チェイサー

チェイサー

作者 杏

https://kakuyomu.jp/works/16818093081363096155


 中学で一目惚れした彼女に高校三年で振られた幼馴染の友人からウイスキーを大量に飲んでアルコール中毒で死にたいと言われた主人公は、自分を「チェイサーにして生きた方が楽しくない?」と提案する話。


 現代ドラマ。

 オチが効いている。

 キャラクターの感情がよく描いた、引き込む力がある作品。

 面白い。


 主人公は、女子高校三年生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話の中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は友人(サッカー部のエース)とは幼馴染。家が正面で親同士の仲も良かったから、小学生の頃からいつも一緒に登校していた。友人が中学のとき、一目惚れして付き合ってきた彼女と付き合い始めた時のショックを隠すのに必死だった。

彼女と同じ高校に行きたいというこいつのために勉強を教えることもかなりあった。結局友人と彼女、そして主人公も同じ高校に進学した。

 終業式の日に友人と会話を交わすと、中学のときに一目惚れして付き合ってきた彼女に振られ、アルコール中毒で死にたいと冗談をいわれる。

 主人公は彼を慰めつつ、彼の振られた理由が自分とつるんでいるからだと感じた。彼女が主人公に対して複雑な感情を抱いているのは初めから理解していた。家は目の前だし、家族ぐるみで付き合いがある仲。恋人として優遇されているの彼女だったが、友人として勝っているのは主人公私だった。「なんでも言い合える女友達」という立場の私という存在が目障りだっただろうし、睨むような視線を向けられたことも何度もあった。それは主人公も同じだった。

 最終的に、主人公は友人に「ウイスキー大量に飲んで死ぬぐらいなら、私をチェイサーにして生きた方が楽しくない?」と提案する。


 基本構造で書かれている。

 導入は終業式の日、友人が振られたことを告白。

 展開は友人の感情の揺れ動きと、主人公の内面的な葛藤。

 結末は主人公が友人に「私をチェイサーにして生きた方が楽しくない?」と提案。続きが気になる。


 ウイスキーをがぶ飲みしてアルコール中毒で死にたい気分の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関係し、そのような結末に至るのか、ウイスキーの種類ともども気になる。スコッチですか、ジャパニーズウイスキー、それともアイリッシュかしらん。


 書き出しが、弱気なセリフから始まる。

 遠景で死にたい気分と語られ、近景では、どういう状況で言われたのかが描かれ、心情では、そのセリフを言われたときの感想が語られている。

 中学の時から五年付き合っていた彼女に振られたとあり、とても可哀想に思えてくる。

 そんな彼に対して「じゃあ未成年飲酒で刑務所かな」とボケを返せば、ツッコミの「綺麗なインサイドキックを脚に食らわせてくる」とあり、二人の関係性をうかがい知ることができる。

「こういうことしてるから振られたんじゃないの」

「黙れ、お前だけだよばーか」

 仲がいいことで。思わず笑ってしまう。

 こういうところから、共感して読んでいく。


 長い文ではなく、五行くらいで改行。句読点を用いて、一文も長くない。ときに口語的で、登場人物の性格や関係性がよく伝わる会話が自然にかわされ、動きで感情を示している。カジュアルで親しみやすく、会話が多く、テンポが良い。

 内面的な感情描写が豊富。キャラクターの感情がリアルに描かれており、ユーモアとシリアスのバランスも実にいい。面白い。

 五感の描写としては、視覚は照りつける太陽、ペットボトルのサイダー、友人の無愛想な表情。聴覚は会話のやり取り、インサイドキックの音。触覚はインサイドキックの痛み、サイダーの冷たさ。

味覚はウイスキーの強い味(想像)。

 嗅覚の描写はない。「食卓で食事をする時、両親がウイスキーをそのまま飲んでいるところは滅多に見ない。ハイボールにするとか、水割りするとか、バーに行ったらカクテルとかで出てくることもあるだろう」とあり、飲んでいるところを見ているため、ここで味覚や嗅覚の描写を追加すると、場面がイキイキするかもしれない。

 

 主人公の弱みは、友人に対する複雑な感情(友情と嫉妬)。友人の彼女に対する劣等感。自分の感情をうまく表現できないこと。

 ただ、わかりにいく行きもするので、 友人の彼女のキャラクターをもう少し掘り下げたり、主人公の内面的な葛藤をもう少し具体的に描いたりしてさらに深みを出すと、より共感を得やすくなるのではと想像する。

 主人公と友人の性別や関係性がわかるのは、三分の一ほど読み進んだ、「自覚してるのかしてないのか、こいつが振られた理由なんて、私とつるんでるからに決まっているだろう。付き合ってる男に自分以外の女と仲良くされて、嫌と思わない女がこの世に果たしているのだろうか。少なくとも私は嫌である」まで待たなくてはならない。もう少し早くわかると、共感しやすくなるのではと勝手に想像する。

 仲がいいからと言ってインサイドキックをしないで、といいたくなるのだけれども、幼馴染で友人の彼は、主人公である彼女のことが好きではなく、友達と思っているので、こうした扱いをするのだろう。

 

「驚きとショックを隠すのに必死だったことは今でも忘れない」とあるので、主人公としては小学生の頃から好きだったのだ。

 つかず離れず、互いに目障りと思いながら、結局彼女さんのほうが根負けしてしまったというところなのかしらん。

 

 チェイサーを知っているなんて、よほど親がお酒を飲むのだろう。

 強いお酒を飲むときに添える、水や軽い飲み物のこと。

 また、追跡者、猟師の意味もある。

「ウイスキー大量に飲んで死ぬぐらいなら、私をチェイサーにして生きた方が楽しくない?」と言う前から主人公は、友人と付き合っていた彼女からすれば、すでにチェイサーだったのだ。 

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