依存するから、見たくない。

依存するから、見たくない。

作者 三門兵装

https://kakuyomu.jp/works/16818093082915254214


 一番を取ることを共用されて育った子供が国内で一番の大学に進学し、一人暮らしを始めるが、どうして良いかわからず母に電話をかける話。


 三点リーダーやダッシュはふたマス云々は気にしない。

 現代ドラマ。

 親からの強要と束縛に苦しむ葛藤がリアルに感じる作品。

 似たようなことを感じる人は多いのでは、と考える。


 主人公は大学生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。


 絡め取り話法に準じて書かれている。

 主人公は親から一番を取ることを強要され、無機質な人形のように扱われて育つ。中学時代に模試で一番を取ったが、親からの反応は冷たく、心に大きな穴が空く。その後も勉学に励み、国内で一番の大学に進学。新居に引っ越した今、親の束縛がない環境で自分を見つめ直すが、将来への不安と恐怖に苛まれる。この先がわからず、母親に電話をかけ、どうしたらいいのかを尋ねるが答えは見つからないのだった。


 三つの構造で書かれている。

 導入、過去の出来事と現在の状況が交錯する形で進行。

 本編、主人公の内面の葛藤が中心に描かれている。

 結末、母親に電話をかけるが、答えは見つからない。


 タイトル、サブタイトルから、臭いものに蓋をする的な、見たくないものから目を背ける、そんな作品を想像させる。

 独白からはじまる書き出し。

 遠景では親の口ぐせが示され、近景ではなににしてもそうだと強調、心情では主人公の思いが語られている。

 一番を強要され、自分には秀でた才能はないから、努力するしかない。強いられれば嫌いになる。そのことを主人公は身を持って体験してきたのだ。

 そんな姿に、十代の若者である読者層は、多かれ少なかれ共感を抱くだろう。

 一番をと親や先生に言われたり、たとえ一番でなくとも、いい学校、いい成績、いい点数、いい結果と、言い方が違うだけで求められる方向性はどれも同じなのだ。

 主人公は、努力して、「中学の頃、県内模試で一番をとった」でも、親は褒めてくれなかった。

 

 主人公と、親の目標が違うから起きる齟齬だろう。

 主人公は中学の県内模試で一番を取ることを最終目標にしていたのかもしれない。でも親は、数ある中間目標の一つとして捉えていたのだ。

 つまり親の目標が、たとえば大企業のトップになることだったとする。そのために、どの学校、どの大学、どの企業に就職し……といった途中の中間目標をいくつも設定し、一つずつクリアして大目標にたどり着く。そんな考えをしているのかもしれない。

 あるいは、そこまで考えていなくて、いい大学にいってくれたら、あとは自分のことは自分でやりなさいという考えかもしれない。

 どちらかといえば、主人公の親は後者だと考える。


 長い文にせず、数行で改行。ところどころ、読点のない長い一文が見受けられる。ここでは、主人公の感情、落ち着いていたり重々しかったり、弱かったりを表していると考える。

 短文と長文を組み合わせてテンポよく、感情を揺さぶってもいる。

 口語的で、内省的で感情的な文体。親からの強要と束縛に対する反発と、それに対する無力感が強調されている。

 主人公の内面の葛藤がリアルに描かれているところがいい。親からの強要と束縛が、どれほど影響を与えているかがよく伝わる。

- 新居の描写が具体的で、環境の変化がどんな影響を与えているのか感じられるのもよかった。

 五感の描写では、視覚的刺激については真っ白な壁、真新しいキッチン、程よく日差しを取り込む窓など、新居の描写が具体的。聴覚はプルルルルという電話の音。触覚は、まっさらなスマートフォンを手に取る感覚。

 味覚嗅覚の描写はない。


 主人公の弱みは、親からの強要と束縛により、自主的な努力ができないこと。

 言われるままこなしてきたため、自分からなにかするという経験がない。そのため、やりたいことがなにかがわからない。むしろ、ないのだ。

 だから、将来への不安と恐怖に苛まれる。

 いままでは、あれしろこれしろと言われて努力でこなしてきた。

 でも、大学に入ったらそれがない。

 つまり、ゼロになっている。

 たとえば、医者や弁護士を目指すなら、合格するために努力することはできるだろう。でもそれは、自分がやりたいからではなく、他人に強要されての行動なのだ。

 将来への不安や恐怖について、もう少し具体的なエピソードを加えると、共感されやすくなるのではと考える。

 さらに、親との関係性や具体的な出来事をもう少し詳しく描くことで、主人公の感情の変化がより明確になるかもしれない。

 親は、主人公をどんな大人にさせたかったのか。

 医者や弁護士などに仕事につかせたかったのか。国際的に活躍するような人か。研究員か、大企業で働くエリートか。


 また主人公は、自分の感情をうまく表現できず、心に大きな穴が空いていることも弱みである。

 なにがやりたいことなのか、持っていないと思われる。

 本当にそうなのだろうか。

 親は子供にどう育ってほしのか、塾でも学校でも面談で親は聞かれる。一番が口ぐせなら、小学校に入るまえから口ぐせだろうし、塾も、早いうちから習わせていたはず。

 親と子供の考え、意見が違っていては、塾の指導もやりづらい。

 どういう考えが親にあったのかしらん。そのあたりのことがもう少しわかると、結末に向けての展開がやや急に感じないかもしれない。


 読後、タイトルを見て考える。主人公のような人は多いのだろうか。すくないのだろうか。わからない問題を後回しにするのは、一つの方法だけれども、わからない事柄は、自分に関係にことではない。わからないことの多くは、自分なりに理解しなければならないことなのだ。

 わからないことから逃げても、いつか形を変えて、同じ問題がやってくる。その問題を、そのときの年齢経験と知識と勇気で、自分なりに解かなければならない。

 そうすることで、新しい自分が生まれる。

 そのくり返しをしながらレベルアップして、他人にみせる仕事がある。芸術家、画家、音楽家、作家たちである。

 わからないことにぶつかって、悩み、苦しむ。それこそが芸術の輝きであり、その人の輝きでもある。

 辛く苦しいけれど、その都度、生まれ変わるから、新鮮で美しい。

 少しずつでもいいので、主人公は生まれ変わっていって欲しい。

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