花と手紙

花と手紙

作者 ナナシリア

https://kakuyomu.jp/works/16818093081399565173


 少年の誕生日プレゼントを用意していた少女。受け取って喜ぶ少年は未来の二人の住処である家へと案内する話。


 現代ドラマ。

 感情豊かで読みやすい作品。


 三人称で、少女、少年、神視点で書かれた文体。 シンプルで読みやすく、ストーリーがスムーズに進む。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 少年の家を訪ねる日は彼の誕生日。青空の下、少女が少年の誕生日を祝うために花束と手紙を用意し、待ち合わせの場所に待っている。少年が急いで待ち合わせ場所に来る。「ごめん、待った?」「大丈夫。今来たところ」誕生日のプレゼントを用意していたことを嬉しく思い、受け取って喜ぶ。二人はお互いを尊重し合い、理想的なカップルとして描かれ、のちに二人が暮らすことになる少年の家に着くのだった。


 青く澄み渡った空の下で花束を抱えている謎と、少年におこる出来事の謎がどう関わり、どんな結末になるのか気になる。

 冒頭の導入部分、書き出しは、客観的状況からはじまっている。

 遠景で、「青く澄み渡った空」を、空の下へと向けさせて近景で「花束を抱える」様子を見せ、心情で「濡れた顔を手で拭う」動作を示し。理由として、「熱のように暑い夏の下」にいるからだが、「暑い夏の下でも、苦にならない」と人物の内面が描かれる。

 炎天下の夏空の下にいても苦にならないとはどうしてなのだろう。

 疑問を抱くとともに共感すると、


「ごめん、待った?」

 息を切らして走り寄る少年に、花束を抱えながら少女は首を振る。

「大丈夫。今来たところ」


 待ち合わせをしていたのだとわかる。

 冒頭は、少女視点で書かれているので、青く澄み渡った空の下で花束を抱えている状況は絵になるようで、興味を引く。暑い夏空の下で待っているなんてかわいそうと思わせ、少年が走ってやってきて「待った?」「ううん、いま来たとこ」のやり取りをみて、恋人同士なのかなと羨ましくも微笑ましく感じることで共感を抱く。


 誕生日を気にし、プレゼントを用意し、贈ってくれたこと、すべてに喜ぶ辺りから、少年視点に移っていく。


 長い文にせず改行し、一文も句読点を用いて、シンプルで読みやすい。会話が多く、キャラクターの感情が丁寧に描かれており、伝わりやすい。

 五感の描写が豊かで、情景が目に浮かぶような表現が多い。視覚では、青く澄み渡った空や淡い黄色に柄入りの洋封筒など。触覚は濡れた顔を手で拭う、花束を抱えるなど。聴覚は、少年の息を切らして走り寄る音を感じさせる。


 主人公の弱みでは、少年は、自分の誕生日を気にしてくれることに対する感動と喜び。少女は、花束が迷惑かもしれないという不安。

 喜びが大きいからこそ、少年は彼女の誕生日は喜ばれるものを用意しなければと思う。少女は花束が迷惑かもしれないと思っていたから、手紙も用意していたのだろう。

 互いに気を使っている、あるいは互いを大切に思っている、二人の距離などが感じられるところが良くて、面白いドラマに発展していくのを感じさせてくれている。


 全体的に、まだ客観的に状況を描いている印象。これが物語の本編がはじまる、その導入部分という感じなので、少年と少女の背景や関係性、少年と少女の内面の葛藤や成長をもう少し描くことで、キャラクターやストーリーに深みが増していくのではと考える。


 タイトルを読みながら、彼女の手紙にはなんと書いてあったのだろうと気になった。黄色が好きなのかしらん。寂しがり屋かもしれない。二人の今後は、少年にかかっている、そんな気がした。

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