純白なるあなたへ

純白なるあなたへ

作者 やどくが

https://kakuyomu.jp/works/16818093081933252489


 白い人と呼ぶあなたのことを思い、死後、自然の一部となり主人公に光を届ける存在になったと感じる話。


 現代ドラマ✕ファンタジー。

 白の象徴、概念をテーマに表現した独特な作品。

 感情豊かで美しい物語である。


 主人公は、かわいいこ、と呼ばれた若い女性。一人称、私で書かれた文体。自分語りの実況中継で綴られている。現在、過去、未来の順に書かれている。また、恋愛ものなので、出会い→深め合い→不安→トラブル→ライバル→別れ→結末の流れに準じている。


 それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感するタイプの中心軌道に沿って書かれている。

 主人公は「白い人」と呼ぶ人物との思い出を回想する。「白い人」は、物理的にも概念的にも純白であり、主人公にとって特別な存在。相手との夏の思い出や、病院での最後の瞬間が描かれ、相手の死後もなお主人公の心に深く刻まれている。

 白い人の死後、主人公は自然の一部として再び現れることを信じ、あんなに遠いところから光を届ける存在になったと感じるのだった。


 白い人の謎と、主人公に起こる様々な出来事の謎が、どのように関係し、どんな結末に至るか気になる。

 書き出しが印象的。

 遠景の冒頭導入は客観的表現で描かれている。近景では、物理的、概念的比喩で、白い人を喩え、心情で相手から自分が選ばれたときの嬉しさを語っている。自身の感情にも、白を貴重とした比喩を用い、背徳と劣等感、恐怖を抱いたことを綴っている。

 平たくいえば、白い人と呼ぶ素敵な人に選ばれて嬉しい反面、自分でいいのかと怯えてしまっている。そんな主人公に同情するし、人間味も感じる。

 そんな主人公は、子供を寝かしつける。

 誰もが望むような魅力を感じ、そんな白い人に選ばれた主人公に憧れを抱き、読み手は共感していく。

 

 長い文にならないよう、三行くらいで改行し、一文は短く句読点で区切っている。短文と長文の組み合わせでリスムとテンポよくして、感情を揺さぶってくる。ときに口語的で、会話を挟み、読みやすくしている。 詩的で美しい表現が多く、主人公の複雑な感情が丁寧に描かれている。比喩や象徴が多用されているのが特徴で、特に「白」が象徴的に使われている。

 五感の描写では、視覚や聴覚、触覚を効果的に使い、読者に鮮明なイメージを届けている。

 視覚では、「絹糸をそのままあしらったような長い髪」「真冬の銀世界を映したような丸い瞳」「太陽がさんさんと降り注ぐ向日葵畑」など、視覚的な描写が豊富。聴覚は「降る雪のような声」「歌を口ずさむような声」など、音の描写も効果的に使われ、触覚では「手のひらで溶けていく雪」「小さな手が、私の日に焼けた手を弱々しく握っていた」、綿菓子を食べる場面などの描写もある。

 

「白い人」について、白を象徴的に表現している。

 白い人は、物理的に白い髪、滑らかな肌、丸い瞳を持ち、概念的には、純粋で清らかな声と行動を持つ人物。

 主人公が白い人に選ばれた喜びとともに、背徳感や劣等感、恐怖感を抱く際、白を用いた表現がされている。

 思い出では、引き立てるために葉の緑、空の青、向日葵の黄色を持ち出し、夏の向日葵畑や七夕の夜、夏祭りが描かれる。

 別れでは、白い人が病院で亡くなるシーン。死後も雪や花、月となって主人公に会いに来ると語る。

 葬儀では、白い人の遺骨を土に埋め、煙となって空へ昇る描写。

 白い人はあるべき所に還ったあと、白は光の色であり、天上や地下のものとして描かれる。


 主人公の弱みは、「白い人」に対して強い愛情と同時に劣等感や恐怖を感じていること。

 相手の純白さに対する背徳感や、失うことへの恐怖が描かれている。

 回想シーンが多く、現在の出来事や主人公の行動が曖昧に感じるだけでなく、主人公にとって「白い人」がなぜ特別なのか、その背景をもう少し詳しく描かれていると、さらに深みがますかもしれない。

 

 本作を読み終えて、ふと、お釈迦様が仰った「世間を空なりと観ぜよ」を思い出す。お経の至るところに空が説かれ、般若経典の一つ『般若心経』の「色即是空」なども有名。二世紀後半、中観派の開祖、龍樹菩薩が空を理論的に解明した『中論』がある

 彼の哲学は「一つが全、全は一つ」であり、全ての物や人間関係は、その存在が相互に依存して成立し、その全てがフィクションである考え方を持っている。お釈迦様は「全ては縁起という縁のつながり」と仰った。

 白い人は、主人公にとって世界そのもの。

 亡くなった後も主人公は、自分と世界である白い人を一つに感じているのだ。どこにもいないけれども、どこにでもいる。

 いつも暖かく見守ってくれている。

 背徳感や恐怖を克服し、いまやなにも恐れを抱いていないに違いない。

 白い人がいったよう、怖がることもさみしいこともないのだと知ったと思うから。


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