疾風剣

疾風剣

作者 よしこう

https://kakuyomu.jp/works/16818093082827101615


 剣豪・塚原卜伝は、三好長慶の家臣・松永久秀の軍勢に討たれた愛弟子・義輝の死を悼みながら、高弟・松岡兵庫助則方とともに京へ向かって山道を進んでいると、三好方の刺客に襲われる。だが、諸岡一羽をはじめとする門弟が駆けつけ、卜伝は刺客首領を返り討ちにし、義輝を想う話。


 文章の書き方は気にしない。

 時代もの。

 詳細な描写と心理描写が豊富で、卜伝の内面の葛藤や悲しみが丁寧に描かれている。アクションシーンも迫力があってよかった。

 これを高校生が書くのか……凄いな。


 三人称、剣豪・塚原卜伝視点で書かれた文体。卜伝の内面の葛藤と外部の戦闘シーンが交互に描かれる構造。主人公の心理とアクションの両方を楽しめる。現在、過去、未来の順に書かれている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 剣豪・塚原卜伝は愛弟子・義輝の死を悼みながら、高弟・松岡兵庫助則方とともに山道を進んでいる。義輝は将軍としての矜持を全うし、三好長慶の家臣・松永久秀の軍勢に討たれた。

 卜伝は義輝の死を受け、京へ向かう決意を固める。途中、卜伝とその高弟・松岡兵庫助則方は、三好方の刺客に襲われるが、

「我は諸岡一羽、卜伝様の助勢に参った。者共、懸かれ」

 十人ほどの門弟が駆けつけ、一気に黒装束の剣客に斬りかかる。

 刺客の首領は絶叫すると卜伝に斬りかかるも軽々と避け、首領を倒す。卜伝が義輝を想いながら、「手向ける花などいらぬよな」首領を討ち取った卜伝は刀の血を拭った。

 雲の合間から顔を出した月に向かって、不如帰が飛んでいくのが見えるのだった。


 四つの構造で書かれている。

 導入は、塚原卜伝は愛弟子・義輝の死を悼みながら山道を進む。

 展開は、義輝は将軍としての矜持を全うし、三好長慶の家臣・松永久秀の軍勢に討たれる。卜伝は京へ向かう。

 クライマックスは、卜伝と松岡兵庫助則方は、三好方の刺客に襲われる。

 結末、門弟が駆けつけ形勢逆転。卜伝は首領を討ち取る。


 夜に山路を行く謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。

 情景描写から始めるのが実にいい。

 冒頭の導入は、客観的状況ではじまる書き出し。

 遠景で、いつ、どこで、だれが、どういう道を進んでいるのかが描かれている。近景では、主人公が愛弟子のことを考えていることが示され、心情では「良くできた弟子だった」と語っている。

 過去形なので、いまでもう別れているのがわかる。縁が切れたのか、死別かはまだわからない。

 その後も遠景で、若き日の義輝に稽古をしたことを描き、近景で彼はどういう人間なのかをくわしく説明し、心情で「彼は若き日の自分に少し似ていた」とあり、親近感も湧いていく。

 主人公は、「鹿島神流という剣の道、それを極めるという大願を持ちながら城主という身分に囚われていたときの私に」と、自身も城主という身分であったことがわかる。

 でも彼はそれを捨て、国に平和をもたらす剣の道を選んだ。

 義輝は将軍としての矜持を全うした。

 師匠ができなかったことを全うしたからこそ、愛弟子を誇っている。だが、時は乱世。平和への夢を胸に秘めていた室町将軍家の次期将軍の義輝は三好長慶の家臣、松永久秀の率いる軍勢に討たれてしまったのだ。

 実に可愛そうであり、共感を抱く。


 長い文ではなく、こまめに改行されている。句読点を用いて一文も長くない。長いところは重々しさを感じさせている。短文と長文を組み合わせてテンポよく書かれ、感情を揺さぶるところもある。漢字が多い印象。古風で威厳のある文体が使われている。

 詳細な描写と心理描写が豊富で、情景や感情を強く伝えているのが特徴であり、卜伝の内面の葛藤や悲しみが丁寧に描かれており、キャラクターに深みを与えているのがいい。

 また、剣客たちとの戦闘シーンが迫力があるのも魅力の一つ。流れるような展開、状況が目に浮かぶ様で実にいい。

 五感を使った詳細な描写が、物語に引き込む力がある。とくにアクションシーンは視覚と聴覚、触覚を組み合わせているのでりん羊羹がある。

 視覚は、月光に照らされた山道、刀身の輝き、黒装束の剣客たちの姿などが詳細に描かれている。

 聴覚は剣がぶつかる音、笛の音、首領の叫び声、不如帰の鳴き声などが描写。触覚は、卜伝の軽快な足取りや刀の感触が伝わってくる。

 嗅覚や味覚は特にない。夜の山路を進んでいるときの匂い、刺客たちとの死闘に嗅覚や味覚の描写をすると、より表現できるのではと考えてみる。匂いはともかく、味覚は難しそう。


 主人公の卜伝の弱みは、愛弟子・義輝の死に対する深い悲しみと虚しさ。また、彼の理想と現実のギャップに苦しんでいる様子が描かれいる。

 京へ行ってなにをしようとするのか。

 三好長慶の家臣・松永久秀の軍勢に挑むつもりかしらん。助けに来た門弟の諸岡一羽、高弟の松岡兵庫助則方など、他のキャラクターの背景や動機をもう少し詳しく描くことで、さらなる深みが出てくると思う。

 

 読後、タイトルを見ながら、非常に面白いと思った。たしかに疾風剣といえるだけの剣捌きはかっこよかった。

 最後の一行は戦いの喧騒から一転、静かな情景を描き、物語の余韻を深めながら、義輝への思いや誓いが込められていて、印象深かったです。

 ホトトギスは「不如帰」が使われている。漢字の由来は中国の故事にある。古代中国の蜀の望帝である杜宇が、国を追われた後にホトトギスに姿を変え、「帰るに如(し)かず(帰りたい)」と鳴いたとされている。このため、「不如帰」という漢字は「帰りたいけれど帰れない」意味を持ち、ホトトギスの鳴き声に重ねられているという。

 愛弟子・義輝と共に過ごした日々には帰れない、それでも義輝を思う主人公の

気持ちが忍ばれる締めが実にいい。


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