で書いたら良かったのではと考えるも、作者としては、カクヨムの読者層を意識して、あえてこのスタイルにしたと推測。

 とくにカクヨム甲子園の読者層は十代の若者であり、物語をつくる人。インスピレーションを求めている人にとっては、本作の主人公に共感するだろう。


 長い文ではなく、こまめに改行。句読点を用いて一文も長くない。

親しみやすく、読者を物語の中に引き込む。

 創作バーという設定が新鮮で、創作プロセスをドリンクにまぜるユニークな設定が魅力的。また、店主と主人公の対話を通じて、創作の楽しさや難しさを描いている。

 店主と主人公のやりとりが自然で、引き込まれる。

 五感の描写として、視覚的刺激は、店のドアや店内の様子、世界の素のカタログ、緑の液体が入った一杯のグラスなど。聴覚は鈴の音や店主の会話、味覚は具体的には書かれていないが、ドリンクの味。飲むと、表情が変になり、吐いてしまう。


 主人公の弱みは、創作に対する初心者の戸惑いや興味が描かれており、読者が共感しやすい。

『いじめの絶えない学園世界』と『妹だけが癒しのお兄ちゃん』という設定をブレンドしている。

 以前は、カテゴリーやジャンルで物語を作って読んでもらえたが、現在は個性的なシチュエーションの組み合わせで作るようになっている。ニーズに答えた結果なのだが、そうすると万人受けすることは少なく、一つひとつの作品に読者は細分化。

 結果として、読者が縮小している傾向が見られる。

 主人公が最初に求めたドリンクは、主人公は妹に癒やされるヤンキーもの、あるいはいじめられている主人公による報復ものかもしれない。

 世相を反映している、ともいえる。

 ただ、主人公が書きたい作品かどうかは別なので、好みではなくて表情が変になったのだろう。

 ほかにも、一気に多くのドリンクを試してしまい、体調を崩す点が弱みとして描かれている。

 小説の乱読に似ている。

 棚の端から端まで、やみくもに読んでいくやり方は、頭の中がごちゃごちゃしてしまい、気持ち悪くなる。本作では「『世界の悲鳴』って呼ばれる雑味が出てきちゃうんだ。創作した世界の住民が激怒してるとかなんとか……何、気にすることないよ」と語られている。

 飲み干すのではなく、テイスティングをすればよかったと思う。

 本でも、立ち読みや試し読みがある。

 自分が好きな世界、キャラ、お話の展開などがあるはず。

 まず、それを知ることからはじめないと、本作のように工学ん支払いを請求されてしまう。

 今の時代、本一冊の値段も安くないから。


 主人公は、終始無言だった。

 創作に興味があるけれど、どういう人物だったのかわからない。

 店主にしても、はじめての客に対して、もう少し説明して会えても良かったのではと考えてしまう。主人公や店主の背景や性格をもう少し掘り下げられると、深みが増すのではと考える。

 ドリンクを飲むことばかり書かれているので、もう少しストーリーの起伏があると、より興味を引く気がする。主人公が店を求める動機があればいいかもしれない。


 読後。創作バーという設定が新鮮で、創作する者の戸惑いや興味が描かれており、共感しやすかった。ほかの来客がドリンクを飲んで、インスピレーションが湧いて、執筆に励んでいくとか、アイデアをひらめいていく、または編集との打ち合わせでこの店を使い、ドリンクを飲みながら次回作の構想を練るなどをしている店内の情景が描かれている中で、小説を書いてみようと思っている主人公が噂を聞きつけて店に来て、まずは店主のおすすめから味わっていく。

 そんなお話にすると、シリーズ化もできるかもしれない。

 設定の発想が実に良かったので、展開に工夫がもっとほしいと感じた。


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