ぬいぐるみ

ぬいぐるみ

作者 ゴローさん

https://kakuyomu.jp/works/16818093083274423224


 可愛い女子高生に取られて寝るときに抱きついてもらうことを夢見るぬいぐるみは、今日も自ら後あらでアームに持っていかれないよう頑張る話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあけるは気にしない。

 現代ファンタジー。

 面白くて楽しかった。


 一人称、ぬいぐるみ。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公のぬいぐるみは、ゲームセンターのクレーンゲームの中で日々奮闘している。彼の目標は、かわいい女子高生(JK)に取られて、夜寝るときに抱きついてもらうこと。

 クレーンゲームのアームに対して十連勝中であり、耳がもげてしまったのも彼の努力の証。彼は、一般客やカップルが挑戦するたびに、自らの力でアームに持っていかれないように頑張っている。

 さっきの親子連れの子供が、将来モデル級の超SS級美女になるなんて知ることもなかった。


 基本構造で書かれている。

 導入はぬいぐるみの状況と目標が紹介される。

 展開はぬいぐるみがクレーンゲームのアームに対して奮闘する様子が描かれる。

 クライマックスは親子連れに対して勝利する場面。

 結末はぬいぐるみの野望が再確認され、物語が締めくくられる。


 ぬいぐるみをどこで見るのかという謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。


 投げかけてくる書き出しが、興味を弾く。

 遠景で質問し、近景でいくつか例を出し、心情で、「ゲームセンターに置いてあるクレーンゲームの中にいるぬいぐるみのお話」と語ってはじまる。

 ナレーションのような、客観的状況の導入から始まり、興味を持っていく。

 高校生くらいのカップルが仲良くクレーンゲームを見ている。ほほえましいけれど、その様子を見ている主人公。

 耳がもげているぬいぐるみが主人公だとわかり、みんなが耳を狙って引っ掛けるからだという言葉から、可愛そうだなという気持ちが湧き、共感する。仲の良いカップルもまた羨ましく思うだろう。

 

 長い文ではなく、こまめに改行されている。長い一文のところがる。軽快でユーモラスな文体。ぬいぐるみなので主人公が動くことはないが、一人称視点で描かれており、彼の内面の声がリアルに伝わってくる。

 クレーンゲームの中のぬいぐるみというユニークな視点から物語が展開されているのが特徴で、努力や野望がコミカルに描かれているのがユーモラスで面白く、キャラクターが愛らしい。

 五感の描写では、視覚にクレーンゲームの中のぬいぐるみを見る高校生くらいのカップル、耳がもげている様子が描かれている。

 聴覚はカップルや家族の会話、アームの動きに対して、ぬいぐるみが声を発している描写がされている。触覚は、アームに持っていかれないように力を込める様子が描かれている。


 主人公の弱みは、クレーンゲームの中で取られないように頑張り続けることが、彼の目標達成を遅らせている点。

 また、彼の野望が特定の条件(かわいいJKに取られること)に依存しているため、なかなか目標が達成できない。

 小さな子供が、やがてJKになることを、ぬいぐるみだから想像できないのだろう。

 ぬいぐるみは、作られたときからぬいぐるみで、成長しないから。

 気付けないのは無理からぬことだろう。

 目標達成に向けた具体的なアクションや計画が描かれていると、さらに面白みが増すかもしれない。でも、ぬいぐるみは動かないから難しいだろう。

 耳を引っ掛けられて抵抗しているから、動くことはできるのかしらん。 

 他のぬいぐるみキャラクターとの交流が増えると、物語がより豊かになるかもしれない。自分と同じようなことを夢見ている他のぬいぐるみや、それを聞いて「アホらしい」とつぶやいて、子供はいずれ大きくなるから小さい子はJKになると教えれて、ショックを受けて、その後は、可愛い小さい女の子に媚びを売るようになるかもしれない。


 ユニークな視点とキャラクターが魅力的で、ぬいぐるみの努力や野望がコミカルに描かれていて読んでいて楽しかった。

 彼の夢が叶うのはいつのことだろう。その前に、耳がちぎれてしまわないことを願う。

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