アオの最期
アオの最期
作者 kanimaru。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667373586053
幽霊となった高校男子硬式テニス部三年生のマネージャーであるアオイが、三年生の佐久間と橘の、最後の大会試合を見守る物語。
三点リーダーはふたマス云々は気にしない。
現代ドラマ。
主人公がなくなっているけど、ホラーではない。
主人公は、高校男子硬式テニス部三年生のマネージャーのアオイ。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
主人公である高校男子硬式テニス部三年生のマネージャーのアオイは幽霊である。同じ三年生の佐久間と橘の、最後の大会試合には出場できず、応援することしか出来ない。負けてしまった試合後、主人公の魂は二人の選手に感謝の気持ちを伝えようとしますが、声は届かない。でも、風に乗ってその思いが届き、二人は主人公に感謝の言葉を返すのだった。
三つの構造で書かれている。
序盤は試合の状況や主人公の立場が説明。
中盤は試合の緊張感や主人公の感情が描かれる。
終盤は主人公の魂が二人に感謝の気持ちを伝えようとする。
男子硬式テニスダブルス、インターハイ、東京予選、ベスト16のコートの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。
遠景でインターハイの東京予選ベスト16を示し、近景で、コートに立てる四人主人公がいないことを示し、心情でゲーム状況、あと二点とられれば負ける場面で、主人公にできることはなにもないと語られる。
窮地のなか、主人公にできることはなにもない。
関係者で観戦をしているのだろうと感じ、拍手して鼓舞するだけだが二人には聞こえないとある。届かない感じに孤独、寂しさをおぼえ、可哀想にも感じる。
なんてもどかしいのだろう。という主人公の思いに、読み手も、ただ見ているだけしか出来ない状況があったと、思い出すことで追体験し、共感していく。
「この大会が、私たちの最後の大会だからだ。いわゆる最後の夏。生涯消えることのない青春の一ページ。最後を迎える三年生は三人だけ。コートに立つ佐久間くんと橘くん、そしてマネージャーの私」と主人公が誰かわかると、なおさら同意する。
マネージャーは試合にはでられない。
「弱小の中で、佐久間くんと橘くんは別格に上手だった。入部した当初からどの先輩よりも強く、一年生の時からダブルスで都大会に出場した。そんな輝かしい二人に比べて、私が出来ることはあまり無かった。そしてそれは今も同じだ。ピンチの二人に、声をかけてあげることも出来ない」
陰ながらサポートし、ただ勝利を願う。
できることは、観客席に座る人達と変わらない。
近くにいるからこそ、余計に無力さを感じるのだろう。
「頑張れ。せめて心の中だけでも、エールを送りたい」
これには、読者は共感するだろう。
長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いた一文は長くなく、短文と長文を組み合わせてテンポよくし、リズムもあって感情を揺さぶってくる。口語的で、シンプルで読みやすい。感情の描写が豊かで共感を呼び起こされる。
試合の緊張感や選手たちの努力が伝わる描写が特徴的。最後に主人公の思いが届くシーンが感動的なのもよかった。
五感の描写は、視覚に試合の描写や選手たちの動き、空の様子などが詳細に描かれている。聴覚は拍手の音や蝉の鳴き声、試合中の静寂など。触覚は風の感触や夏の暑さが感じられる描写がある。
嗅覚や味覚がないのは生の印象が強いので、主人公は幽霊なため
主人公の弱みは、試合に出場できない無力感や、応援することしかできないもどかしさ。
マネージャーだからと思わせて読ませる前半から一転、試合後に明かされる主人公は死んでいたこと。ゆえに、頑張った二人に自分の思いを伝えられない孤独感。
風が吹いて思いを届けると、「風が二人を揺らすと、二人は立ち止まった。そしてこちらを振り向いた。満面の笑みだ。手を挙げて、二人は確かに言った。『こちらこそ、ありがとう』」
届いてよかった、と思える。
主人公が泣いて喜ぶと同時に、読み手も一緒によかったと思える。主人公に共感し、物語に感情移入できているから。
主人公はいつ、どうして亡くなったのだろう。それがわかる過去のエピソードや背景がもう少し描かれていても良かったのではと邪推しかけるも、くどく説明しないほうが作品を味わえる気がした。
読後、アオイは笑顔で最期を迎えられてよかったなと思った。
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