珊瑚を巻いて、飲み込んで
珊瑚を巻いて、飲み込んで
作者 葱巻とろね
https://kakuyomu.jp/works/16818093082229212990
財布を忘れたセイカは、兄に持ってきてもらうよう伝える。友人イズミとファミレスで食べながら運命の人について話しはじめ、運命の人とまた巡り会えると思っていたというイズミの言葉にセイカは困惑していると、ファミレスについたという兄からの連絡が届く話。
現代ドラマ。
軽めのホラー?
これから、なにかドラマが始まりそう。
主人公は女子高生の紫雲セイカ。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれて言う。
主人公のセイカと友人のイズミは、ショッピング前にファミレスで食事をするために訪れる。セイカは財布を忘れたことに気づき、家にいる兄に持ってきてもらうように連絡して頼む。
食事中、イズミは「運命の人」について話し始め、運命の人をいつけたいという。そこでイズミの理想の人について尋ねる。
セイカは身長や性格をきいて、イズミの理想の人を探ろうとしますが、なかなか見つからない。誰かと付き合ったことがあるのか尋ねると、先輩とあったと教えられる。その先輩は主人公に似ていて、人が困っていたら助けてくれるところだという。
イズミは「セイカは勘違いをしているよ。理想の人と運命の人は違う」という。理想の人から運命の人が見つかるのではと、考えを述べると、それも勘違いといわれる。イズミはすでに運命の人が誰かを知っていると言う。「だって、彼とまた、巡り合えたのだから」「ダメだと思っていても、やっぱり好きだったの。運命を引き裂くことはできなかったんだよ……!」イズミの言葉や態度が不気味に変わり、困惑するセイカのスマホに、兄からファミレスに到着したことを知らせるメッセージが届くのだ。
四つの構造で書かれている。
導入はセイカとイズミがファミレスに行くシーン。
展開はセイカが財布を忘れ、兄に持ってきてもらうように頼む。
クライマックスはイズミが「運命の人」について話し始め、不気味な態度を見せる。
結末はセイカの兄がファミレスに到着したことを知らせるメッセージが届く。
タイトル、サブタイトルがとっても意味深である。
ファミレスへと足を運ぶ謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。
状況説明の書き出しからはじまる。
遠景で昼時に、ショッピング前にファミレスへ行くことを示し、近景で、予約表に来て待つ様子を描き、心情で、いつもとちがうカバンの膨らみに気づいて確認する。
財布を忘れていることに気付く主人公。かわいそうに思える。
心配する友がいて、頼れる兄がいる。「メッセージの口調は気だるげだが、妹の頼みは聞いてくれる。いい兄だ」というところからも、愛されているのがわかり、共感を抱く。
しかも予約表に書いたら、待たされることなく案内される。羨ましいところでもある。
長くない文、数行で改行。句読点を用いて一文も長くないときに口語的。一人称視点で書かれ、主人公の内面の感情や考えがリアルにくわしく描かれている。登場人物の会話が自然で、キャラクターの性格がよく表れているところがいい。
日常の出来事を細かく描写して、登場人物の感情や関係性を丁寧に描いているところが何よりの特徴。
五感を使った描写が豊富で、情景をイメージしやすい。
視覚は窓から見える輝く景色、蝉の響き、メニュー、カルボナーラとミートパスタの見た目。 聴は蝉の響き、スマホの通知音、友人との会話。嗅覚は食事の良い匂い。触覚は冷気、エアコンの風、冷水の感触。味覚は濃厚なクリームソースのカルボナーラが描かれている。
「私は誘惑に負けてカルボナーラ、イズミはミートパスタ」とあり、どういうことだろうとモヤッとしていたら「私の目の前にカルボナーラが運ばれる。兄のアイコンを見てしまったせいで、やむを得ずパスタを選んでしまった。本来ならハンバーグを食べに来たはずだったのだ」とある。
ハンバーグとは、しっかり食べるつもりだったらしい。
主人公の弱みは、兄に頼ることが多い。
兄は、困ったときはいろいろと助けてくれる。だから、恋人を作ろうと思わないと考えられる。だから、恋愛経験が少なく、友人の恋愛話に対して適切に対応できないのだろう。
イズミが先輩と付き合ったことがある話を聞いて、「恋愛経験がない私は裏切られた気分だ。しかも先輩。青春の塊ではないか。羨ましい。だが、彼女は誰が見ても可愛い」とショックを受けている。
先輩は主人公に似て、「人が困っていたら助けてくれるところ。同じなの」という展開は主人公にとって予想外であり、驚きと興奮をしてしまい、不気味な態度に対して困惑し、冷静に対処できなくなっている。
「これは遠回しに私が好きだ。絶対モテるよと言われているのと同じではないかと思ってしまう」と思ってしまうし、話題を戻そうとするも、「理想の人と運命の人は違う」「私、運命の人が誰だか分かっているの」といわれ、なにを言っているのかますますわからない。
イズミは続けて「運命ってすごいと思ったんだ」「だって、彼とまた、巡り合えたのだから」「ダメだと思っていても、やっぱり好きだったの。運命を引き裂くことはできなかったんだよ……!」「やっと会えた……これで、また、ヨリを戻せる」
その間に兄からの通知が届く。
画面を見ると、『俺の好きなミートパスタ送るって、機嫌取りか? 何も出ないのは分かってるだろ』『それよりファミレスに着いたぞ。どこにいるんだ?』
イズミのいう「運命の人」は、セイカの兄。彼女は過去にセイカの兄と付き合っており、再び巡り合ったことを「運命」と感じているのがラストでわかるのだ。
兄と付き合っていたから、ミートパスタが好きなことをイズミは知っていて、財布を届けに来ると聞いたから、思い出して注文したのだろう。
セイカの兄と付き合っていたことを、妹である主人公に教えずそれとなく話をしていく展開は本作のメインであり、読みどころでもあるのだけれども、勿体付けている感じがして、テンポを上げる工夫が会ってもいいのではと邪推したくなる。そこが面白いところでもあるのだけれども。
イズミの不気味な態度の理由や背景が、もう少し明らかに描かれると理解が深まるかもしれない。セイカ兄との再会に運命を感じ、寄りを戻せるという流れなのだけれども、イズミとしては、セイカによりを戻すために協力してほしいのか、あるいは、セイカを驚かせつつ、兄との再会したときに、また付き合ってくださいと告げようとしているのかしらん。
それども、ストーカー的な気質があるのだろうか。
イズミは付き合ったと言っているけれど、兄としては、困っていたから助けただけで、付き合っていないという認識を持たれていて、再び接触する機会がないか、セイカと仲良くなることでうかがっていたのではと邪推したくなる。
読後、タイトル、サブタイトルに唸る。
珊瑚は美しくも脆い存在。巻き込むことで、美しさと脆さが一体となることを示しているのだろう。つまり、物語の感情や出来事が複雑に絡み合い、一つにまとまる様子を象徴したタイトル。
サブタイトルはそのままで、登場人物たちが運命や関係性を手繰り寄せ、互いに近づいていく過程を表している。
主人公たちが運命の人や理想の人を探し求め、最終的にその人に近づいていく様子が描かれた話なのだから。
それにしても、どこからこのタイトルが浮かんできたのだろう。
新潮社的に、作品外からもってきてタイトルを付ける発想は、素晴らしいと思った。
兄が到着すると、どんな展開が起きるのか、とっても気になる。
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