植物コレクター

植物コレクター

作者 @Nono_0oo

https://kakuyomu.jp/works/16818093082876557810


 夏休みはゲームをして過ごそうと思っていたところ母と一緒に実家を訪ね、祖母が手入れする庭の植物に心奪われ、自作の植物図鑑を作るようになり、大学に入っても毎年祖母に見せては楽しむ話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等は気にしない。

 現代ドラマ。

 植物を通して祖母との交流していく素敵。


 主人公は、高校二年生の田中裕二。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 高校二年生の田中裕二は、夏休みは家でダラダラとゲームをして過ごす予定にしていた。母に、今年はおばあちゃんの家に行くよと告げられ、父からは「家にいてもゲームばかりなんだから行ってきなさい。行くと案外楽しいかもよ」と促された。

 十一年ぶりにおばあちゃんの家を訪れる。おじいちゃんは主人公が小さい頃に亡くなり、いまはおばあちゃん一人で暮らしている。

 おばあちゃんの庭の美しい植物に心を奪われた裕二は、植物に興味を持ち、自分の植物図鑑を作り始める。次の年もおばあちゃんの家を訪れ、自分で作った植物図鑑を見せることで、おばあちゃんとの絆を深める。裕二は大学に入っても、毎年夏におばあちゃんの家を訪れ、植物を楽しむようになるのだった。


 四つの構造で書かれている。

 導入は裕二の平凡な日常と夏休みの始まり。

 展開はおばあちゃんの家を訪れ、植物に魅了される。

 クライマックスは植物図鑑を作り、おばあちゃんとの絆を深める。

 結末は大学に入っても毎年おばあちゃんの家を訪れ、植物を楽しむ。


 平凡な高校生の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 情景からの書き出し。

 遠景で外で蝉がなくのを示し、近景で、主人公は夏が来たと自覚し、心情で自己紹介と平凡などこにでもいる高校生と語る。

 夏休みを迎え、予定もなく「家でだらだらゲームをして過ごす予定」と続く。

 部活も勉強も、やりたいこともどこかに出かけるでもなく、無為に過ごすことに決めかかっているところに、共感する読者もいるかもしれないし、若いときは二度とないのになにもしようとしないなんて可愛そうだなと思い、共感するかもしれない。

 進学校なら勉強で忙しいのに、「夏休みの予定は特になく」なので、普通科かしらん。


 両親に、祖母の家に行くよう促され、渋々行くことになる。両親から愛されている。会うのは十一年ぶりだというので、車で気軽に行ける距離ではなく、高速道路を利用して数時間かけなければならないのかもしれない。渋々とはいえ、素直である。こういうところにも、共感を持つ。


「いらっしゃい。あら裕二くん! 大きくなったね」

 十一年ぶりなので、見違えたのではと考える。

 年賀状に写真、あるいはスマホのSNSで画像を見せてもらっているかもしれないので、どれだけ大きくなっていたか知っていたかもしれない。でも会うのは久しぶりで、嬉しかったことだろう。

 主人公が「こんにちは。お久しぶりです」と少し照れながら返事をしている。内向的に感じる男子にしては、しっかりしていい子である。


 長い文、十行以上つづく文章の塊。それでも句読点や間に会話を挟むなどして一文を長くしていない。冒頭と結末部分は、改行されている。

 見た目の圧迫感にしてはシンプルで読みやすい。裕二の視点から語られる一人称の物語であり、主人公の性格が、どこか幼いように感じられるのも要因かと考える。

 小学生のような印象があるように感じるのは、作文のように心情描写や情景描写にこだわって書き込まれていないからかもしれない。

 そのおかげで、主人公の素直さがよく現れているし、日常の出来事や主人公の成長が丁寧に描かれていて、共感し易いところが本作のいいところでもある。。

 おばあちゃんとの絆が温かく描かれているところ。植物の描写が美しく、自然の美しさを伝えているところも良い。

 五感の描写では、視覚で庭の植物の美しさや家の中の綺麗さが描かれている。ただ「綺麗」と、大きな言葉で表現されても、どんな様子を想像したらいいのか、読み手によって分かれてしまう。作者が想像して欲しい、主人公のみた景色を描くともっと良くなると考える。

 聴覚はせみの鳴き声や家の呼び鈴の音が描写されている。

 触覚は車に揺られる感覚や庭を歩く感覚が伝わる。

 嗅覚は植物の香りや家の中の匂いが感じられる。だが、どちらも描かれているわけではない。味覚は、食事シーンはあるが特にない。

 植物図鑑を作っていくことになるので、植物に魅了された祖母の家や庭、花の様子など、五感を用いて描写すると良くなる気がする。


 主人公の裕二の弱みは、特に趣味や好きなことがなく、夏休みをゲームで過ごす予定だったこと。だから、おばあちゃんの家に行くのが面倒だと感じている。

 両親に促され、断る理由もなく、渋々行くことにする。「めんどくさいな」と思いながら車に揺られているので、人に会うとか、団体行動をする、誰かと関わる元気がないのかもしれない。

 

 おじいちゃんをなくして一人暮らしをしているが、おばあちゃんのキャラクターをもう少し掘り下げると、物語がより豊かになると考える。容姿や年齢もそうだし、たとえばおばあちゃんお好きな花はなにかとか。


 子供がワクワクするのは、自分と世界が一つと感じているから。なにかがわかったとき、自分と大賞との結びつきを感じられ、腑に落ち、なるほどとして自分のものとして受け入れることができる。

 主人公は祖母の庭を発見し、新鮮さを見て、知って、感動し、自分の中で変化を起き、価値観や人生観が変わった。

 それが植物であり、本作の一番いいところは、自分で植物図鑑を作るところ。

 世の中には図鑑が売られている。

 ネット検索すれば、簡単に調べられる。

 だけど、社会の物差しで考えるとワクワクしない。自分の物差しで見ること、自分はなにをしたいか、なにに最も喜びを感じるのかが繋がった状態で行動していくからワクワクするのだ。

 裕二の内面的な成長や葛藤をもう少し深く描くと、物語に深みが増すと考える。

 高校二年生の翌年、高校三年生でも祖母の家を尋ねるのは悪くない。大学に入ってからも訪ねているので、受験勉強はしたのだろう。

 ひょっとしたら、祖母の庭を見たのがきっかけだったかもしれない。大学はどこを専攻したのだろう。植物関連かしらん。


 読後、タイトルはいいなと思った。

 お話の内容も、平凡な高校生が植物を通じて新しい趣味を見つけ、成長していく過程を温かく描かれているし素敵な話である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る