あの日・あの場所・あの時に。

あの日・あの場所・あの時に。

作者 如月 愁

https://kakuyomu.jp/works/16818093078780017346


 幸せを求めて日々をくり返しループしていた主人公は、「君」という存在に気づき、声をかけることでループが終わり、新しい日常を迎える話。


 文章の書き出しはひとマス下げる等は、気にしない。

 現代ファンタジー。

 絵本『百万回生きたねこ』が、ふと浮かぶ。


 主人公は、一年をくり返している人物。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 メロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は無限に繰り返される日々の中で、幸せを求めて何度も運命を変えようと試みる。しかし、運命を大きく変えることはできず、何度も同じ場所に戻される一年をくり返していた。

 主人公は自分の存在意義を見失い、何度も死を試みるが、結局は元の場所に戻される。最終的に、主人公は「君」という存在に気づき、その存在が自分を救う鍵であることを悟る。君に声をかけることでループが終わり、主人公は「君」と共に新しい日常を迎える。


 基本構造で書かれている。

 くり返しの日々。

 主人公の内面が段階的に変化。

 最後に希望が見える結末。


 あの日、あの場所、あの時間をくり返す謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わってくるのか、どんな結末に至るか気になる。

 書き出しはいい。

 遠景で、主人公があの日をくり返すと示し、近景で、あの場所、あの時間へと具体的に描き、心情で、その場所は主人公にとってどんな場所か、「幸せと思えるあの時」と語る。

 その後は、ループしていることが描かれる。

 くり返しから抜け出せない主人公に、時間という牢獄に囚われて可愛そうだと思い、共感を抱かせる。


 ループについての説明がされ、具体的に主人公が思う「幸せと思えるあの時」とはどういう時なのか描かれず、終わりのない日々について、主人公の苦悩が書かれていく。

 長い文ではなく、こまめに改行され、一文も短い。内省的で哲学的な文体。感情の起伏が少なく、淡々とした語り口。くり返しの表現が多く、主人公の絶望感や無力感が強調されている。

 くり返しの表現が効果的で、主人公の絶望感が伝わるし、主人公の内面の葛藤が丁寧に描かれているのがいい。

 最後に「君」という存在に気づくことで、希望が見える結末もよかった。

 五感の描写として、視覚は主人公が繰り返し戻る「あの場所」に「君」がいたことが描かれている。聴覚は主人公のため息、内面の声、セリフの描写がある。会話等の少なさから、静寂や孤独感が伝わる。映像的な五感の描写を増やすことで、読み手が場面や状況を想像しやすくなり、物語がもっとわかりやすく伝わるのではと考える。。


 主人公の弱みは、自分の存在意義を見失っていること。繰り返される日々に対する無力感。死を繰り返すことで、死に対する恐怖が薄れている。

 おそらく、ループする前は主体的に生きていなかったのだろう。

 受け身的ではじめから、自分がなにをしたいのか、どう生きたいのかを見失っていたのかもしれない。

 そんな主人公がループに陥った。

 毎回戻ってしまう始めの場所が、あの日あの場所あの時なのだろう。抜け出すためにいろいろ試すも、それらは主人公がやりたいことではなかった。だからループをくり返してしまったと考える。

「君」という存在に気付くのは、主人公はもちろん、読者も予想外で驚くことだった。

 ただ、視覚的にも描写が少ないので、主人公以外のキャラクター描写を増やせば想像しやすくなるだろうし、主人公の感情の起伏をもう少し描くことで、共感も得やすくする気がする。


 無限に繰り返される日々の中で、存在意義を見失った主人公の内面葛藤が描かれ、繰り返しの表現が強調されていて、絶望感が強く伝わってくるのはよかった。

 しかも最後に、「君」という存在に気づくことで、希望が見える結末。読後感は良かった。

 同じ思える毎日も、同じ一日は一度もない。ささいな変化のある今日を、たしかに一歩ずつ大切に生きていきたいものである。

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