見知らぬ推しは、オリコン上位をかっさらう?!~コッソリ、推しの友達目指します!!~

見知らぬ推しは、オリコン上位をかっさらう?!~コッソリ、推しの友達目指します!!~

作者 ミコトノリ812

https://kakuyomu.jp/works/16817330665148050817


 通学路の空き地から聞こえる歌声の主に魅了されていた主人公は、遅れて登校するクラスメイトの「あいつ」が歌声の主で、最近オリコン一位のショタ系歌手で有名なツルガと知り、ファンとなり推し活がはじまる話。


 文章の書き方は気にしない。

 現代ドラマ。

 展開や主人公のキャラが面白い。


 主人公は、おそらく女子学生。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。

 

 女性神話の中心起動に沿って書かれている。

 主人公のクラスに、いつも遅れて登校してくるのに先生は「いいよ」というだけ。そんなクラスメイトの「あいつ」がいる。誰かと話すところも見たことがなかった。

 主人公は毎朝通学路にある空き地近くから聞こえる澄んだ歌声に魅了され、その歌声の主を探し続けるが、見つけることができず、歌声の主を妖精のように感じ、毎日の投稿が楽しみになっていた。

 ある日、クラスメートのイケメンの「あいつ」が遅れて登校するのを見て、彼に対する不満を抱き、帰りは「あいつ」を尾行することに。

 帰り道が途中まで一緒。脳裏に、歌声のあの人がちらつく。空き地の奥に古い神社があり、階段を登っていく。杉の木に隠れなが見ていると、彼が歌声の主であることを知り、驚きと混乱の中で逃げ出す。石に躓いて転び、「大丈夫?」と声をかけられるもなにも答えず、嘘だと叫びながら逃げた。

 暑い中窓開けないでわーわー騒いだ挙句、賞味期限が一週間も過ぎてるヨーグルトを食べた翌日、食中毒で学校を休む。

「友達が持って来てくれたよ〜」母からのLINEで階下に降りると、「あいつ」からの手紙と揚げパン。一緒に入っていた手紙から、彼が実は有名な歌手であることを知る。検索すると、素顔と年齢不詳で、紙袋の仮面がチャームポイントのショタ系歌手で有名な、最近オリコン一位のツルガさんだった。

 主人公は彼のファンになり、はじめて推しができた物語。


 いつも聞こえる澄んだ歌声の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どう関係し、どのような結末に至るのか、実に興味深い。


 書き出しが聴覚の描写からはじまっている。

 遠景で、いつも聞こえる澄んだ歌声を示し、近景で、いつどこで聞こえるのかを示し、心情で「誰の声?」と感想を述べている。

 主人公の疑問を追いかけるように、読み手も興味を持って読み進めていく。

 

 聞こえてくる歌声に登校を楽しみにする主人公に憧れを感じ、相手が誰なのかを妄想するあたりは人間味を感じ、クラスメイトの「あいつ」がやってきて、気分がしぼんでいくところはかわいそうに感じる。主人公の心の揺れ動きから、共感していく。

 

 本作のいいところは、主人公の感情の動きがリアルで共感しやすく書かれている点や、ミステリアスな「あいつ」の正体が明かされる展開が興味深いところ。


 長い文ではなくこまめに改行し、一文も短く、短文と長文を組み合わせてリズムよく、感情を揺さぶってくる。

 口語的で、軽快で読みやすい文体。主人公の視点で物語が進行し、主人公の内面の独白が多く、感情の動きがリアルに伝わる。ユーモアとシリアスがバランスよく混ざっているのが特徴で、面白みを生んでいるところが良い。

 五感の描写が豊かで、物語世界に引き込んでいる。

 視覚では、主人公が「あいつ」を尾行するシーンや、古い神社の描写が描かれている。聴覚は、澄んだ歌声や、主人公が「あいつ」の歌声を聞くシーンが印象的。触覚は、主人公が石で転ぶシーンや、食中毒で体調が悪くなるシーンで強調されている。味覚はとくにないが、食中毒の原因となったヨーグルトの描写がある。


 主人公の弱みは、好奇心が強く、時折無鉄砲な行動を取ること。感情の起伏が激しく、「あいつ」に対する感情が複雑。食中毒を起こすなど、体調管理が甘いことがあげられる。

 考えるよりも先に行動してしまうような印象があり、「あいつ」を尾行して、ショックを受けて転んでしまい、彼に心配されるも、走って逃げ、「ウソだ、ウソだ、ウソだ〜!!!」と周りの目も気にせず走りながら叫ぶところは、主人公らしさがよく出ていて、かわいそうに思いながらも笑ってしまう。ここまでは、これまで描かれてきた主人公の性格や過去の行動、葛藤などから予測はつく。

 食中毒になるのは、意表を突かれた。

 さらに、彼から手紙と揚げパンが届けられたことが、更に驚かされた。おまけに手紙の内容から、彼が歌手だということ、しかもオリコン一位のツルガと知る、次から次へと明かされる展開は、驚きとともに興奮を覚える。

 緊張が壊れてからの、真相が次々明るみになる流れは、盛り上がるし、主人公のキャラクターが生かされてて面白い。


 ただ、主人公の内面の独白が多いため、周りの情景があまり見えてこない。主人公の性別や年齢、学年は? ツルガさんだった「あいつ」の外見描写もないので、「あのショタ系歌手で有名な?! 素顔イケメンっておかしいでしょ」と書かれても、彼はイケメンだったのかなと首を傾げてしまう。遅れて教室に来て先生に「いいよ、いいよ」と言われているだけで、毛嫌いしているけれど、他にも理由があったのかもしれないけどわからない。他のキャラクターとの対話があると、さらなる深みが増したかもしれない。

 

 だけど、全体的に、主人公の成長とミステリアスな展開が魅力的で面白かった。このあとどうなるのか、主人公と一緒に読んでみたいと思わせる読後感だった。

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