星を数える。今日もよく眠る。

星を数える。今日もよく眠る。

作者 夜野十字@NIT所属

https://kakuyomu.jp/works/16818093083241138501


 夜空の星を数えて眠りにつく習慣の主人公は、流れ星を見て星空の美しさを確認し、布団に入って流れ星を思い浮かべながら眠りにつく話。


 現代ドラマ。

 日常の中にある美しさや心の変化、眠りの前の素敵なひとときを、うまく描いている。


 主人公は、夜空の星を数えることで眠りにつく習慣を持っている人。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 寝付きのよくなかった主人公は、中学に入ってからどうにかしなければといろいろ試し、夜空の星を数えることで眠りにつく方法にたどり着き、いまに至る。

 ある寒い十月の夜、屋根に寝そべりながら星を数え、余計に目が冴えてしまう。こんなことならやらないほうがましだろうと屋根から降りようとして、流れ星を一筋見つける。

 その光景に心を打たれた主人公は、星空の美しさを再認識し、再び星を数え始める。夜がどんどん更けていく。かすかに眠気を感じ、今度こそ屋根から自室のベランダに降り立った。心地よい眠気に包まれながら布団に戻り、流れ星の光景を思い浮かべながら眠りにつくのだった。


 四つの構造で書かれている。

 序盤は主人公が星を数える習慣について説明。

 中盤は星を数える中での内省や過去の回想。

 クライマックスは流れ星を見つけるシーン。

 結末は心地よい眠気に包まれながら眠りにつく。


 十月半ばの夜の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。

 情景からはじまる書き出し。

 遠景は肌寒いと感じる十月半ばの夜を示し、近景では周辺の様子を描き、心情で主人公が屋根に寝そべり星を数えている。

 都会ではなく郊外、しかも田舎の方で、街灯も少なく星がよく見える地域だと想像される。

 誰もいない、一人ぼっちの様子。

 孤独を感じ、寂しさと、綺麗な星を見ている特別な感じ。

 それでいて、屋根から転げ落ちてしまうかもしれない恐怖感から、興味を抱き、共感していく。

 寝る前の、ちょっとしたおまじないという表現が可愛らしい。

 やっていることは、スリリングでそうでもない。

 そんなギャップも面白い。

 

「つまるところ、数える作業にそれ以上の面白みが訪れないのだ」

 星を眺めてたことがある人ならば、共感するだろう。

 たしかに綺麗だなと思う。いっぱい光っていて、瞬いている。

 大きかったり小さかったり。じっとみていると、ゆっくり動いていくのもわかるだろう。でも、面白いかと言われると、なにか目的がなければ見続けられず、飽きて目を閉じてしまうだろう。


 長い文ではなく、数行で改行している。句読点を用いて一文も長くない。短文と長文を組み合わせてテンポよくしていて、それでいて落ち着いた語り口で、内省的な描写が多い。主人公の心情や考、内面の変化が丁寧に描かれており、共感しやすい。

 五感を使った詳細な描写が豊かで、情景を容易に想像できる。視覚は、星の数や色、流れ星の光景などが詳細に描写されている。

 触覚は夜風が体を撫でる感覚や鳥肌が立つ様子。聴覚は風の音が間接的に描写されている。


 主人公の弱みは、不眠症。

 眠りにつくのが難しく、星を数えることでしか眠れないという弱みを持っている。他にはどんな方法を試したのだろう。はじめは布団の中で羊を数えたのかもしれない。想像するのが難しかったのか、面倒だったのか。実際にあるものを数える方法を試し、部屋のもので少な過ぎたので、星にしたのかもしれない。

 はじめたそのころは、春や夏だったからよかったが、十月の半ばになると冷えてきて、目も冴えて、そろそろ辞め時と思っているかもしれない。

 だから、「眠れなくなったのは、いつからだっただろうか」とか「でもこの日課もそろそろ終わりかな……」とか、区切りのいいところでやめて早々に降りようとしたのだろう。

 単純に三分、大目に見て五分くらいと想像する。

 寒くて、長い時間見てられなくなっているにちがいない。

 そんなとき流れる一つの筋。

 星を見ているのだから流れ星の出現は想像できるかもしれないが、流星群を見ているわけではないし、一日およそ二百個の飛来物はあるとはいえ、すべてを見れるわけではないため、不意に流れた星に驚いたことだろう。


 星を数えるシーンが長く感じられるため、もう少しテンポを上げると良いのではと考えてみる。そもそも主人公の独白なので、他のキャラクターとの対話があれば物語に動きが生まれるかもしれない。

 でも、それでは主人公は眠れなくなってしまう。

 流れ星以外では、星の色の違いが描かれている。夜空も星も豊かだと感じられる星の動きや変化があってもいいかもしれない。

 しれないのだけれども、難しいだろう。

 それに、眠るために見ているのだから、テンポを上げないほうが、気持ちよく眠れるというもの。


 読後、タイトルを見てしみじみ思う。たった一つ、流れ星を見たことを思い出して眠るからこそ、よく眠れるのだろう。主人公の中で起きる変化と、日常にある美しさが丁寧で、読み手側も心地よくなり、星を見て眠りたくなる。

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