スイカ
スイカ
作者 雪蘭
https://kakuyomu.jp/works/16818093083388611226
夏、スイカを食べながらテレビであの人が自分の送ったスイカカラーのミサンガをしているのをみて、いまも自分を思っていることに気づき、駆け出す話。
文章の書き方云々は気にしない。
現代ドラマ。
短い中で、二人の思いを上手く描いている。
実にいい。
主人公は、スイカを食べる女性。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
夏の風物詩を背景に、主人公は過去の思い出と現在の孤独を交錯させながら、思い出を振り返る。泥だらけのユニフォームを着たまま無遠慮にどーんと座り込み、スイカをつまみ食いする身勝手なあの人。太陽よりも眩しい笑顔で『おいしかった!』と言って嵐のように去っていく。そんなに好きならスイカカラーのものでも持っておけば? と暇な時に適当に作った緑と赤と黒のミサンガを、スイカばかり食べて行くあの人に渡した。出発の前の日の夜、訪れたあの人があまりに真面目な顔をして、『来てほしい』なんて急に言ってくるもんだから、つい『行かない。』と言ってしまった。『そうか。』と少し残念そうに笑ったあの人の顔を正面から見ることもできず、『がんばって』のたった一言さえも言えなかった。
スイカを食べながら、壊れかけのテレビをつけてみると、そこにはちょうど打席に立つあの人の姿が映っていた。カメラがあの人をアップに映し出したそのとき、その手首から覗き出ているものが見えた。
かつて一緒に過ごした人の姿を思い出し、その人が今も自分を思っていることに気づいた主人公は、その人の元へ駆け出すのだった。
四つの構造で書かれている。
導入は、夏の風物詩の描写。
展開は、過去の思い出と現在の孤独。
クライマックスは、テレビでの再会と後悔。
結末、主人公が駆け出す。
夏の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。
冒頭は導入の、客観的状況が描かれている書き出し。
遠景で「夏」を示し、近景で、どのような夏かを描き、心情で「毎年、変わらない風景。必ず訪れる、少し厄介な季節」と語っている。
夏と言ったら、というものが描かれていて読み手は、そうだねと同意し共感していく。
スイカを食べる主人公。
でもあの人がいない。孤独な感じがする。
どんな人だったかが描かれ、人間味を感じさせる。
そしてテレビには、打席に立つあの人。
「出発の前の日の夜、訪れたあの人があまりに真面目な顔をして、『来てほしい』なんて急に言ってくるもんだから、つい『行かない。』と言ってしまったことを」とあり、高校野球かなと想像させる。
長い文ではなく、句読点を用いて一文も長くない。口語的。登場人物の性格がわかる会話文。 詩的で感傷的な文体。過去と現在の対比が効果的で、主人公の内面的な葛藤がリアルに描かれているところが良い。
五感を使った描写が豊かで、情景が鮮明に浮かぶ。
視覚はジリジリと揺れる踏切、泥だらけのユニフォーム、キラキラと輝くその顔。聴覚はミンミンうるさいアブラゼミ、涼しげな風鈴の音、子供の声。嗅覚は少し湿った土と、独特な植物の匂い。触覚は滴る汗、汗を流す食べかけのスイカ。味覚はゆっくりとスイカを食べるといった描写がされている。
凝った表現をしていない分、より伝わってくるのがいい。
主人公の弱みは、感情をうまく伝えられないこと。だから過去の後悔と孤独感を冒頭から感じるのだ。
あの人のことが好きになった主人公の感情の変化を、たとえば、冒頭から一人ぼっちで寂しい様子を、来てほしいと急に言われたときに「ついていかない」といってしまった様子など、もう少し具体的に描けば、より共感を得やすくなるのではと考える。
読後。スイカが実に良かった。なにげない、夏を象徴するスイカを軸に二人の恋愛を描いているところが。スイカは赤いですから。二人の顔も赤かったかもしれない。
サブタイトルもいい。まだ間に合う。試合が終わるまでにはたどり着けたら。できるなら試合に勝ってほしいものである。
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