未確認生物観察記録

未確認生物観察記録

作者 鶏=Chicken

https://kakuyomu.jp/works/16818093081466557941


 研究所近くに墜落した金属塊から未知の生物を白鍵保護する。保護した生物は地球から来た探査隊28であり、救助要請して助けを待っている話。


 SF。

 未知との遭遇。サスペンス要素がある。

 どんでん返しがよく出来ていて面白い。


 主人公は科学者。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 科学者である主人公は、研究所の近くで墜落した金属塊の中から未知の生物を発見し、保護する。生物は主人公の言語を理解せず、食事も取らないが、毒性のある果実を食べることで元気を取り戻す。

 生物は金属塊から持ち帰った小さな箱に話しかけるようになり、やがてその箱から声が聞こえるようになる。

 実は、保護した生物は地球から来た探査隊員28であり、身長三から四メートル、表皮は青、四本の腕を持ち、眼球は一つの知能を持ったヒト型生物が住む地球型惑星に漂着。銀河探索隊地球本部から救助を待っていることが明らかになる。


 三つの構造で書かれている。

 序盤は、生物の発見と保護。

 中盤は、生物とのコミュニケーションの試みと失敗、食事問題の解決。

 終盤は、生物の正体が明らかになり、救助を待つ展開。


 一日目からはじまる謎と、登場人物に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか気になる。

 

 書き出しが、一日目からはじまっている。

 遠景で日付、近景で生物を発見した出来事を描き、心情で「空から落ちてきたのか?」とつぶやく。

 突然おきた、未知との遭遇に、興味が湧き、共感していく。  主人公は研究所でうたた寝していたことから、科学者だと想像する。毒々しい色の体液を流出させた未知の生物が横たわっており、主人公は救出し、研究所で保護している。

 助けようとするところから、美徳を感じ、主人公に対してさらに共感を抱いていく。


「この生物は、我々とは全く違う外見をしている。おそらく直立二足歩行ではあるようだが、腕の本数は少なく、代わりに眼球は一つ多い。表皮も我々の肌のちょうど補色をしている。体長は私の半分程度で、三、四歳の子供と同じくらいだ」

 主人公は、直立歩行をしておらず、腕が多く、目の数が少なく、表皮の肌は補色、体長は倍、大人のように大きいことがわかる。

 この時点で、人間じゃないのだろうという予測がつく。

 

「毒々しい色の体液を流出させた未知の生物が横たわっていたのである」と表現されており、初見では青やら紫やらを読者に想像させ、有害な毒素を含む果実を無毒化する研究している主人公は、うっかり有害な果物を出したままにしていたが、生物は毒々しい色の果実を食べるなどが描かれ、そういう生物なんだと、主人公視点で感情移入していく。


 長い文で、十行くらいで改行している。一文は長すぎず、句読点を落ちいて読みやすくしている。タイトルにもあるように観察記録なので、それに適した文体、 日記形式で、一人称視点の語り口調で書かれている。

 科学者としての冷静な観察と、未知の生物に対する好奇心と責任感が強調されているのが特徴で、未知の生物との交流を通じて、主人公の成長や変化が描かれているのが良かった。

 生物の正体が明らかになるまでのサスペンスが効果的であり、最後には驚きと興奮を覚える。

 五感を使った詳細な描写により、物語に引き込んでいる。

 視覚では、金属塊や生物の外見、研究所の様子などが詳細に描写されている。聴覚はからの轟音、生物の声、箱からの音など。触覚は、生物の体液や頭を撫でる感触などが描写されている。

 味覚や嗅覚はない。

 生物が果実を食べるシーンの描写や、墜落した金属塊や体液の匂いなどで描写されるとより深まると考える。

 だが、主人公は人間ではないので、ひょっとすると、味覚や嗅覚が異なる、もしくは感じない可能性も考えられるため、表現されていないかもしれない。


 主人公の弱みは、言語の壁により生物とのコミュニケーションが取れないこと。

 だから、生物の食事や健康状態に対する理解不足。生物を保護するための適切な方法を見つけるのに苦労している。

 いくら研究者とはいえ、まずは自分たちの身近にあるものから試していくのはセオリー。言語がわからないからジェスチャーを用いても、共通する概念を見つけるまでは苦労するのは仕方ない。

 本作は、観察記録の体をとっているせいか、生物の感情や反応について、くわしい描写が足らない。主人公にとっては、自分たちと異なる生物の表情を読み取るのが難しいからだと考える。

 たとえば、私達がアリの表情を見て、嬉しいのか楽しいのか、怒っているのか悲しんでいるのかを読み取れるかと言われれば、まず無理。なので、どうしても深く表情を描写することが出来ないだろう。

 だけどかわりに、主人公の内面的な葛藤や感情の変化をもう少し掘り下げれば、お話として深みが増すだろう。しかし、観察記録は客観的視点が重要になるため、描きにくいのも仕方ない。

 保護されて観察していた主人公が、じつはヒト型生物の宇宙人で、保護された側が人間だったというラストに明かされる展開が、驚きと興奮を覚えて、よかった。

 良かったのだけれども、記録が途絶えているということは、救助に来た人間が、主人公を殺してしまったのかもしれない。


 異なる生物がわかりあえず、一方が殺されてしまう。しかも助けようとしていたのに。読後はなんだか悲しく、いたたまれない気持ちになった。きっと、保護された生物、人間側は、あと三日で自分が食べられてしまうのではと勘違いしたのかもしれない。

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