人類にとっての最高の発明
人類にとっての最高の発明
作者 功琉偉 つばさ
時は未来、西暦三七五七年。荒廃した地球を舞台に、科学者が人々には「心」と「想像力」が足らないから争うのだと語り、それらがあればきっと世界は良くなると高濃度の放射線と硫酸雨の降る地上に上がっていった話。
SFファンタジー。
非常に興味深く、考えさせられる内容。
三人称、科学者の視点、神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすく、科学的な要素が多く含まれている。現在、過去、未来の順に書かれている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
かつて、「天才とは、1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」といった偉大な発明家がいた。
西暦三七五年の荒廃した地球に、人類は地下に住んでいる。
『不老の薬』『空間収縮装置』『永久機関』『タイムマシン』『99パーセントのひらめきと1パーセントの努力が必要』
過去の偉大な発明家たちが次々と画期的な発明を行うも、それぞれが人類の争いを加速させる結果となってきた。
西暦三七五七年、普通の科学者は荒廃していない地球の写真をもって「心」と「想像力」の重要性を説き、これこそが人類にとっての最高の発明であると結論づけ、荒廃した地上へ向かっていった。
三つの構造で書かれている。
導入は荒廃した地球の現状説明。
各時代の発明では、不老の薬、空間収縮装置、永久機関、タイムマシン。
結論は「心」と「想像力」の重要性を説く科学者の言葉。
発明の謎と、登場人物たちに起こる様々な出来事の謎が、どうかかわり、どんな結末に至るのか気になる。
エジソンの言葉からはじまる書き出し。
遠景で語られ、近景で偉大な発明家が言ったらしいと示し、心情で今が西暦三七五七年であり、絶滅の危機にひんしていることが語られる。
人類の住んでいる地球は悲惨な状況にあり、共感を抱かせる。
「僅かな人間は地下に暮らしており、地上なんて住めたものではない。地上には硫酸の雨が降り、秒速数百キロの暴風が吹いている。また高濃度の放射線が飛び交っている」という具合に、ガミラスから遊星爆弾を落とされていた『宇宙戦艦ヤマト』に出てくる地球のような有り様である。
二十三世紀末に不老の薬ができ、全人類は25歳ごろのとても健康な年齢から年を取らなくなった。製造と価格高騰で争いがおきたという。
二十七世紀末にどこでもドアのような『空間収縮装置』ができるも、暗殺が多発し、安全なところがなくなってしまう。
二十九世紀末、永久機関ができると、核戦争よりも悲惨なs年層に発展したという。
三十四世紀末、地上に住めなくなった頃に、タイムマシンが開発されるも、供養を恐れて小さな実験用のタイムマシンを残したが、争いがおきたという。
長めの文。それでも一文が長過ぎることはない。各時代の発明とその影響が順を追って描かれているため、物語の進行がスムーズ。各時代の発明が非常にユニークで興味深い。時系列に沿った構成がわかりやすい。「心」と「想像力」の重要性を強調している点が興味深くていい。
五感の描写は、視覚的な描写が豊富に使われている。例えば、荒廃した地球の風景や、硫酸の雨、暴風、高濃度の放射線などが具体的に描かれている。
主人公は特定の一人ではなく、各時代の天才科学者たちが中心で書かれている。彼らの共通の弱みは、いくら画期的な発明をしても人類の争いを止められないこと。
各科学者の個人的な背景や動機、感情や葛藤を増やすと深みが増し、共感も得やすくなるのではと考える。
三十六世紀末、天才科学者が、「この世界にはひらめきが足りない。今の世界、人間が考えられることは何でも実現できてしまう。魔法だって科学で可能だ。転生だって、他の時間軸にある星を探し出せばいい」といい、『99パーセントのひらめきと1パーセントの努力が必要』だと残し、伝説になったという。
それから七百五十七年後。
普通の科学者が、世界の人々には心と想像力が足りてないと説き、死に際に初めて地上に上がっていった。
科学者は誰と話しているのかしらん。その辺りが詳しくなると、物語に動き出す気がする。
読後。科学技術の進歩が必ずしも人類の幸福につながらないこと、それを扱う人間の「心」と「想像力」が重要であるメッセージが強く伝わってくる。
今現在、悲しいことに戦争が起きている。
火薬も兵器もミサイルも、人類の発明である。
温暖化も環境破壊も待ったなしの状況で、爆発熱を上げて破壊をくり返している。自分たちが住んでいる場所を、国を、星を壊す行為は自殺と変わらない。相手を思いやる心も、引き金を引いたらどうなるのかの想像力も足りていない。今も昔もこれからも、人類は同じ過ちをくり返し続けるのかしらん。
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