あの作品を目掛けて
あの作品を目掛けて
作者 学生初心者@NIT所属
https://kakuyomu.jp/works/16818093081050567815
読書好きの女子高生は、文芸部の先輩に声をかけられ、小説を書くことに挑戦し、誰かを救う作品を書きたいと思う話。
現代ドラマ。
比喩が独特なところがよかった。
主人公は、読書好きの女子高校生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
途中、三人称で彼女視点になるところがある。
「そういわれた彼女の見た目というのは、真っ直ぐなロング、眼鏡。確かにそういわれても当然のような見た目ではあった」
「自分の見た目」にするか、あるいは「彼女の」を削ればいいかもしれない。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。 主人公は読書好きの高校生で、図書委員を務めている。ある日、文芸部の先輩に出会い、部活に勧誘される。最初は戸惑いながらも、先輩と文芸部の部室へ行き、先輩の作品を読み、自分も作品を書き始めるが、なかなか納得のいくものが書けずに悩んでしまう。
しかし、島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を参考にアプローチを変え、少しずつ自分の作品を完成させていく。最終的に、先輩に自分の作品を届け、感謝の言葉をもらう。
この経験を通じて、誰かの作品を追いながらも、誰かを救うような作品を書きたいという新たな目標を見つけるのだった。
四つの構造で書かれている。
導入は主人公の読書好きな性格と過去のトラウマが描かれる。
展開は先輩との出会いと文芸部への勧誘。
クライマックスは主人公が作品を書き上げ、先輩に届ける。
結末は新たな目標を見つける主人公の成長。
読書が好きな謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どうか変わり、どのような結末に至るのか気になる。
独白からの書き出し。
遠景で読書が好きと告げ、近景で読書をすると得られる感覚を説明し、心情でそれぞれ孤影が会って、違う思いが込められていると語る。
読書が好きな、読者ならば共感を抱くだろう。
主人公は本に出会い、変われることから、よく読書し、図書委員もしている。そんなとき、読書を否定するような人が現れる。しかも毎日。「限界に達し、怒りその馬鹿にしてきた人達を殴るようなこともあった」とあり、ずいぶんひどい目にあったことが語られている。
殴るのはよくないが、可愛そうな目に遭っている主人公に同情し、共感する。
長い文ではなく、こまめに改行がされている。句読点を用いた一文。短文と長文を組み合わせてテンポよくし、感情を揺さぶるところもある。
読書好きの主人公の内面が丁寧に描かれており、読書や文芸に対する情熱、感情の変化がよく伝わる。
会話が多く、キャラクター同士の関係性が明確に描かれている。また、比喩よくつかわれて、顔の赤さを「リンゴよりも赤い。食べ物ならトマトのように赤くなるよう」「その姿を見た先輩は、トマトを輪切りにしたような、大口をあける笑い方をしながら、少し泣いていた」とした表現は印象深い。
先輩との関係性が温かく、励まし合う姿は微笑ましい。主人公の成長過程が丁寧に描かれていてるのもいい。
五感の描写について、視覚では主人公の読書姿や図書館の様子、先輩の笑顔などがくわしく書かれている。
聴覚は先輩との会話や図書館の静けさが感じられ、触覚はよれよれの本の感触や、片付ける際の本の重さなどが伝わる。
臭覚や味覚はとくにない。
図書館の本の匂いなどが描かれてていれば、さらに臨場感が増すかもしれない。
主人公の弱みは他人からの評価を気にしすぎるところ。自分の能力に対する自信のなさから、読書をして変わろうとしている。読書経験を通じて知識や忍耐強さはある程度増えても、取り巻く環境や世界観を広げるきっかけとなるだけで、新しいことに挑戦する際の不安や戸惑いは抱えたまま。
だから先輩が声をかけてきたときは、主人公の読書する目標に、性格や価値観、過去にどのような行動を取ったか、葛藤が描かれているので、反感を抱く行動をするのは予測がつく。
先輩の作品を読んで、自分が小説を書いて先輩に読ませる展開に、主人公が驚くのは当然。読書好きであって、創作好きではない。
スイーツが好きな人なら全員、おいしいスイーツを作れるわけではないのだ。
先輩の小説を読み、「だからこそ、私は届けないといけないのだろう。先輩は今のままでいいということを。足りてないところなんてないということを」と抱く。
図書館で出会った先輩に文芸部に連れられて、作品を読み、小説を書くにしては、テンポが良すぎるかもしれない。重要なシーンをもう少し掘り下げ、主人公の内面描写をもう少し具体的にして、感情の変化がより伝わるように書き込むといいのではと思える。
会話文から、先輩は女性っぽい。見た目や容姿、状況など五感描写をさらに増やすと、読み手により臨場感が伝わるのではと考える。
島崎藤村の『千曲川のスケッチ』は、島崎藤村が小諸義塾に赴任した際に、小諸を中心とした千曲川一帯の自然やそこに住む人々の暮らしを鮮やかに描写した写生文。詩から散文へと表現法を移行する中間点にある作品で、美しい情景や人々の交流から生まれる叙情的な描写が特徴。
主人公が書いた作品は、島崎藤村の『千曲川のスケッチ』に影響を受け、自然や人々の交流を描いた叙情的な作品かもしれない。
たとえば、学校生活や友人との交流、日常の中で感じる小さな幸せや葛藤を描いたもの。
本作は、主人公が読書を通じて他者との交流や自己成長を描いている点で、『千曲川のスケッチ』の影響を受けていると言えるかもしれない。特に、主人公にとっての自然や、学校生活を通じて得られる感動や学びが共通しているように思える。
読後。自分が気に入った作品をもとに、創作を始めるのは素敵。学ぶは真似ぶからきている。はじめから完璧にできる人などいないのだから。
作品の面白さはジャンルやカテゴリー、テンプレとはちがう、別の面白さプラスアルファが必要になる。主人公が「誰かを救ってあげたい」という部分は、作者が用意しなくてはいけない。
体を突き動かすこの思いを忘れない限り、書き続けていくことができるだろう。
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