天使の輪

天使の輪

作者 冷田かるぼ

https://kakuyomu.jp/works/16818093081251174302


 バスに乗って一人で祖父母の住む山奥の集落へ向かう廉は眠りに落ち、途中で乗ってきた女性に死んでるのは貴方の方よ」と言われる話。


 文章の書き出しはひとマス下げる、は気にしない。

 ホラー。

 五感を使った詳細な描写や、主人公の内面描写が優れており、緊張感ある展開が続く点がホラー作品として素晴らしい。


 三人称、廉視点で書かれた文体。シンプルでありながら、情景描写や感情描写、彼女の人物描写が豊かに書かれている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心起動に沿って書かれている。

 小学校三年生の廉は、母の言葉に釣られて一人で祖父母の住む山奥の集落へ向かう。バスの中で眠りに落ちた廉は、途中のバス停で乗ってきた不思議な女性に出会う。彼女の美しい黒髪と冷たい雰囲気に魅了されるが、彼女の言葉に驚かされる。彼女は「死んでるのは貴方の方よ」と言い、廉は自分の身体が消えていることに気づく。


 小学校に上がって三回目の夏休みの謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関わり、どんな結末を迎えるのか、気になる。

 遠景で小学千年生の夏休みを示し、近景で路線バスにのっている情景を描き、心情で母に言われたことを思い出す。


 長い文にせず、こまめに改行をしている。読点を入れたほうがいいような長い一文が目に付くが、短文と長文をつかって、リズムよくして感情を揺さぶるろところもある。方言を使い、口語的で、会話文からは登場人物の性格が伝わり、読みやすい。

 五感を使った詳細な描写、主人公の内面の葛藤や感情が丁寧に描かれており、情景や感情をよく伝えている。

 視覚的な刺激では、黒髪の女性の美しさ、バスの窓から見える暗い木々や狭い道、リュックのストラップなどが描かれ、聴覚では、虫の声やバスの揺れ、停車してドアが開く音、古びた機械音、彼女の笑い声など。触覚はバスの揺れや女性の冷たさが描かれている。


 本作のいいところは、 五感を使った描写が豊かなところや、不思議な女性との出会いや彼女の言葉による緊張感、廉の内面の葛藤や感情が丁寧に描かれているところ。これらから、読み手は共感が伝わってくる。。

  主人公の廉の弱みは、まだ小学三年生であり、一人での旅に対する不安や恐怖を感じていること。彼の強がりや母の言葉に影響されやすい点も弱みとして描かれている。

 そんな弱みから、黒背台のバス停から乗ってきた、前進黒尽くめの女性に対して不思議な印象をおぼえ、「髪の映す天使の輪はほんとうに誰かを天使にしてしまえるのではないか」では、本当の天使の輪ではなく、頭上から光が当たって反射してできる光沢のことだろう。非常に状態の良い髪に見られるもので、髪のお手入れが行き届いているのだろう。

 あるいは、彼女を天使だと思ったことを、間接的に表現したのかもしれない。少年にとって、彼女はこの世のものではないと感じ、この世の者ではない、だから死を連想し「……死んでるみたい」と口にしたと妄想する。

 ここまでは、彼の性格や葛藤などから予測がつく。

 でも、彼女の美しさに見とれ、「死んでるのは貴方の方よ」と言われる展開は予想外で、主人公の彼とともに驚かされる。しかもラストは、少年の体がなくなっているのだ。

 びっくりである。


 これほど五感描写をしていて、嗅覚や味覚の描写が少ない。描こうとすれば出来たと考えるけれど、それをしないのは、匂いや味は、生のイメージが強いからだと考える。

 あえて、生を感じるものを避けている気がする。

 バス停や彼女の描写がよく描けていたり、祖父母の家に一人で行くことになった経緯などは書かれているが、どんな路線バスなのか、といった描写をもう少し詳しく描かれていると、物語に入りやすくなるのではと想像する。

 本作にはLED照明で室内は明るく。熟練の運転士の運転データを基にしたブレーキのタイミングやカーブでのハンドル操作を最適化された自動運転システム、ダブルウイッシュボーン式の独立懸架サスペンションを採用し、路面の凸凹を吸収して快適な乗り心地を提供してくれる座席など、最新設備が搭載された環境に配慮した電気バスだと、物語の世界観に合わない。

 通路は板張りで、座席は固定シートで設計されてリクライニング機能もなく、背もたれの高さも低めのローバックシートの、古めかしいクラシックタイプのボンネットバスだと合う気がする。ちなみに、ボンネットバスにはクーラーはない。「エアコンがついているはずではあるのだがやはり空気は生ぬるい」とあるので、ボンネットバスではないのはわかる。

「転がる砂利などのせいか時折がこん、と揺れる車体」これは、バスのふるさではなく、悪路を表現していると思われる。でも、どんなバスに乗っているのかはわからない。

 そこは読者に想像してもらおうと、あえて書かなかったのかもしれない。


 それにしても廉は、いつ死んだのか?

 はっきり描かれていないが、物語の最後で彼が自分の身体を見たときにはもうなにもなかったことから、バスに乗る前、もしくはバスに乗って寝ている間に死んだのかもしれない。

 そもそも、乗った路線バスが祖父母の家に向かっているものではなく、あの世行きのバスだった可能性が考えられる。

 はじめて一人でバスに乗った廉は、乗車するバスを間違えてしまったのかもしれない。

 ところで、彼女は何者だったのだろう。

 彼女の特徴や行動から、幽霊や霊的な存在である可能性が高い。

 そもそも、この出来事が廉の夢の中で起こっている可能性も考えられる。彼がバスの中でうとうとしていたことから、夢の中でこのような不思議な体験をしているのかもしれない。

 ひょっとしたら、母の言葉に釣られて一人で祖父母の家に向かうことになり、一人で遠出する不安や恐怖が見せた夢。

 それが本作かもしれない。

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