2者面談

2者面談

作者 あまがさ

https://kakuyomu.jp/works/16818093076622745464


 昨年転任し春から二年生の担任を受け持つ主人公は妻と離婚した。不登校気味の女子生徒と二者面談をした翌日から、彼女が学校に来なくなる話。


 文章の書き出しはひとマス下げるは気にしない。

 現代ドラマ。

 感情の機微が丁寧に描かれていて、素晴らしい


 主人公は、二年生の担任を持った教師。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 昨年転任した主人公は、妻と別れた。新学期が始まり、二年生の担任となった主人公は、二者面談期間に入る。

 ある日、昨年度不登校気味だった生徒との面談が予定されていたが、彼女は現れない。主人公は彼女を探し、屋上で見つける。彼女はタバコを吸いながら、家庭環境の複雑さや自分の悩みをほのめかす。主人公は彼女の心情を察しつつも、「左手の薬指にあった指輪、今ないんですね」痛いとこをつかれる。頭が良くて頭の悪いくそがきがと思うと、彼女は面談を終わらせ、屋上をでていく。噎せるような咳が聞こえた。翌日から、彼女は学校に来なくなった。


 二年生の担任を持った謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るのか気になる。

 飾らないながらも印象のある書き出しがいい。

 遠景で、「今年は二年生の担任をもった」と示し、近景ではかび臭い教室に少しの緊張が包まれている様子を描き、心情で主人公の感想を語り、新学期の光景だとわかる。

 場面が代わり、他の教師との会話。おそらく職員室だろう。

 主人公は教師で、クラスに不登校気味の子がいる。生徒の名前もおぼえがないし、女性教師に対して敵意のような反感を抱いているのを感じる。無関心な感じ、裏切られたり、つらいことがあったりしたのかもしれない。そんなところに共感をもつ。


 シンプルでありながら、細やかな描写が多い。句読点を用いて、一文は短く書かれている。

 意図的に長い一文は二つ。「彼女はそうですかじゃあ帰りますとぴったり定時で上がっていった」「彼女は二者面談はこれでいいですさよならと僕に告げてすたすたと帰ってしまった」共通するのは、女性が主人公に対して関心をなくして去っていく場面。彼女たちの心情や、その様子を見ている主人公の気持ちも伝わってくるような表現は上手い。

 登場人物の性格や関係性が感じられる自然な会話が多く、登場人物の心情や関係性が浮き彫りになって書かれている。また、主人公の内面の葛藤が描かれている。

 五感を使った描写が豊富で、読者が情景をイメージしやすいのが特徴。視覚的な刺激では、桜が散った後の景色、屋上からの濁った景色、彼女の髪の毛を耳に掛ける仕草などが描写されている。

 聴覚では教室の静けさ、換気扇の音、彼女の咳など。嗅覚ではカビ臭い教室、タバコの副流煙の匂い。触覚では、冷めたコーヒーの感触が描写されている。味覚の描写はないが、タバコの味についての会話がある。


 主人公の弱みは、生徒の心情を完全に理解しきれないこと。生徒との距離感をうまく取れないこと。 自分の過去(結婚指輪の話)に触れられると動揺すること。

 おそらく、離婚したのだろう。

 精神的ショック、ストレスから、周囲のことに関心を持てなくなっている。自分のクラスの生徒の名前を思い出せないことや、生徒や教師との関係をうまく作れず距離を置くこと、とくに女性に対して。

 離婚をきっかけに、世の女性に対して敵意のようなものを抱いてしまっているのだろう。


 女子生徒に薬指の指輪について聞かれる展開は、予想外。だから女性に対して棘のある態度や思考をしていたのかと、驚きながら納得する。

 転任だから、季節の途中でやってきたのだろう。そのことで妻と揉めて、離婚に至ったと想像する。たとえば前の学校で浮腫おじを起こして、よその県へ転任せざるえなかった。が、妻は引っ越したくないし、そんな夫に愛想を尽かして別れを切り出されたのかしらん。「どうせこの女も財布を出す素振りもしないだろ」とあるので、離婚の慰謝料を取られて機嫌が悪かったのだろう。

 主人公の過去について、もう少し詳しく書かれていると深みが増すかもしれない。女子生徒に関しても家庭環境について、もう少し具体的な情報を知りたい。

 彼女としてはお母さんは好きだけれどお、お母さんは娘を好きとは限らない。たとえば、父親は暴力を振るい、母親は娘を助けてくれない。自殺する勇気がないから、タバコを吸い、学校を休むようになって、街をさまよっていくのかもしれない。


 現実にある出来事を切り取ったような、実に上手い作品。

 子供の何気ないサインに気付けない主人公が担任になったのが不幸だったのだろう。前任の女子教師だったなら、彼女を救えたのではと考えてしまう。。

 ただ、女性教師も、自分とはもう関係ないから、という雰囲気を感じる。高校なら義務教育ではないので、うなづけてしまう。みんな、自分のことばかりで、他人に関わる余裕がないのかもしれない。

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