その一等星の遠さを私は知っている
その一等星の遠さを私は知っている
作者 柑月渚乃
https://kakuyomu.jp/works/16818093076768974608
ダイヤと称される凛の演奏を皆はダイヤと称すが、一等星のように遠く輝く存在でありながら普通の少女。それでいて、追いかけても届かない遠さがあることも知っている彩音の話。
誤字脱字等は気にしない。
現代ドラマ。
凛の特別さと彼女への思いを抱きながら、二人の関係と成長が描かれている。
主人公は、彩音。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている
主人公の彩音と凛は音楽部の仲間であり、クラリネットの演奏を通じて深い絆を築いている。凛はその美しさと才能から「ダイヤ」と称されるが、彩音は彼女の本当の姿を知っている。
アンサンブルコンテストの日。彩音と凛は素晴らしい演奏を披露し、観客から大きな拍手を受ける。凛の音楽は完璧であり、誰もが彼女に憧れるが、彩音だけは彼女の本当の価値を理解している。
凛の才能に嫉妬しつつも、彩音は彼女の背中を追いかけ続ける。凛は特別な存在であり、その音楽は周囲を魅了するが、その内面はシンプルで普通の少女であることを彩音は知っている。
凛はダイヤではなく、一等星のように遠く輝く存在であり、その輝きの奥底を彩音は理解している。凛の特別さと彼女への思いを描きながら進行し、二人の関係性や成長が描かれていく。
基本的な構成がされている。
導入では、彩音と凛の関係性の紹介。凛のクラリネット演奏の美しさと特別さの描写。
展開前半はアンサンブルコンテストでの演奏シーン、観客からの拍手と凛の照れた笑顔。展開後半は凛の特別さと彩音の嫉妬心、凛の才能とその内面のシンプルさの対比。
クライマックスの転換では、凛の即興演奏とその美しさ、彩音の凛に対する複雑な感情。
結論では、凛の特別さの再確認、彩音の凛への理解とその遠さの認識。
彩音と凛の関係性や感情の変化を中心に進み、凛の特別さとその本質を描いている。
ダイヤの原石どころかダイヤそのものの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。
実に、意味深な書き出し。
遠景で、「彼女は、ダイヤの原石どころかダイヤそのもの」と喩えられていることを示し、近景では、誰が、どこで、どのようなクラリネットの演奏をしているのかを描き、心情ではその演奏の感想を語っている。
誰もが望むような資質ある存在である凛を間近に感じる主人公、周囲は称賛し、凛を特別に感じている。この時点では主人公も凛と同じように称賛されている。
読み手は主人公にカリスマ的な存在と美徳さを感じ、共感していく。読み進めていくと、主人公も周囲の人達と同じように輪に対して嫉妬を抱いているのがわかってくる。
「ああはなれない」「彼女は本当に凄い」「思えば、私も昔からずっと、彼女にあてられている」
努力しても追いつけない自覚があり、読み手には可哀想、つらそうだという想いも重なって共感していく。
そこに現れる、先輩である凛の、普通の少女の一面。
「ふふっ、ちょっと吹きたくて」
情景とともに微笑む凛。
この場面では演奏している描写も、どんな曲が流れているのかといったことも書かれていない。だけれども、話の流れから、凛が演奏しているのが感じられる。
しかも「まだ青さの残る夕暮れの空」「当たり前のように教室の机に腰掛けている」情景を前に、「音楽室でアンサンブルやってるから、静かに」「ごめん」と言葉をかわすことで、言葉が弾んでいるのも感じ、このとき感じた主人公感情が、読者の共感となって響いてくる。
凛の普通さ、それでいて特別な存在。
主人公が抱いている彼女への嫉妬や、畏敬の念も、読者に伝わってくる。
長い文でなく、三行くらいで改行している。句読点を用いて一文は長くない。
凛を「ダイヤ」や「一等星」に例える比喩が、効果的に彼女の特別さを強調している。
また、特別さを強調するために彼女の演奏や声に比喩や対比が多用され、繊細で詩的な文体も特徴的。感情や風景の描写が豊かに描かれていて、強い印象を与えている。
彩音の感情や凛に対する思いが非常に丁寧に描かれているのが本作の良さで、読者に共感を呼び起こしている。
五感の描写では、視覚や聴覚の描写が豊富で、物語の世界に引き込んでいる。
視覚では、凛の演奏する姿や夕暮れの空、音楽室の様子など。聴覚では、クラリネットの透き通った音色や拍手の音、天使の歌声のような響きなどが印象的。触覚では、彩音が凛の存在を肌で感じる描写がある。
視覚や聴覚の描写は豊富だが、嗅覚や味覚の描写はとくにない。追加することで、さらに五感に訴える文章になると考える。演奏の表現で使うと、彼女の凄さがさらに引き立つかもしれない。
主人公の彩音の弱みは、凛の才能に対する嫉妬や、自分が彼女に追いつけないという劣等感を抱えていること。
また、凛の特別さを理解しつつも、周囲が彼女を正しく評価していないことに苛立ちを感じている。
根底に嫉妬があるから、いろいろなことに苛立ちを感じてしまうのだろう。
凛とずっと隣、一緒にいて、彼女の凄さも本当の部分も知っていて、それでも追いつけない。
それでも一緒にいる。
主人公の気持ちは凄い伝わってくる。
ただ主人公から見た、周りの人たちの反応だけが描かれているので、本当に他の人達は凛のことを理解していないのかはわからない。周りの子達は実際にわかっていないと感じられる具体的なエピソードや場面、他のキャラクターの存在感をもう少し強調すると、物語に深みが増すかもしれない。
感情豊かで繊細な描写が魅力的。凛の特別さと彩音の内面の葛藤が丁寧に描かれている。これは、凄い出来だと思う。
読後タイトルを読みなおして、「その一等星の遠さを私は知っている」彩音は、今後どうするのかしらん。
そもそも、中学生か高校生か大学生か、そういうことはわからないけれども、凛は先輩なので、いずれは卒業するかもしれない。
いつまでも、凛の隣で一緒に演奏し続けることはできないことを知っているはず。
凛がいなくなったあと、主人公はどうするのかがあると、変わってくるかもしれない。でも、アンサンブルコンテストの日の一場面を切り取ったような本作としては、いい出来だと思った。
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