笑って流せるならそれがいい。
笑って流せるならそれがいい。
作者 せにな
https://kakuyomu.jp/works/16818093078125731294
書籍化を夢見てwebサイトに小説を登校してきた主人公は、友人が書籍化をして、成功を喜びつつも、執筆を辞める決意をする話。
現代ドラマ。
作家になりたい主人公の葛藤や感情の揺れ動きがよく描かれている。作家になりたいと思う人は、共感するにちがいない。
主人公は男子高校生。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公の男子学生は、小説を書くことが好きだった。とあるWebサイトに小説を投稿して1年半が経つが、未だ受賞できずも書籍化を夢見ている。よくラブコメを書いた。一つの作品が第二次選考を突破したときは喜んだものだった。
ある日、友人がわざわざ家に来て、「書籍化した!」と知らせてきた。
主人公は友人が書籍化したことを知り、複雑な感情に揺れる。自分がきっかけで執筆を始めた友人が成功し、自分はまだ夢を追い続けている。友人の成功を喜びつつも、自分の未熟さや限界を痛感し、執筆をやめる決意をする。
友人から書籍化を伝えられた謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか、気になる。
実にインパクトのある書き出しである。
読者層の十代の若者、およびカクヨムユーザーの読者の多くが気にする文言からはじまっているため、これだけで共感を抱く。
そんな遠景の後、近景で友達の言葉だとわかり、心情では「わざわざ俺の家に来て」とつけて、直接知らせ、しかも「大賞という文字の下にあるペンネームを指さしながら」と具体的に書かれている。
友人にしたら、それだけ嬉しかったからだし、主人公のことを友達と思い、友人からいろいろな話を聞けたから獲得したから、それだけ感謝していることを行動で表しているのだろう。
でも、主人公は夢破れた。
しかも、これまで一年半も小説を書いては出して落選を経験してきたのに、友人は処女作で大賞を受賞、書籍化。腹が立つやら悲しいやら、友達だから嬉しいし、良かったねというけれども、実に複雑な心境に陥っていて、可哀想としか言いようがない。哀れみではないけれども、共感を抱いてしまう。
長い文ではなく、改行をこまめにし、一文も短い。内省的で感情豊かな文体。動きや体感による主人公の心情が細かく描写されている。自然描写や五感の描写が豊かで、情景を鮮明に伝える力があるところがいい。
五感を使った描写が豊かで、情景が鮮明に伝わる。視覚では芝生が広がる丘、輝く望月、揺れる月影などの自然描写が豊か。触覚は、芝生のチクチク感、指に溜まる土、夜風の冷たさなどが具体的に描かれている。聴覚は友人の明るい声、キーボードを叩く音などが描写されている。
主人公の弱みは、自分の未熟さや限界を痛感し、友人の成功に嫉妬すること。
負けず嫌いであり、本気で取り組んできたからこそ、受賞できず友人が作家になる現実には、素直におめでとうと言えない。
そんな体験や思いをしたことがある読者にとって、共通点となりうるだろう。
努力してきたのに、あとから来た子に攫われる。
頑張る兄と、要領の良い弟の関係に似ているかもしれない。
だから悔しい。作家になりたい。俯瞰する癖が嫌になり、自分の作品に自信が持てず、執筆をやめる決意をする。
主人公にも夢があった。
受賞して、「胸張って、本を見せびらかしながら笑顔を撒き散らしたい」「父さんにサイン本をあげたらどんな顔をするだろうか。自分の本を読んでいる友達に名乗り出たらどんな言葉が聞けるだろうか。そんな淡い夢を見続けていた」
でも、もう無理そうだと、想像力や表現力に対する劣等感を抱いてしまい、「――小説を書くの、やめよ」と受け入れてしまうのだ。
本作では場面がよく変わる。
友人が家に来た後、芝生の丘に寝転がり、回想をする。寝転がっている現在と、回想を交互にいったりきたりしながら回想が進み、自分と友人の作品を比較しながら、自分の悪いところを見直して、圧倒的な想像力で書いた友人。誰も書かない、思いつかないような物語を書いたこと。『ね!今度貰った賞金で焼肉行こうよ!』といわれ、頷きはしたが生きたくないこと。口ではおめでとうといってもくやしかったこと。嫉妬だとわかっていても。
夢があった。だが、それお無理そうだと思い、諦めてしまう。
主人公がどのように努力し、成長や変化をしてきたのか、もう少し具体的に描くと物語に深みが増したのではと考える。友人との対話やエピソードも、フラッシュバッグみたいに差し込むだけでなく、もう少し増やせば、友人とはどういう関係性なのかが、がよりはきりしてくる気がする。
読後、タイトルを見て考える。もしお話なら、ここからが面白くなる展開だろう。
三幕八場なら、一幕一羽の状況の説明、はじまりの部分に過ぎない。主人公の友人が受賞し書籍化することを知り、ショックを受けて執筆を辞めたところにすぎない。ここから、主人公は目的を持ち、最初の課題、重い課題を経て、状況の再整備と転換点を踏まえて最大の課題へと挑んでいく。一番の障壁を乗り越えても、最後の課題が待っている。はたして、主人公は求めているものを手に入れることができるのだろうか。
指についた土が消えたとき、主人公はどんな笑顔をしているだろう。彼の本気はここからだ。
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