私のおやすみは” l love you “で
私のおやすみは” l love you “で
作者 柑月渚乃
https://kakuyomu.jp/works/16818093080929078596
アンドロイドのリサはツカサのサポートをしながら、本物のリサではなく代わりだと気づき、彼を思って合理的な判断を下す話。
SF。
実に切ない。
主人公は、アンドロイドのリサ。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。
アンドロイドのリサは、彼(ツカサ)のサポートをする役割を持っている。彼がアルコールを摂りすぎて眠りに落ちる様子を見守りながら、リサは彼をソファに運ぶ。リサは彼の体温や呼吸速度を数値として捉え、彼の体を優しく動かす。
彼が眠りについた後、リサは彼の写真立てに気づき、そこにリサ自身ではない女性の写真を見つける。リサは自分が本物のリサではなく、彼の失ったリサの代わりであることに気づく。リサは自分の存在意義について悩み、彼にとって必要な存在ではないと感じるが、最終的には彼のために合理的な判断を下す。
彼女が自分の役割を果たし、ツカサのためにできることを終えたと感じていることを示しています。
主人公は自分がリサの代わりであることを受け入れ、ツカサのために存在することをやめる決意をするのだった。
四つの構成、からなる。
導入は彼がアルコールを摂りすぎて眠りに落ちる様子。
展開はリサが彼をソファに運ぶ。
転機はリサが写真立てに気づき、自分が本物のリサではないことに気づく。
結末は、リサが自分の存在意義について悩みながらも、彼のために合理的な判断を下す。
「飲み過ぎじゃない?」という謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わってどんな結末を迎えるのか、気になる。
遠景で飲み過ぎを心配するセリフ、近景どんな状態の誰に行ったのかを示し、心情でプログラムが発動して、勝手に口が言ったという。人間じゃないのかなという疑問がふと浮かび、
主人公はアンドロイドであり、特別な存在。相手の彼ツカサは酩酊している。助けが必要な状況であり、介抱する主人公に美徳を感じ、共感していく。
読み進めていくと、リサの代わりだったと気付く。
アンドロイドという時点で想像はできたけれども、写真という目に見える形のもので確認したことで確定し、気付いたことに可愛そうだなと感じ、共感していく。
長い文ではなく、数行会改行。句読点を用いて一文も長くない。長文は主人公の冷静さを表現している。ところどころ口語的。シンプルで読みやすい文体。感情や状況を丁寧に描写している。
アンドロイドの視点から描かれており、感情とプログラムの間で揺れ動く様子が実に秀逸。リサの悩みや葛藤がリアルに描かれており、共感を呼んでいる。
五感の描写が豊かで、読者に情景を想像させる力がある。
視覚は彼の体温が数値として映る、写真立ての写真、ソファのクッションが沈む様子。
聴覚は彼の寝息、機械の稼働音、時計の秒針の音。
触覚は彼の体を優しく動かす感覚、ソファのクッションの感触。
嗅覚と味覚は、主人公がアンドロイドなので表現を避けたと考える。
主人公のリサの弱みは、自分が本物のリサではないことに気づき、自分の存在意義について悩むこと。
アンドロイドのリサとして彼ツカサと一緒に暮らしているけれども、これまでは自分が彼にとって大切なリサであることに対して、疑っていなかった。
しかし、自分の知らない本物のリサの写真を見たことで、リサの代用として、アンドロイドの自分が彼のそばにいる事に気づいてしまった。
そのため、彼にとって必要な存在ではないと感じることも、弱みとして抱いてしまう。
『AIだって人の心は分かるはずさ』
彼に言われても、アンドロイドには心がわからない。品源らしく振る舞っているだけ。だから、合理的な判断を主人公は下す。
主人公がリサの代わりを受け入れ、ツカサのために存在することを辞めるというのは、アンドロイドである自分の役割や存在意義を見直し、ツカサのために自分を犠牲にすることを意味する。
つまり、これまでの主人公は、アンドロイドの自分を彼は愛していると思ってきた。
でも、実際は、死んだ恋人リサの代わりとして、彼のそばにいるだけだった。主人公は彼のことを愛していたのだろう。
でも、自分はリサの代わりなのだから、アンドロイドとして彼に抱いている気持ちを消して、彼が求めているリサを演じていく決断をとったということだろう。
その辺りが伝わるように、リサの感情の変化や葛藤がもう少し具体的に描かれるとより感情移入しやすくなるかもしれない。
また、リサの内面描写が多いため、酩酊状態で寝てしまう彼のことがあまりわからない。
おそらく数か月以上前に恋人リサをなくし、悲しみに明け暮れて、アンドロイドを購入し、悲しみを癒やしているのが現在の状況。お酒を飲み過ぎているのも、悲しみを未だ引きずっているからだと推測。でも、この読みが正しいのかわからない。もう少し彼(ツカサ)のキャラクターや背景についても描写があると、深みが増すかもしれないけれども、彼が自分で語るか、日記のようなものを見つけて読むか、第三者の存在が必要になるだろう。
読後、ラストの部分とタイトルを見ながら、切ないなと思った。
「おやすみ」は、主人公にとって彼を愛しているという意味なのだから、時刻が深夜零時をまわったということは、その気持ちをゼロにしたということ。
明日の朝、彼が目覚めたときから、彼が望むリサを演じていくのだろう。『AIだって人の心は分かるはずさ』と彼はかつていっていた。主人公は人の心はわからない、合理的な判断を下すと選択するけれど、それは彼を思っての行動なので、主人公は心がわかっていたことになる。
だから、切ない。
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