時間巻き戻しボタン

時間巻き戻しボタン

作者 もかの@NIT所属

https://kakuyomu.jp/works/16818093079049074332


 自殺しようとしていた青年が時間巻き戻しボタンを押して高校時代に戻り、充実な日々を送るも自殺してしまったため、成功発表されていた時間巻き戻しボタンの失敗がニュースで報じられる話。


 ホラー要素のあるSF。

 感情描写が豊かで引き込まれ、展開が衝撃的。


 三人称、青年視点と神視点で書かれた文体。シンプルで直接的な文体。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 青年はゴミの中で「時間巻き戻しボタン」を見つけ、そのボタンを押すことで過去に戻ることができると知る。

 彼は高校時代に戻り、友達を作り、充実した日々を送るが、最終的には教室で死んでしまう。その後、白衣を着た三人がボタンと紙切れを回収し、ニュースでは舞里大学で三名の学者が成功を発表した時間巻き戻しボタンの失敗が報じられる。


 ボタンがあった謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるか気になる。

 書き出しが興味をそそる。

 遠景でボタンがあったと示し、場所と、どんなボタンかを描き、近景では、ペットボトルをどかしてボタンの元へ行く様子を描き、心情で、伸ばしっぱなしの髪を適当にどかしつつ、そのボタンを取る。

 時間巻き戻しボタンを手に入れるという、特別な状況に興味を抱く。

「高校で人生を失った青年」「首に巻きつけてあったロープを外し」から生きる希望もなく死を選ぼうとしていたのがわかる。可愛そうに思えるところからも共感していく。


 長い文ではなく、改行をこまめにしている。一文も長くない。句読点を用いて、短文と長文を組み合わせてテンポよくしている。青年の内面の変化や感情が丁寧に描かれ、日常的な描写と非日常的な要素が混在している。

 青年の感情の変化がリアルに描かれているところや、結末の意外性が強く、読後感が残るのも本作の良さだろう。

 五感の描写では、視覚的な刺激はゴミの中のボタン、夕日に照らされたペットボトル、風で舞う紙切れ。触覚はペットボトルを手でどかす感触、ボタンを取る感触。聴覚はガチャンという音、テレビの音が描かれている。


 主人公の弱みは、高校で人生を失った過去のトラウマ。孤独感と絶望感。人生をやり直せると思って戻り、「遊びに勉学に交友と、以前は出来なかったことに全力を尽くした。過去の高校生活を含めて、初めての友達もできた」と、前向きに行動をしていく。

 それでも、自殺する展開は衝撃的で、驚かされる。

「青年の高校生活も充実していた。青年が発言すれば、クラスメイトが笑う。机には、毎日変わった絵を描いてくれる。体操着にも、だ」

 おそらく、いじめにあっていたのだろう。

 どちらにも受け取れる書き方なので、読み手に錯覚させる表現としては、さりげなくて上手い。

「青年は人と関われて、毎日楽しい日々を送っていた。日を増すごとにどんどんそのつながりは強まり──そうして青年は教室で死んだ」エスカレートしていき、青年は自殺したのだ。


 青年の母校は舞里高校であり、二年生に戻っている。高校で失敗したのは、二年生のときだったのだろう。

 舞里大学の三人の学者は、青年とは同級生で、引きこもりのような状況になっているのを憂い、時間巻き戻しボタンを開発したのだろうか。

 青年を助けるためにボタンを試したが、結局はいじめは起きてしまい、絶望して教室で自殺したのかしらん。

 青年の過去背景がもう少し描かれると、彼の行動や感情にもっと共感できたかもしれない。

 時間巻き戻しボタンの見た目や仕組みについての説明が、もう少し描かれていると理解が深まった気もする。ボタンといっても、ポチッと押すボタンもあれば、服を止めるボタンもある。


 素直に読めばおそらく、青年は過去に戻って高校生活をやり直したが、過去に戻ってのやり直しでは根本的な問題解決にならなかったのだろう。

 彼の孤独や絶望感は、時間を巻き戻しても変わらなかったのかもしれない。

「成功事例もあった」とされていることから、他の被験者は時間を巻き戻しても自殺に至らず、ある程度の満足を得たのだろう。

 つまり、三名の学者たちは実験の一環として効果を観察するために青年にボタンを渡したのであり、検証するために多くの被験者にボタンを渡していたに違いない。

 青年の孤独や絶望感は、家庭環境に問題があったのかもしれない。

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