ある草の話

ある草の話

作者 有耶/Uya

https://kakuyomu.jp/works/16818093081347047225


 土から芽を出し、その世界でさまざまな試練を経験し、枯れてしまうが、再び芽を出す希望を持つ話。


 現代ファンタジー。

 草の擬人化。

 草の視点から描いたユニークな物語。

 五感を使った描写や感情の表現がいい。

 

 主人公は、草。一人称、俺で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 草は暗い土の中から芽を出し、光を求めて成長していく。外の世界に出た草は、太陽の光や雨、踏まれること、虫に食べられることなど、さまざまな試練を経験し生き抜こうとする。最終的には寒さに耐えきれず、枯れてしまう運命に直面しますが、再び目を覚まし、草の生涯が一巡し、新たなはじまりを感じさせて終わる。


 くっっっらの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どんな関わりを持ち、どんな結末に至るのか興味が湧く。

 書き出しは、主人公の叫びからはじまっているのが面白い。

 遠景で暗さを示し、近景で、自分がどこにいてどんな感じかを示し、心情で、少し上に光を感じて外に出れる、暗い世界からおさらばだと語る。

 暗さやジメジメした感じの気持ち悪い状況にいる主人公が可哀想に思えるし、それでいて、光を感じ取って、希望を見つけ、栄養があることに気付いて根を伸ばしていこうとする感じから、死中に活を見出す主人公の姿に、共感を抱く。


 草の視点から語られることで、新鮮で興味深く、独特な感じが面白さを生んでいて実にいい。草の感情や経験を直接感じることができて、面白い。長い文にせず、改行し、一文も短くテンポよく進むため、読みやすい。草の語り口はカジュアルで親しみやすく、ユーモラスな表現も多い。

  五感を使った描写が豊富で、草の経験をリアルに感じることができるのも魅力になっている。

 視覚では、暗い土の中や眩しい光、赤く色づく木の葉など、視覚的な描写が豊富。触覚はジメッとした土、冷たい雨、灼けるような痛みなど、触覚的な描写が多い。聴覚はバッタの羽音、風の音、騒音などの描写に暑さや寒さといった感覚も加えられ、効果的に使われている。臭覚は、青臭い匂いなど少しある。味覚はないけれども、土にはかなり栄養があることが表現されている。

 もう少し、味覚の表現があってもいいかもしれない。 


 主人公の弱みは、環境への脆弱性。

 環境の変化に非常に敏感で、雨や日差し、踏まれることなどに弱い。また、自然の力や人間の行動に対して無力であることが強調されている。

 草は一つの場所から動けないため、どうしても受け身的にならざる得ない。主人公の性格や、これまでどのような行動を取ったか、直面している問題や葛藤にどう行動するのかは、予測しやすい。

 冬が来て枯れてしまう展開は想像できるとはいえ、やはり物悲しさがある。ラストの、冒頭に繋がる展開は、ちょっとしたサプライズ的に感じ、嬉しい読後感をもたらしてくれる。

 

 もう少しテーマやメッセージがあれば、より印象的な作品になるか気がする。それでも草の視点から描いたユニークな物語は独特で、五感を使った描写や感情の表現が非常に生き生きと描かれていた。

 草の気持ちって、こういう感じなのかと思わせてくれる作品は、キャラクターのおかげもあって、面白く読めてよかった。


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