偽善勇者の後日譚

偽善勇者の後日譚

作者 ラ主

https://kakuyomu.jp/works/16818093081169448706


 魔王を倒し、国中から称賛された勇者と聖女は、魔族の被害にあったアボルアを再建し、信じ合えた仲間との絆とともに、困っている人達を助ける旅をしていく後日譚。


 文書の書出しはひとマス下げる等は気にしない

 ファンタジー。

 主人公の成長と仲間との絆がテーマで、感情移入しやすい。


 主人公は、勇者の称号を受け取ったルキ。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 女性神話とメロドラマと同じ中心軌道に沿って書かれている。

 主人公の月には大切に妹がいる。国に妹が人質に取られ、強制的に「勇者」の称号を受け取り、魔王を倒す旅に四人で出る。が、二人は途中で逃げ出してしまう。ルミも、本心でなりたかった訳では無いが聖女の称号を受け取り、共に旅を続ける。

 魔王を倒した後、二人は自由を求めて逃げ出し、荒廃したアボルアの街にたどり着く。血の繋がっていない妹はアボルア出身。魔族に責められる前の街に戻して欲しいとの願いを元に、復興することを決意する。

 お世話になっていたギルド嬢の小人族レアが仕事をやめて街を再建に加わる。アボルアは昔、小人族と共存していたらしい。

 アボルアはいろんな人が復活を望んでいる。

 頼れる仲間の協力で、二週間後には町が復活。かつてアボルアに住んでいた人達や、妹も呼び寄せ、住民たちの称賛を受ける。

 ルキは本当の人助けの意味を見つけ、仲間との絆を深めながら各地を転々とし、「神出鬼没の勇者団」と呼ばれながら新たな旅に出るのだった。


 三つの構造で書かれている。

 序盤、勇者としての苦悩とミルとの出会い。

 中盤、アボルアの街の復興。

 終盤、新たな旅の始まりと仲間との絆の確認。

 割合は一対二対一で書かれている。


 数年前に勇者の総合を受け取った謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どのような結末に至るのか気になる。


 魅力的なタイトル。フリーレンがふと脳裏をかすめる。どんな話なのか、非常に興味が湧く。

 書き出しの導入は、客観的状況を描いている。

 遠景で、数年前「勇者」という称号を受け取ったこと、近景で、称号について語り、心情で、「でもこんなもの、俺は欲しくなかった」と語る。

 

 勇者である主人公。素質はあったけれども、勇敢ではなく、モンスターを怖がっており、「偽善勇者」と呼んだほうがいいと自分で卑下するほど。それでいて、「休憩もほとんどなく、この世界を暗くしている魔王を倒すまで、ずっと働き詰めだった」とつらい状況から、可愛そうだなと思えて、共感していく。

 それでも、ミルという仲間がいること。心の支えになっていて、良かったなと思える。それでも、はじめ四人いたけど二人は「あるものすべて奪ってどこかへ飛んでしまった」と、これでもかというほど、可哀想な状況が続く。

 そんな主人公には、大切な妹がいる。人間味を感じるのだけれども、「国の奴らは俺が妹を大切にしているのを知っておいて、俺が逃げ出さないように妹を人質として取ったのだ」人質を取られているのだ。

 国側も、それだけ魔王を脅威に思い、恐れていたからこそ、仲間二人が逃げ出すみたいに、臆病な勇者も逃げ出すのではと思っての処置だったと考えられる。とはいえ、される側としては、溜まったものではない。

 しかも仲間のミルも、勇者と似たような状況らしい。くわしくは語られていないのでわからないけれども。

 そんな二人が魔王を倒した後、逃げている後日談として、ようやく物語がはじまる。

 ここまでで、読者は主人公たちに共感できているだろう。


 長い文にせず、句読点を用いて一文は短くしている。ときに口語的、途中にキャラクターの性格がわかる会話を多く挟み、読みやすくしている。キャラクター同士の関係もよくわかる。とくに、勇者や聖女の称号に対する批判的な視点が新鮮。本作の特色と言ってもいい。主人公以外のキャラクターの背景や内面を、もう少し詳しく描くと、物語に深みが増すかもしれない。

 主人公の一人称視点で語られているため、内面が深く描かれている。愚痴や本音が多く、リアルな感情が伝わってくる。

 五感の描写では、視覚的刺激は、荒廃したアボルアの街、瓦礫、復興後の自然豊かな街並み。聴覚はミルやレアとの会話、街の住民の歓声。触覚は瓦礫を片付ける感触、建物を建てる作業。嗅覚**: 街中の悪い魔力の匂い、浄化後の新鮮な空気が描かれいる。

 さらに描写を増やせば、物語に没入しやすくなるかもしれない。 

 主人公の弱みは、勇者としての自信のなさ。

 そもそも、臆病だった。

 怖いから、やりたくないのに押し付けられ、しかも妹を人質に取られたことでの精神的な苦痛まで受け、仲間に裏切られた経験からの人間不信にもなっただろう。

 対の存在でもあるミルも、同様だろう。

 だから、互いに支え合って魔王を倒したあとは逃げたのだ。

 逃げた先で思い出す、出身だった大切な妹の言葉を。

 妹の願いを叶えるためにはじめていく。

 レアが登場したとき、幼少期に「勇者が嫌で、何度も脱走しようとしたことがある。それは幼い頃だったから、我慢することができなかった。だけど、何回も連れ戻され、『みんなに期待されている。決して裏切ってはならない』と言いつけられていた」と回想され、「もう連れ戻されるのは嫌だ」とある。

 相当、トラウマになっているのだろう。


「俺がここに来た理由は、のんびり『勇者という身分を捨てて』暮らしたいからだ」とある。これまでの主人公の性格や過去の行動、直面する問題や葛藤から、主人公の気持ちや行動は予測がつく。

 ギルドをやめたレアもまた、出身であり、以前のおだやかな街になることを望んでいる。「彼女は小人族の中でも建築に秀でていて、ものの数時間で豪華な新居ができた」そして彼女も、復興に手伝ってくれる。 

「なんて俺はお人よしなんだろう、と思った一日だった」とあるとうに、命令されてこき使われ、嫌になって逃げてきた主人公の行動からは想像できない展開に、主人公自身が驚いているに違いない。

 共感して呼んできた読者も、物語に感情移入して、お人好しだけどそんな主人公のことが好きになっていくと思う。


 主人公もミルも、素質があったからと勇者や聖女として称号を与えられ、人質を取られてまで戦われてきた。

 魔族に攻められてアボルアは、妹やレア達にとって古郷。つらい思いの象徴になっていた。

 みんなの思いや願いを叶えるために、物理的に復興することで、多くの人たちに喜ばれた。同時に虐げられてきた主人公たちの心も、精神的に復興することができただろう。 

 主人公の成長と、仲間との絆が強く書かれているところがいい。


 ただ、街の復興が急ぎ足に感じなくもない。もう少し丁寧に描いてもいいのではと思った。

 読んでいるとき、パウロ・コエーリョの『第五の山』が浮かんだ。

 紀元前九世紀のイスラエル。指物師をしていたエリヤが天使の声を聞き、預言者としてアクバルの街を復興させていく再建の物語。

 町の再建をすることで、人生の再建もしていく。

 その中に、次のようなことが書かれている。

「誰でも産まれたときにつけられた名前を持っている。しかし、自分の人生に意味を与えるためには、自分で選んだ名前をつけることを学ばなければいけないのだ」

 主人公は生まれ持っての素質があるからと「勇者」という称号、つまり名前をもらった。臆病者な自分は「偽善勇者」と呼んだほうがいいのではないかと思いこんで、その名で魔王を倒すまで働いてきた。

 アボルアの復興に際し、レミに「俺はもう勇者として生きたくない。だから、ルキとして扱ってほしい」と語っているように、これまでの名前を捨てたのだ。

 復興を終えて、各地を転々としては助けに回る生き方を選んでからは、「神出鬼没の勇者団」と呼ばれている。

 今年は地震や大雨などの災害が多く、復興が求められている。街の復興は形が整うことで進んでいるように見えるかもしれない。

 そうなのだけれども、一人ひとりの心や人生の復興の方が大切なのではないのかという想いが作者にあったから、街の復興よりも、主人公の心の復興に重きをおいたのかもしれない。

 

 読後、いい後日談だと思った。これからは「神出鬼没の勇者団」の物語がはじまるのだ。


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