家出少女は夢を見るか

家出少女は夢を見るか

作者 ねくしあ@カク甲参戦中!

https://kakuyomu.jp/works/16818093082817153308


 母と喧嘩して家を飛び出すと見知らぬ草原にいた未澪。牛を連れたコタイに助けられ、タルミカ村で厄介になるも、サンダルンに襲撃。コタイの妻と娘とともに逃げ、気がつくと自分の家に戻っていた話。


 誤字脱字等は気にしない。

 現代ファンタジー。

 ショートで、ファンタジーの行きて戻りし物語が上手く描かれている。出来が良い。


 三人称、未澪視点と神視点で書かれた文体。シンプルで読みやすい。


 男性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 未澪は母親との口論の末、家出を決意し、家を飛び出す。

 しかし、気がつくと見知らぬ大草原に立っていた。

 困惑する未澪は、牛とその飼い主であるコタイという男性に出会い、彼の村「タルミカ」に案内される。村での生活を始めるが、その夜、村がサンダルンに襲撃される。未澪はコタイのシナンと娘コーナと共に逃げ出し、気がつくと自宅の玄関に戻っていた。

 未澪は母親に抱きしめられ、生活の意味を再認識する。


 序破急の構造で書かれている。

 序は家出の決意と実行。

 破は見知らぬ大草原での困惑とコタイとの出会い。

 急は村での生活と襲撃、そして自宅への帰還。


 とある家での内乱の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。

 ありふれていながら興味のある書き出し。

 遠景でいつのことか、近景で、どこでなにが起きたのかを示し、心情で「――もういい! お母さんなんて知らない!」と叫ぶ。

 親子喧嘩かなと思わせる一幕。

 主人公は女子高生の未澪。どのような容姿なのかを描きながら、玄関のドアを乱暴に開け、動きから家出をしようとしている様子を描いている。

 予期せぬ不幸、子供のような行動など、親との喧嘩は読者層の十代の若者には共感を抱いていくだろう。

 

 長い文ではなく、数行で改行。句読点を用いて一文も短く、短文と長文を組み合わせてテンポよく書かれている。登場人物の性格を感じさせる会話文は多く、キャラクターの感情が伝わりやすい。文体はシンプルで読みやすい。描写が詳細で、読者が情景をイメージしやすい。

 ストーリー展開がスムーズで、引き込む力があるのが良い。

 五感を使った描写が豊富で、臨場感がある。視覚的刺激では、大草原の広がり、村の質素な家々、燃え盛る村の光景などが詳細に描かれている。聴覚は草をかき分ける音、牛の鳴き声、母親の叫び声、村の襲撃音などがリアルに表現されている。

 触覚は地面の草の感触、膝に食い込む小石の痛み、握手の温もりなどが具体的に描かれている。

 嗅覚や味覚が強調されているところはない。草原や村の匂い、独特な食事などで表現されれば、さらに五感が豊かに感じられただろう。

 短期間で行って戻る出来事は、夢だったのか、現実だったのかわからないようにするために、リアルさを抑えるべく、嗅覚や味覚の描写を抑えたのかもしれない。


 主人公の未澪の弱さは、感情的になりやすく、計画性がないこと。

 母親と喧嘩したのも、彼女の性格、弱さが原因と考えられる。

 また、突然の環境変化に対する適応力が低く困惑しやすいことや、地理が苦手で見知らぬ場所での対処が難しいことも、日頃の勉強不足や子供のような甘えた考えから来ているのかもしれない。

 言葉が通じたことが幸いした。

 通じなければ、おそらく路頭に迷っていただろう。

 

「数カ月ぶりに自己紹介の挨拶をした。しかしここまで好意的な反応を返されたのは初めてだった」とある。

 おそらく、家でも挨拶をろくにしていないのだろう。

 おはようございます、いってきます、いただきます、ごちそうさまでした、ごめんなさい、たすけてください、ありがとうございました、ただいま、おかえり、おやすみなさい。

 スマホの画面ばかり見ていて、リアルな人との接触が薄れているせいかもしれない。


 襲撃に際し、男が戦うのは紀元前の昔からの決まりみたいなもの。こうした物語の世界観にはリアリティーを感じていい。でも、村の文化や背景についての説明が増えると世界観がより深まっただろう。

 とはいえ、文字数に制限があるので書き込むのは難しい。制限字数内でよく書いている方だと思う。


 入ってといわれて中に入ると、主人公の自宅の玄関。

 母に抱きしめられて「生活とは、生きて活きること。それがどんなにつらくとも、常にそこにあるのだ」とするラストは、見事だと思う。

 下手に説明するのではなく、主人公の行動、動きで描く日常から非日常へと移り、そこでの日常を経て現実の安全な世界へ帰還。

 あの世界では生きること、守ることが目に見える形で、すぐそばにあった。

 現代の世界では見えにくくなっているだけで、同じように生かされていることに、主人公は気づけたのだ。


 生活とは、日々の営みや経験を通じて生きることを意味する。

一、基本的に必要なこと

 食事、住居、衣服など、日常生活に必要なものを確保すること。

二、社会的なつながり

 家族や友人、コミュニティとの関係を築き、支え合うこと。

三、仕事や学び

 生計を立てるための仕事や、自己成長のための学びを続けること。

四、楽しみや趣味

 趣味やレジャー活動を通じて、心の豊かさを追求すること。

五、挑戦と成長

 困難や課題に立ち向かい、それを乗り越えることで成長すること。


 生活は生存以上のものであり、経験や感情、関係性を通じて豊かに彩られるもの。

 そういう点においては、本作はまんべんなく捉えて、描けていたと考える。

 可愛い子には旅をさせよと昔から言われるけれども、経験にまさるものなし。未澪の成長と生活の意味を再認識する過程が見事に描かれた、実にいい作品だ。

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