宵篝
宵篝
作者 人類最弱
https://kakuyomu.jp/works/16818093081534385662
事故で記憶を失くした男が夏祭りの夜、探し求めていた人を追いかけ、花火が打ち上がる中で思い出し、最後に愛する人「華」の名を呼ぶ話。
文章の書き出しはひとマス下げるは気にしない。
現代ドラマ。
感情の変化や思い出の蘇りが丁寧に描かれ、詩的で美しい描写が印象的な作品。
主人公は、男性。一人称、僕で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。
女性神話の中心軌道に沿って書かれている。
主人公には愛する人がいたが、事故で愛する人を忘れてしまう。
夏祭りの夜。主人公は人混みの中で、名前もわからない探し求めていた人をみつけ、その人を追いかける。
向かった先は静寂に包まれた裏山の寺。
花火が打ち上げられる中、主人公は過去の思い出に浸る。愛する人との思い出が次々と蘇り、事故で記憶を失くしたこと、百八十五日の思い出が蘇り、最後にはその人の名前「華」を呼ぶ。
藍色の絵の具が空というキャンバスに塗り広げられたかのような深みのある夜空の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末に至るか気になる。
情景からはじまる書き出し。
カメラがズームされていくような、流れのある書き出しがいい。
遠景でどんな夜空かを描き、近景で下駄の音と、夏祭りの参道を描き、心情で、行き交う人の中から、探し求めていた人を見つける主人公。でも相手の名前はわからないと語る。
夏祭りという魅力ある場所に来ていて、探し求めていた人を追いかけている姿に人間味を感じ、だけど相手の名前がわからないところはかわいそうで、これらから主人公に共感する。
長い文にせず改行されているけれど、一文が長いものがある。
「藍色の絵の具が空というキャンバスに塗り広げられたかのような深みのある夜空」は、「空のキャンバスに、深みのある藍色の絵の具を塗り広げたような夜空」でもいい気がするけれども、おそらく藍色が大切なのだろう。
「藍色を塗りたぐった夜空」でもいい気がする。それでも「空というキャンバス」は大事なのかもしれない。
きっと、記憶を忘れた主人公は絵描きか、絵を描くことに関係することをしていたのかもしれない。
だから、作者は一文が長くても、この文章から書き出したのではと妄想する。
詩的で感傷的な文体。感情の変化が丁寧に描かれているところがいい。 花火の数をカウントすることで時間の経過と感情の変化を表現するのも印象的。
五感の描写、とくに視覚と聴覚を通じて情景を生き生きと描写している。視覚的刺激では、藍色の夜空や花火の華やかさ、仏殿の神々しさを、聴覚では、下駄の音や祭りの喧騒、花火の爆音などを描いている。
祭りだから触覚、嗅覚、味覚の描写を追加すると、さらに五感が豊かになるし、できると思う。それをしていないのは、花火の音である聴覚を際立たせたかったのかもしれない。
主人公の弱みは、愛する人との思い出を失ったこと。過去の記憶に囚われていること。
これらの弱みを抱えていたからこそ、夏祭りで探し求めていた人を見つけて追いかけ、思い出すという努力の構図を描いているのが、読み手にはわかりやすかっただろう。
主人公の思考や葛藤から、行動が予測できる。
忘れたことを思い出していき、事故で愛する人との思い出を失った流れは、想像できるかもしれないけれども予測外のことだったので、この展開は驚きをもたらすだろう。それよりも、「百八十五日間の思い出が蘇る」という具体的な数字を持ち出しているところが、よかった。これは予想外。
とはいえ、主人公の内面描写をもう少し詳しく書かれていたら、感情移入はしやすくなると考える。
でも読後感はよかった。
読み終えて、タイトルを見て、宵篝の明かりのおかげで、記憶を失くした主人公が、愛する人の元へとたどり着けたとする流れは、夜空の花火のごとく、綺麗だった。
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